『有吉の壁』でもう1つ特筆すべきは、ゴールデン帯のレギュラー化によって有吉のキャラクターが変わったこと。

特番時代の有吉は「芸人の底力を引き出すために無茶振りし、厳しめの言動で接する」という振る舞いが目立っていた。「MCの非情な言動で笑いを集める」というコンセプトでは『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ』(日テレ系)におけるビートたけしのような存在だったと言っていいかもしれない。

しかし、レギュラー化に伴い、有吉の姿は少しずつ変わっていった。特に、とにかく明るい安村、タイムマシーン3号、三四郎らブレイクしそこねた中堅芸人に向けられる視線は優しく、彼らにチャンスを与え、見守るような姿が目立っている。

そんな有吉の姿は『内村プロデュース』(テレ朝系)における内村光良のような温かさがあり、ジワジワと好感度を上げていった。番組ファンの小中学生には毒舌が売りの芸人であることを知らない人も多いという。

この変化の背景としては、レギュラー放送開始から約1年後に結婚し、その後2児の父親になったことが大きいのかもしれない。ただ、同様に多くの後輩を支える『有吉の壁』という番組の存在が大きかったのではないか。有吉は他番組でも穏やかな言動が増えたほか、23年から3年連続で『NHK紅白歌合戦』の司会を務めるなど、『有吉の壁』レギュラー化が国民的MC誕生のきっかけになった感がある。

ところが『有吉の壁』は視聴者からも業界内からも評価されながらも、あとに続く番組が現れないまま、レギュラー放送を終えることになった。最大の要因はビジネスモデルと視聴者の行動がマッチしないからだろう。

制作力・影響力を生かせないジレンマ

一般の人々だけでなくメディアも「テレビ離れ」というフレーズをよく使うが、どうもしっくりこない。放送中のドラマ『VIVANT』(TBS系)にしても、『M-1グランプリ』にしても、『紅白歌合戦』にしても、最も記事化され、SNSのコメントが飛び交うのはテレビ番組であり、TVerなどの配信再生を見ても増え続けている。スポーツを見ても地上波放送なしのWBCより放送ありのサッカーワールドカップのほうが世間の盛り上がりが感じられた。

つまりテレビは制作力も影響力もコンテンツ産業の中ではトップの力があるが、それを存分に生かせていない状態ということ。コネクテッドTVの普及で配信視聴が中高年層にも広がり、見たい時に、見たい場所で、見たいものを見る人が増える一方の今なおリアルタイム視聴をベースにしたビジネスを続けていることが、制作力と影響力を生かせない元凶となり続けている。

とりわけ制作力については、テレビ業界からNetflixなど有料動画配信サービスへの人材流出が続いていることからもそれがわかるだろう。『有吉の壁』にかかわるスタッフと芸人はそんなビジネスモデルと視聴者の行動がマッチしない現状の犠牲者と言っていいかもしれない。

レギュラー最終回の最後には、地上波の年末特番に加え、Huluオリジナルコンテンツを年内に独占配信することを発表した。今後は特番として存在感を保ちながら、有料配信でも利益を得ていくのだろうが、「はたして番組関係者と視聴者にとってそれが本当に幸せな形なのか」と言えば疑問が残る。

今春のWBCを見ても日本人はまだまだ有料配信へのアレルギーを抱える人が多く、よりたくさんの人々に見てもらえるコンテンツは地上波がフィットするのだろう。さらに『有吉の壁』は自由になるお金の少ない若年層のファンも多いだけに、有料配信はせっかくつかんだ彼らを置き去りにしてしまう危険性がある。

日テレにしてみれば稼げるのなら地上波放送でも、有料配信でもいいのかもしれないが、今回の決断で日テレ、ひいてはテレビそのものから離れるファンがいても増えるファンはほとんどいないのではないか。

ともあれ、レギュラー放送終了が発表されたときから何度か「ロス」の声があがるほどの番組を手がけたスタッフと芸人には「おつかれさまでした」の声をかけてほしいところだ。