ロシアによるウクライナ侵攻から3ケ月が経過するが、日露関係は冷戦終結後最悪なレベルにまで冷え込み、岸田政権は対中国で米国との結束をこれまでになく強めている。

5月にはバイデン大統領の訪日に合わせる形で日米豪印によるクアッド首脳会合も開催され、6兆円規模の途上国へのインフラ支援が発表されるなど中国の一帯一路に対抗する政策が発表された。中国との戦略的競争は今後いっそう激しくなることだろう。

ロシアによる極東地域での軍事活動

日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。クアッド首脳会合が開催された5月24日、中国とロシアの爆撃機が一緒になって日本周辺の日本海や東シナ海、西太平洋上空で飛行している姿が確認された。

中露に日米をけん制する目的があったことは間違いなく、昨年10月にもロシアと中国の複数の駆逐艦が津軽海峡から太平洋を南下し、大隅海峡あたりまで航行したり、極東ウラジオストク沖の日本海で4日間にわたって合同軍事演習を実施したりしている。

ロシアはウクライナ侵攻以降、極東沖の日本海や北方領土の国後島などで軍事訓練を行っており、日露関係が冷え込む中、北海道東部沿岸で漁業を営む人々の間では今後ロシアによる軍事活動がエスカレートするのではと不安の声が広がっているという。

しかし、ウクライナ情勢で最近になってロシア軍の劣勢も顕著に見られるように、ロシアが極東や北方領土で軍事的プレゼンスを強化することはマンパワー的に難しいと思われる。ロシアも日本が軍事的に米国の勢力圏に入っていることは熟知しており、過剰な行動はできるだけ控えることだろう。

台湾の有事は日本と密接に関わる

それ以上に不安視されるのが、やはり中国の動向だ。中国船による尖閣諸島周辺の日本の領海侵入は常態化し、昨今は台湾への威嚇を強めている。5月30日にも、中国軍の戦闘機や電子偵察機、早期警戒機など延べ30機が台湾南西部の防空識別圏に進入したが、1日に進入した中国軍機の数としては1月23日の39機に次ぐ多さとなった。

また、台湾の蔡英文総統が5月31日に米国の上院議員団と会談した際、中国軍は台湾周辺の海域と空域で軍事パトロールを実施したと明らかにした。

台湾と100キロあまりしか離れていない沖縄県・与那国島の漁業組合によると、最近になって台湾軍が軍事演習する姿が目撃されており、仮に台湾有事となった場合、戦渦に巻き込まれるのではないかと不安を強めているという。

筆者は依然安全保障の仕事で石垣島の漁業組合と会合を持ったが、石垣島の漁師でさえ中国船に近づけない、怖いとの認識を示しており、与那国の漁師が抱く不安は相当なものだろう。

バイデン大統領は5月に訪日した際、台湾有事で米軍は関与するのかと尋ねられると、明確にイエスと答えた。しかし、台湾有事に米軍が関与するとなれば、それは必然的に距離的にも近い在沖縄米軍が台湾に向かうことになる。そうなれば、中国から米軍基地が攻撃を受けることは想像に難くなく、要はその時点で日本の領土が攻撃されたことになる。

台湾有事は日本の安全保障と切っても切れない関係にあり、それが発生する可能性がある以上、日本は引き続き厳しい安全保障環境に直面することになろう。

現時点で国民に大きな影響は出ていないが、今日商品の値上げが相次いでいるように、台湾有事や日中衝突となれば経済や貿易への影響はこれまで以上に拡大する恐れがある。