テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、コンサルティング会社と会計事務所の代表を務め、スタートアップを中心に会計面・資金調達面からサポートを行っている岡野貴幸氏が「スタートアップの資金調達」について解説します。
私の親は税理士で、3代続く税理士事務所の所長をしています。その影響で高校生ぐらいから公認会計士もしくは税理士という資格を意識していました。いずれ自分も資格を取り、事務所を引き継ぐのだろうなと、何となくですが思っていました。
しかしいざ資格を取得してからは、大手監査法人勤務を経て、親の事務所とは全く関係なく会計事務所を開業。顧客ゼロからのスタートでした。今思い返せばよく決断したなと思いますが、当時はあまり深く考えず、新しい会計事務所の形にチャレンジしたいという思いのみで開業しました。
最初は顧客がなく苦労しましたが、クラウド会計ソフトを利用した効率的な会計業務に特化し、顧客も徐々に増加していきました。この時に、顧客の求めているものは何か? ということを徹底的に考えました。自ら開業して良かったと思う点に、この時の経験があります。
資金調達の種類
クラウドの会計に特化し顧客を増やしていったので、スタートアップ企業で、資金を必要としている会社が多くなりました。まず皆さんが最初に考えるのが「銀行借入れ」です。この銀行借入れに関しても様々な方法があります。
次に、銀行借入れではなく、個人もしくは法人から直接借入れを行う方法として、「少人数私募債」というやり方があります。そして最後に、「資本として調達する」というやり方があります。これは外部の個人投資家やベンチャーキャピタルからの出資を受ける形になります。
銀行借入れ
前述の通り、銀行借入れにも様々な方法があります。まず1つ目が、政策金融公庫等の国の金融機関から借入れを行う方法です。
創業間もない会社は信用力が低いので、なかなか民間の金融機関がお金を貸してくれません。しかし、国の金融機関である政策金融公庫は、創業間もない会社にお金を貸してくれる制度があります。さらにすごいのは、担保や代表者保証(会社が返済出来ない場合は代表者個人が保証をすること)がなくてもお金を貸してくれる制度があることです。まず最初に利用を検討すると良い金融機関だと言えます。
次に候補として挙げられるのは、都道府県が運営している保証協会を付けての借入れです。まずは民間の金融機関に借入れの申請をしますが、その借入れに関して保証協会が保証をしてくれる形というになります。民間の金融機関からすると、貸したお金が返ってこない場合でも保証協会が保証をしてくれるのでリスクは低く、創業間もない会社にも貸すことが可能となるのです。
上記2つが主な借入れの方法ですが、最後に少し変わった借入れの方法として、「資本性ローン」というものを紹介します。
資本性ローンとは、新規事業等に取り組む中小企業の財務体質強化のために、資本性資金を供給する制度です。出資に近い資金の調達、つまり負債ではなく資本としてみなすことのできる資金の調達(融資)が受けられます。
期限一括返済、最終回の一括払いで、それまでの間は利息のみの支払となるという特徴があります。そのため、融資期間中は元金の返済負担がなく、月々の資金操り負担を軽減することができます。また、業績に応じた金利設定となっており、業績が低調なときは金利負担が小さい設定となっています。逆に業績が良くなると金利が高くなります。他にも細かくいくつか特徴もあり、メリット・デメリットがありますが、面白い制度ですので、ひとつの資金調達の方法として検討すると良いと思います。
クラウド会計と資金調達
このように、様々な資金調達方法がありますが、いずれも共通していることがあります。それは、現状の決算書を提出する必要があること、もしくは事業計画書を提出する必要があることです。
現状の決算書がすぐに出せないという会社も多くあります。やはり会計業務、経理業務を効率化して適時に行うことは非常に重要です。これからの時代、クラウド会計で作成した決算書をそのまま金融機関と共有していくということが当り前になってくるのではないかと思います。今から先を見据えてクラウド会計に取り組んでおくと、自然と資金調達の幅も広がってくるのではないでしょうか。
執筆者プロフィール : 岡野貴幸
ゴージュ株式会社 代表取締役、ゴージュ会計事務所 代表公認会計士
立教大学経済学部卒業。大学在学時に公認会計士試験に合格。大学卒業後、あずさ監査法人国際部に入社。上場企業の法定監査、国際会計基準導入支援業務を経験。実家は埼玉県で3代続く税理士事務所を経営しているが、ゼロから立ち上げ新しい会計事務所の形を作りたいと一念発起し、2014年に独立。岡野公認会計士事務所(現、ゴージュ会計事務所)を設立。同時にコンサルティング会社であるゴージュ株式会社を設立。成長する企業を会計面・資金調達面からサポートしたい想いから、スタートアップを中心にサービスを行っている。クラウドを駆使し徹底した経理の効率化、事業計画の作成、資金調達を得意とする。