「相手の立場に立つ」ことの重要性を知らないビジネスパーソンはほとんどいないと思いますが、その本質は結構誤解されていることがあります。まず、20代の私のように

「上司は、自分のことをちゃんと評価してくれているだろうか」
「お客さんは、僕のことを好きでいてくれるだろうか」

などと、「相手の評価を気にしている人」がいます。これは、相手の立場の立つこととはまったく違います。「自分」の評価ばかり見ているので、ベクトルがほぼ真逆と言ってもいいかもしれません。

また、上司、本社が言うからなど、「相手の言いなりになっている人」もいます。これももちろん、相手の立場に立つことはまったく違います。

  • 相手の立場に立つということを、正しく理解していますか?(写真:マイナビニュース)

    相手の立場に立つということを、正しく理解していますか?

「自分がされて嬉しいこと」を相手にしてはいけない

「自分がお客さんだったら、短い商談が嬉しいから、本題から入ろう」「自分が上司だったら、ちゃんとしたレポートが欲しいから、しっかり書こう」などと、「自分がされて嬉しいこと」を相手にして、相手の立場に立っているつもりの人がいます。

一見問題ないように見えますが、実はこれは、ある種「相手の立場に立つ」ことからはかなり遠い、最も危険なアプローチの一つなのです。

私の実施する研修の中に、「旅館の下足番でもできる、『+αの価値創出のアイデア』をできるだけ多く出す」というワークがあります。

すると、「お客様の靴を消臭する」「お客様の服装をほめる」などというアイデアが出ることがあります。そのアイデアを書いた人に、「このサービス、本当にお客さまにして大丈夫ですか?」と聞くと、「はい……〝私がお客様だったら″嬉しいので、大丈夫です」と答えます。

そこで私はクラスの全員に、「自分がお客だったら、靴を消臭されて、どう感じますか?」と聞きます。すると、「いいサービスだ」「別にうれしくも嫌でもない」「激怒する」といった、さまざまな反応に分かれるのです。つまり、「自分がされて嬉しいこと=相手が必ず喜ぶ」ということはないのです。

(普通、お客様の靴の消臭なんて、そんな失礼な事するわけないだろ!)

心の中で笑い、そう思った人は、一番気を付けてください。1万人近くにアンケートをしてみると、「靴を消臭されて嬉しい人」も、ちゃんと一定数存在するのです。

「相手と自分は違う」から、「相手の立場」に立つ努力をする

「君の得意先の○○社について、明朝支店長に報告するので、資料を作ってくれ」と上司から指示された20代の私は、「自分が支店長だったら、完璧なレポートが欲しいな」と考え、A4で20枚くらいの力作(もはや短編小説です)を、丸一日かけて作り上げ、翌朝、意気揚々と上司に提出しました。

すると上司は、「なんだこの量は! 報告時間は5分だぞ! 今度からは1枚で頼むな!」と言い、手ぶらで支店長室に向かっていったのです。

"私が支店長だったら"20枚の完璧なレポートを喜びますが、課長と、超多忙な支店長が実際に望んでいたのは、「5分で分かる、A4で1枚の報告書」だったのです。

そして私は、なんと、自分の非を認めるどころか、「こんなに一所懸命書いたのに、褒めてもくれないのか!」と心の中で逆ギレする始末だったのです。

自分がされて嬉しいことを相手にすることは、「相手の立場に立つ」こととは違います。それは、「相手は自分と同じである」と思い、自分の価値観を相手に押し付けるという、ビジネスでは「しなくていい努力」なのです。

筆者プロフィール: 堀田孝治

クリエイトJ株式会社代表取締役
1989年に味の素に入社。営業、マーケティング、"休職"、総務、人事、広告部マネージャーを経て2007年に企業研修講師として独立。2年目には170日/年の研修を行う人気講師になる。休職にまで至った20代の自分のような「しなくていい努力」を、これからの若手ビジネスパーソンがしないように、「7つの行動原則」を考案。オリジナルメソッドである「7つの行動原則」研修は大手企業を中心に多くの企業で採用され、現在ではのべ1万人以上が受講している。著書『入社3年目の心得』(総合法令出版)、『自分を仕事のプロフェッショナルに磨き上げる7つの行動原則』(総合法令出版)他。