テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、書評ブロガー・ビジネスプロデューサーの徳本昌大氏が、若手ビジネスパーソンに向けて『しょぼい起業で生きていく』という書籍を紹介します。
書評ブロガー・ビジネスプロデューサーの徳本昌大です。今回、若いビジネスパーソンのための書評を書くことになりました。
私には本業はありませんが、いくつかの会社で社外取締役やアドバイザリーをして収入を得ています。仕事はとても楽しく、日々業務からエネルギーを得ていますが、もうひとつ「書評家」という肩書きも持っており、毎日1本書評を書くことを10年以上続けています。この書評のおかげで、出版社や著者との強力なネットワークが生まれ、仕事にも役立っています。この連載では、そんな私が選んだ書籍を紹介していこうと思います。
今回ご紹介する一冊は、『しょぼい起業で生きていく』(イースト・プレス)。
イヤなことから逃げてもやっていける生存戦略とは
「サラリーマンが嫌になったら、辞めてしまえばいい。簡単なことです。休んでいてもお金がもらえることになっている規則があるなら、休みましょう。あなたは会社のルールに従った結果、会社のことが嫌になったのですから、せめて会社のルールに従って、会社からもらえるものはもらいましょう。それも無理になったら、辞めてしまいましょう」(えらいてんちょう・矢内東紀)
最近は副業や起業が盛んですが、若いビジネスマンの方にも本書の“しょぼい起業”という考え方を取り入れてもらえればと思います。
本書を読むと、起業が簡単なものに思えてきます。難しいと思いがちな起業も、嫌なことから逃げる選択肢の1つだと捉えれば“自分ごと化”できます。私たちは嫌なことをやる必要はなく、好きなことを仕事にできるのです。無理にサラリーマンをしているのなら、いったん自分をリセットしてみるのも手ではないでしょうか。その時、本書は相当役に立つと思います。
まず、「いつもやっている行為をお金に換える」という考え方を身につけましょう。著者のえらいてんちょう氏は「『しょぼい起業』には、『生活の資本化』(コストの資本化)が欠かせない」と言います。電車の定期を持っているなら、それを活用してビジネスをスタートするのです。地元の野菜を仕入れて都内の店に運べば、いつもの行為でお金を稼げるようになります。この「生活の資本化」でビジネスをスタートすることが、しょぼい起業のコンセプトです。
しょぼい起業には、「事業計画」も「資金調達」も、「経験」もいりません。例えば、飲食店を開きたければ、まずは自分の生活からマネタイズを始めてみるのです。
人は毎日ごはんを食べますが、自分のごはんを作るのにもお金がかかります。しかし、1人分の料理を作るところを10人分作ったとしても、10倍の材料費はかからないし(肉を100g買うより1kgまとめて買ったほうが単価は下がります)、10倍の労働力も必要ありません。余った9人分を売ってしまえば、自分1人分の食事が実質無料になります。食費という、「生きているだけで絶対にかかるコスト」を利益に換えてしまうという最強のシステムで、飲食店をスタートしましょう。
また、いくつかの資本を組み合わせて複数の事業を行うことで、リスクも回避できます。起業を難しく考えるのをやめ、まずは生活の中で自分がやれること、日常やっていることを事業化できないかを考えてみましょう。しょぼい起業はつぶれにくいもので、失敗が少ない起業なのです。
「おせっかいな人はいるもので、どんなことにも『それをやるには大金がかかるから覚悟しろおじさん』が登場します。店をやるということについてもそうですが、結婚、子育てなどについてもそうです」
「覚悟しろおじさん」は、何にでもお金がかかると言います。行動のハードルを高めることが、覚悟しろおじさんの重要な仕事です。しかし、お金はかけようと思えばいくらでもかかるし、かけないようにしようと思えばそんなにかからないものだと著者は述べています。
店舗を開く場合も、おじさんの常識を信じなければローリスクで開業できます。例えば、池袋界隈でも家賃8万円の店舗物件はたくさんあります。敷金は3カ月分くらい取られますが、初期費用50万円ほどで店舗を借りられるというのです。そして著者は借りた店に引っ越し、そこで自分の資産の販売(リサイクルショップ)をスタートしたのです。
