アナウンサー本人たちの意識が変わったことも、休演しやすいようになった背景の1つだろう。

平成初期、フジテレビと日本テレビを中心に女子アナブームが巻き起こり、アイドルと同等レベルの人気を獲得した。華やかなポジションとしてもてはやされ、引っ張りだこの状態になったが、一方で局内外の競争はし烈化。「30歳定年説」がささやかれたほか、他部署への異動を左遷のようにみなされるなどの難しさもあり、心身ともに過酷な状態に置かれていた。

しかし、ここ数年は情報番組の現場やアナウンス室/部の雰囲気を取材しても、以前ほどのバチバチとしたポジション争いは感じない。それどころか、「女子アナ」というポジションに固執せず、ポジションやキャリアにしばられない人の多さを感じさせられる。

50代に入ってなお局アナとして活躍するベテランがいれば、自分のペースで活動するフリーアナもいて、なかには女優やマルチタレントとして活躍する人もいる。さらに、全く別分野のキャリアを歩み始める人もいるなど、彼女たちの選択肢は明らかに増えた。

例を挙げていくと、田中みな実(元TBS)の成功以降、宇垣美里(元TBS)、鷲見玲奈(元テレ東)、森香澄(元テレ東)など、「早期退職してバラエティとドラマで活躍」が1つのキャリアプランとして確立。また、久代萌美(元フジ)は他部署への異動後に退職して吉本興業に所属し、久慈暁子(元フジ)も退職して大学時代に所属していた芸能事務所に戻るなど、どちらも型にとらわれることなくマルチな活躍を見せている。

その他でも、笹川友里(元TBS)はモデルや実業家に、伊東楓(元TBS)は絵本作家に転身し、大木優紀(元テレ朝)はベンチャー企業に転職。「局アナとして生き残り続ける」ことや「フリーアナとして活躍する」という道を選ばず、「女子アナであり続けたい」という執着を感じさせないタイプが増えている。それどころか、「女子アナという経歴をスキル獲得やキャリアアップのステップとして考えている人もいる」という。

また、何人かのアナウンサーから「以前より給料が下がった」という話も聞いたことがある。それも「アナウンサーより、マルチタレントやインフルエンサーのほうが稼げる」などと考える人が増えた理由の1つかもしれない。

  • 田中みな実、宇垣美里、森香澄、鷲見玲奈

    幅広いジャンルで活躍する元局アナたち(左上から時計回りに 田中みな実、宇垣美里、森香澄、鷲見玲奈

■会社への信頼性が上がっている

逆に局側としては、時間と労力をかけて採用試験を行い、研修や現場で地道に教育し、チャンスを与えて経験を積ませたのに、「数年であっさり退職されてしまう」というケースが増えているのがつらいところ。

そのためか、学生時代から芸能活動を行い、カメラ慣れしているほか、ビジュアルが洗練されていて1~2年目から活躍できそうな人材を採用するケースがよく見られる。しかし、そんな即戦力に近い芸能活動経験者ほど“女子アナ”への執着はなく、結局、早期退職するという人も目立つなど、テレビ局側の悩みは改善されていない。

最後にもう1つふれておきたいのは、局側の女子アナに対するサポートの意識が高まっていること。オフレコ条件の話なので名前は挙げられないが、あるベテランアナウンサーが「妊娠・出産・子育てなどのワークライフバランスや、異動・留学・資格取得などのキャリアアップへのサポートは以前とは比べものにならないほど高まっている」と言っていた。

これは、「自らが勤めるテレビ局への信頼性が上がっている」ということではないか。もし「レギュラー番組を体調不良で休んだくらいで評価を下げられることはない」という安心感が「無理をせずに休もう」という現在の状況につながっているとしたら、「女子アナの労働環境は改善され始めている」と言っていいだろう。

ただ、「体調不良の際は休みを申告できるし、企業も休ませるべき」という考え方は、一般社会の常識であり、テレビ局もようやくそれに近づいてきたというだけなのかもしれない。