テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、コンサルティング会社と会計事務所の代表を務め、スタートアップを中心に会計面・資金調達面からサポートを行っている岡野貴幸氏が、「IPOを目指す会社の会計」について解説します。

  • IPOを目指す会社の会計は?


上場を目指す前は、多くの企業が「税務会計」で決算書を作成しています。一方で上場を目指す会社は、「財務会計」をベースとした決算書を作成しなければなりません。一見同じような言葉であり何が異なるか分かりづらいですが、ここには大きな差があり、上場を目指す際の大きなハードルとなります。

財務会計をベースとした決算書を作成することは、上場していない会社でも、より経営の実態を把握するために役立ちます。本稿では、税務会計と財務会計の違いや、それぞれの必要性を考えてみましょう。

税務会計と財務会計の違い

税務会計と財務会計の違いとは何でしょうか。税務会計とは企業の課税されるべき所得額を算出するための会計です。単純に言ってしまうと、会社が国及び地方自治体に納める法人税を計算するために行っているものです。

そのため税務会計を作成する上のルールは法人税法となります。会社は1年に一度決算書を作成しなければならないですが、未上場の会社は法人税の計算をするために決算書を作成しています。

一方で、財務会計とは、企業会計原則をはじめとした各種会計基準等に基づいて作成され、投資家をはじめとする企業の利害関係者に対して提供することを目的としています。作成する目的は、企業の外部の人に財政状態、経営成績などの情報を提供するためです。

財務会計を作成する上のルールは企業会計基準となります。より実態を表すことが求められており、上場会社は財務会計での決算書作成が必要となります。

目的が異なることによる大きな違い

税務会計と財務会計は作成の目的が異なることにより大きな違いが生じます。税務会計は法人税の課税するための所得を計算することが目的であるため費用を計上するにあたり、実現しているか、売上の獲得に貢献しているかという点が厳しく定められており、所得が少なく計上されることがないようになっています。なぜなら、法人税は所得金額に税率を掛けて計算するため、所得が少なく計上されると法人税額が少なくなってしまうからです。

一方で、財務会計の目的は企業の外部の人に財政状態、経営成績などの情報を提供することであるため、利益が過大に計上されることがないように厳しく定められています。

費用は実現していなくても、発生する見込みが高ければ計上することが必要です。なぜなら、外部関係者に報告する利益が実際よりも大きくなっていると、外部関係者に誤った判断をさせてしまうからです。

上場をしている会社は、会社と関係性の薄い人が多くその会社の株式を売買します。そのため会社の実態を適切に表すことが求められ、財務会計での決算書の作成が必要というわけです。

例えば、売掛金を有しているが相手先からの入金がなく、その後も入金される目途がたっていない場合、まだ回収できないことが確定した訳ではないですが、財務会計では売掛金の全額もしくは一部を貸倒引当金として費用に計上しなければなりません。

一方、税務会計の場合は、まだ確定していませんので、相手先が倒産状態にあるか等、要件が定められており、それに該当しなければ費用を計上することは出来ません。

IPOを目指す会社の場合

IPOを目指す会社の場合、上場前の2会計期間は監査法人の監査を受ける必要があります。この期間で上場会社と同様、財務会計での決算書が適切に作成されていることの意見をもらわなければなりません。

上場準備期間に入る前は多くの会社で税務会計にて決算書を作成しています。そのため財務会計への修正が必要となり、この修正作業に膨大な時間と労力がかかるケースが多々あります。

IPOを考えている会社へのお勧めは、上場準備期間に入る前から、出来るだけ財務会計にて決算書を作成しておくことです。財務会計を作成するのは大変ではありますが、一度税務会計で作っているものを直すよりは労力がかからずに済みます。また、財務会計のほうが会社の実態を表した決算書が出来るため、自社の正確な利益を把握することにも役立ちます。

財務会計での決算書の作成は専門知識が必要な分野です。IPOを考えている場合は、早い段階で専門家に一度相談してみてはいかがでしょうか。