「自宅に服を置いておいても売れないのに、店を自宅にしたら服が売れた。家賃の足しになる! と喜んでたら、訳のわからないものがいっぱい売れて、初月には40万円くらいの売り上げがありました。意味不明で笑えます。『同じ家賃なら家より店借りたほうがいいだろ』と思ってたら、『おっ、結構売れる! 家賃浮くー! 』となって、『むしろそれだけで生活できるくらい儲かった! 』になったわけです。まったく謎ですが、『せっかく店に住んだので、開けておいたら何か売れて儲かった』ところからすべてが始まりました」
著者はとりあえず、自宅兼用の店を開けておくことで、キャッシュが入ることに気づきました。当然、家を借りていたら、家賃は払わなければなりません。しかし、店に住むことで赤字ではない状態を作り出せます。販売で得たキャッシュはすべて利益だと考えるのが、しょぼい起業の特徴です。
店に誰かが来てコミュニケーションを重ねるうちに、新たな仕事の依頼も来ます。ここからビジネスのアイデアが膨らみ、キャッシュポイントが増えていきます。事業計画を綿密に作り、資金を集めて店を借り、許可をとって設備を整えてから営業するのではなく、店に人が集まってきてから計画を作るのです。ここで初めて設備を整え、必要な許可をとるようにします。「しょぼい起業」では、行動が先で、計画は後になって考えるものなのです。
「事業は、アイデアから入るというより、人とのつながりや置かれている環境などの条件から、自分ができそうなことを発見して事業化していくものなのだ」
えらいてんちょう氏は、「みんなでカラオケに行くなら自分たちのバーを開いた方がいい」というアイデアをすぐに実行しました。その後、食品衛生責任者を置き、営業許可を取得。普通とは逆のステップを踏むことで、事業がうまくいったのです。
しょぼい起業は人も雇いません。協力者を集めるという考え方で、出費を最低限に抑えます。
「『しょぼい起業』は固定費も含めて、あらゆる出費を限界まで抑えることが大原則ですので、よほど何店舗も抱えないかぎり、人を雇って従業員にするという選択肢はそもそもありません」
お金以外の対価を用意し、居心地の良い場所を作ることで人がお店に集まってきます。生活・資産の労働力化が起こり、人が勝手に事業を手伝ってくれるようになるのです。そして、自主的に販路開拓してくれる人や、掃除や店番をしてくれるスタッフが現れ、利益が出せるようになるのです。
ブラック企業のように間違った方法でやりがいを搾取するのではなく、好きなことで人に動いてもらうノンストレスの環境を作ることが、利益につながるのです。ノンストレス環境=居心地の良い場所を用意することが、労働問題を解決する鍵になるのかもしれません。
また、こういった居心地の良い店、必要とされる店には口コミが起こります。お客さんに好き勝手に宣伝してもらうのです。その投稿をRT(リツイート)することが経営者の仕事になります。先にSNSで話題になることを目指し、自分らしい投稿を始めましょう。
SNSでフォロワーを増やし、商圏を広げれば、ファンが店に集まり商売が繁盛します。店に活気をつくることが重要で、SNSで居心地の良い雰囲気を最初につくるのです。SNSの空間を楽しくし、そこを店舗にしてしまうぐらいの気持ちで投稿しましょう。
「店というのは不思議なものでして、誰も来ない店には誰も来ませんし、たくさんの人が来る店にはさらに人が集まってくるという現象があります。これはもうビックリするほど本当の話で、人が来なくなってつぶれる店は、少し前に訪ねるとすぐわかります。本当に閑散として、空気が淀んでいる。いわゆる『死臭』がするんですね。反対に盛り上がっている店は、どんなに外観がボロかろうが、店の一部が壊れていようが、活気というか生命力にあふれています」
私もそうですが、暇な人には仕事を頼みたくありません。人は忙しい人と仕事をしたいものですし、繁盛店に行きたいものなのです。仕事をしている感や楽しい場所を作ることで、人は引き寄せられてきます。えらいてんちょう氏のマーケティング力で店は4店舗にまで増え、ついには最初に始めたリサイクルショップをM&Aでお客さんに譲渡してしまいます。
えらいてんちょう氏は行動を起こしてから、仲間と一緒に次のストーリーを考えます。今では「しょぼい起業コンサルタント」を名乗り、「えらてんメソッド」によってしょぼい起業家を養成しています。
本書からは、経営は理論よりも実践が重要であることを学べます。そして著者からは、周りに人を増やし元気にさせることが本当に大切であると教えてもらえました。