テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、コンサルティング会社と会計事務所の代表を務め、スタートアップを中心に会計面・資金調達面からサポートを行っている岡野貴幸氏が、「電子帳簿保存」について解説します。

  • 「電子帳簿保存法」について


「電子帳簿保存」という言葉を聞いたことがある人は多いと思いますが、実践している会社はほぼないと言っていいのではないでしょうか。

その理由として、依頼している税理士が対応していない、自身で調べるには複雑で良く分からないという点が大部分ではないかと考えています。というのも、私自身も導入したいと思いながら、いくつか障害となっており、クライアントに提案することが出来ないでいたからです。

しかし、2020年12月10日に公表された令和3年度(2021年度)の税制改正大綱で電子帳簿保存法が改正され、2022年1月1日以降、より使い勝手が良くなります。これまでも電子帳簿保存法は何度も改正が繰り返され、その度に使いやすくなったもののそれでもまだ実務ではほとんど使われてきませんでした。

ただし、今回の改正の内容は世の中の大きな変化もありテレワークの推進等を推し進めていくためにも制度を普及されていきたい政府の意図が強く出ていると感じます。導入をしやすくなったことにより、今度こそ制度を利用する会社や個人が増え世の中に普及していくのではないかと予想されます。

今までなぜ実務で導入されてこなかったのか、また今回の改正ではそれがどのように変わるのかをみていきましょう。なお、細かな制度の詳細ではなく、実際に実務に触れている中で感じていた点を中心に記載します。

実務で導入する上で感じる大きなハードルとは

はじめに、現状の電子帳簿保存法で出来ることを簡単にまとめていきましょう。
・総勘定元帳、仕訳帳を電子で保存可能。
・電子取引に該当するものは領収等が不要。
・受領した領収書について、スマートフォンで撮影したデータも保存可能。ただし、タイムスタンプにより電子的に承認が行われていなければならない。

これだけ聞くと利用したいと思いますよね。しかし、実際導入するには下記のようはハードルがありました。このハードルは実務を行っている中で強く感じることです。

ハードル1.税務署に対して、利用開始をする3カ月前に届出を行わなければならない。また、その届出の内容が煩雑

これは始めようとした時にかなり障壁になると感じる事項です。始める際に、すぐに利用をして、実務でやりながら修正を繰り返し徐々にやり方を構築していく形で進めたい会社がほとんどだと思います。にもかかわらず、3カ月先からでないと始めることが出来ないという点は、進めようとする熱が冷めてしまいます。

また、その届出の作成自体が結構手間がかかります。そのためスタートアップの会社だとその作成の負担のほうが大きく感じてしまうのです。税務署への届出という形式面ではありますが、これがまず立ちはだかる大きな壁となっていました。

ハードル2.紙で受領した領収書に関して、電子での保存のみとするには要件が厳しかった

まず導入の障害となった点として、タイムスタンプのルールがありました。タイムスタンプとは、ある時刻に電子データが存在していたことを証明する技術のことで、これを押すことにより電子データが改ざんされないということを担保するものです。

このタイムスタンプの付与のルールとして、領収書を受領した本人がスキャン等で読み取る場合、領収書原本に自署すること、受領から3日以内にタイムスタンプの付与をすることというルールがありました。受領から3日以内というのはハードルがとても高い事項です。日々、領収書を受領したスキャンするということを行わなければなりません。

また、これを行えば領収書原本を破棄出来るかというと、それは出来ず、1年に1回以上、各自事務に係る処理の内容を確認する定期検査を実施し、検査が完了するまで原本を破棄してはならないというルールになっています。

2022年1月1日以降の大きな変更点は

2022年1月1日以降の大きな変更点としては、税務署への届出がなくなることです。届出がなくなることにより、いつからでも電子帳簿保存が始められるようになります。これは最も大きな障壁となっていた事項が解消されると言えるでしょう。

タイムスタンプのルール、定期検査についても大きく要件が緩和されます。まず、領収書を受領した本人がスキャン等で読み取る場合、領収書原本に自署することが不要となります。加えてタイムスタンプの付与期間がこれまでは3日以内だったものが、最長2カ月となります。さらに1年に1回以上とされていた定期検査も廃止されます。

この改正により、電子帳簿保存が大きく推進しそうです。改正まであと1年弱ありますが、各社準備を進めていくと大きく業務が効率化することでしょう。