テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、中小ベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める高森厚太郎氏が、「中小ベンチャー経営者の4つの仕事」について語ります。


数字とロジックで経営と現場をExit(IPO、M&A、優良中堅)へナビゲートする、ベンチャーパートナーCFO・高森厚太郎です。

前回の記事では、私の考える「経営者の4つの仕事」のうちの1つ、「経営理念の作成・浸透」についてご紹介しました。

今回はその続きとして、「経営者の4つの仕事」からもう2つを紹介いたします。

経営者の仕事2 「実務のPDCAを回す」

経営理念、経営戦略は、あくまで紙に書いたもの。そのままでは絵に描いた餅なので、何らかの形で現実のものにしていかなければなりません。

何らかの形とは例えば、商品を作ったり、研究開発したり、お客様に営業したり、カスタマーサポートしたり。そういった実務を経営者がやっているようでは、会社は大きくなりようがありません。経営者は実務をやるのではなく、実務を回していく、監督していく必要があります。

実務を回していく、監督していくことが「実務のPDCA」というものです。戦略に基づいて実行計画を立て(Plan=計画)、組織を使って実行していく(Do=実行)。実行したものは、過程や結果に良し悪しがあるので、それをちゃんとチェック、レビューする(Check=評価)。必要であれば改善をし、それをまた戦略や実行計画に生かしていく(Action=改善)。このサイクルをぐるぐる回してビジネスを伸ばしていくことが、「経営者の4つの仕事」の2つ目です。

「トヨタのPDCA」を解説する書籍なども世に出ている通り、「PDCA」という言葉はすでに広く浸透しています。PDCAは現場レベルの改善活動だけではなく、経営レベルでも必要なものです。

「実務のPDCA」の肝は組織マネジメント

「実務のPDCA」においては、「Plan=計画」と同じくらい、いや、それ以上に重要であり、難しいのが「Do=実行」です。自分ではないスタッフに「Do=実行」してもらうことになるので。ヒトを動かすために、組織マネジメントが肝要となります。

「Do=実行」していくためには、組織を作ったり、会議の場を設けて情報共有や意思決定をしたりといったことが必要です。そして、組織にはチームワークが不可欠です。大手企業が採り入れたことで注目された1 on 1ミーティングも、そうした文脈のものでしょう。

もっとも、組織はヒトの集まりですので、言ってしまえば3人集まれば派閥ができます。カネは集まっても喧嘩しませんが、ヒトは喧嘩してしまいます。ヒトの集まり、組織をどうマネジメントし、計画を達成し、ビジネスを伸ばしていけるか。組織マネジメントは一筋縄ではいかない世界であり、一義的で明快な解答もありません。

いずれにせよ、「実務のPDCA」を構築し、組織マネジメントをしっかり行い、PDCAサイクルをきちんと回していくことが、会社を成長させていくためには必須ということになります。

経営者の仕事3 「リソースの調達・配分」

戦略を立て、次は組織を動かして……となると当然、ヒトを採用しなければいけません。メーカーのように、何かモノを作ってとなると、原材料の調達をしなければいけませんし、工場も必要になるでしょう。もちろん、先立つ「カネ」は大前提で必要です。

つまり、「ヒト」「モノ」「カネ」、いわゆる経営資源(リソース)を用意しなければいけません。プラス、「情報ノウハウ」もでしょうか。お客様のリスト、情報データベース、工場や店舗を運営していくノウハウなど、ビジネスを回すうえではそれらも調達する必要があります。

こうしたリソースの調達は、大企業なら人事部や財務部など、組織でスタッフが行うことでしょう。しかし、会社が盤石でない中小ベンチャーでのリソース調達は、経営者次第となります。銀行も投資家もみんな経営者を見て、おカネを出していいか判断する。採用も、会社のブランドで応募が来るわけではないので、これも経営者次第。結局、経営者の仕事になります。

リソース配分は全体最適で

確保できたヒトやカネをどの仕事に振り分けるのか、いわゆる「リソース配分」も経営者の仕事です。

現場は、「あれもほしい、これもほしい」、はたまた「あれは嫌だ、これは嫌だ」と、個別最適で主張するものです。現場マネジメントに責任を持つのですから、これは当然の主張。だからこそリソース配分は、全体を見据えた上で、経営者が経営判断で行うべきなのです。会社全体のマネジメントに責任を持つのは経営者なのですから。

リソースの調達と配分は、スタッフに任せることができない経営者固有の仕事ということになります。

「経営者の4つの仕事」、最後の1つはまた次回お伝えします。

執筆者プロフィール : 高森厚太郎

プレセアコンサルティング株式会社 代表取締役パートナーCFO。
東京大学法学部卒業。筑波大学大学院、デジタルハリウッド大学院修了。日本長期信用銀行(法人融資)、グロービス(eラーニング)、GAGA/USEN(邦画製作、動画配信、音楽出版)、Ed-Techベンチャー取締役(コンテンツ、管理)を歴任。現在は数字とロジックで経営と現場をナビゲートするベンチャーパートナーCFOとしてベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める。