ゲームバラエティそのものにスポットを当てると、最大の強みは現在、民放各局が最も求めるコア層の個人視聴率獲得が期待できること。特に『逃走中』がそうであるように、若年層やファミリー層から支持を得やすく、成功させられればスポンサー収入につながりやすい。
それは裏を返せば、「ゲームは老若男女が理解できるわかりやすさが求められる」ということ。その点、『音が出たら負け』は番組名もゲームのコンセプトも幼児ですらわかるレベル。そのため年齢や性別だけでなく、頭の良さ、身体能力、トーク力なども不問で、活動ジャンルを超えて幅広くキャスティングできることが強みだ。
実際、今回の放送でも、若手女優の吉川愛、志田彩良、山下美月、生見愛瑠から、アイドルのなにわ男子、&TEAM、M!LK、FRUITS ZIPPER、芸人のオードリー・春日俊彰、マヂカルラブリー、ハナコ、やす子、若手アーティストのヤングスキニー、声優の宮野真守、人気子役の永尾柚乃、八村塁の弟・八村阿蓮、長州力、中澤佑二、和泉元彌、富栄ドラム、安斉星来など総勢54人がゲームに挑んだ。
それぞれのファンが視聴率の確保につながるほか、「成功か失敗か」とハラハラドキドキしながら見るためSNSの反響も期待大。真剣な顔から、笑顔、悔しい顔などのさまざまな表情が見られること、さらにクイズ番組などより映像に動きがあることもゲームバラエティの魅力と言っていいだろう。
次に日テレの特番そのものに注目すると、これといったものがないことに気づかされる。レギュラー放送のバラエティは他局を上回っている反面、特番は視聴率が獲れないという状態が続いてきた。
特に今夏は一昨年、昨年とお盆に高視聴率を記録した『ダウンタウンvs Z世代』が松本人志の活動休止により放送が見送られるという逆境もあり、1つでも新たなヒット特番が欲しいところではないか。
なかなか成功しないゲームバラエティ
確かに『逃走中』は大みそか特番が定番化したほか、映画も現在公開中など、一定以上の成功をしていると言っていいかもしれない。
また、80年代から90年代にかけて『痛快なりゆき番組 風雲!たけし城』(TBS)、『関口宏の東京フレンドパーク』(TBS)、『ウッチャンナンチャンの炎のチャレンジャー』(テレビ朝日)など、ゲームバラエティが絶大な人気を得たときもあった。「当時のように再び家族そろってテレビを見てもらうためにゲームバラエティで勝負したい」という狙いは理解できる。
ただ、「本当に成功したゲームバラエティはどれくらいあるのか」と言えばかなりあやしい。主なものだけを挙げていくと、フジはドッジボールがベースの『戦闘中』、しっぽ取りゲームの『モノノケハント』、水上アスレチックの『水上サバイバル オチルナ』、TBSはレギュラー放送もした音楽ゲームの『オトラクション』、シューティングゲームの『THE鬼タイジ』など、いずれも成功したとは言いづらいところがある。
その意味で『音を出したら負け』の復活は、「テレビマンのゲームバラエティに対する過大評価」という感が否めない。「ゲームバラエティでなければ若年層やファミリー層を引きつけられないのか」と言えば決してそんなことはないだろう。
もともと平成時代からゲームバラエティにはアンチも多く、「くだらない」「絶対に見ない」とまで言い切る人も少なくなかった。だからこそ3年半もの時を経ての復活は、企画力に対する自信のなさを感じてしまう。
しかし、現在最も成功を収めている『新しいカギ』(フジ)の「学校かくれんぼ」のように一般人が参加できるゲームなら支持を集められるのではないか。前述した『たけし城』や『炎のチャレンジャー』も一般人が参加できたからこそ人気を得た感があった。視聴率獲得という点で芸能人の存在は欠かせないが、一般人と共存できるゲームバラエティがあれば「学校かくれんぼ」同様にヒットするかもしれない。