テレワーク元年とも言われている2020年。多くの企業で制度導入が進む中、まだまだ利用している会社員は少ないのが現状です。そこでこの連載では、先んじてテレワークを導入してきた企業の一会社員を取材。テレワークを活用したさまざまな働き方を紹介していきます。

1回目にお話を伺ったのは、サントリーコミュニケーションズ・デザイン部の山岸彩乃さん。在宅勤務に加え、月に1度は長野県で働いているという彼女のテレワークライフとは……?

  • サントリーコミュニケーションズ・デザイン部の山岸彩乃さん

    山岸彩乃さん(28)/2013年サントリーデザイン部入社。メインブランドとして、同社の「サントリー天然水スパークリング」「ほろよい」「デリカメゾン」などのコンセプト、デザイン開発を担当。その他、3Dを使ったボトル形状のモデリングに取り組む。社内資格である、サントリー天然水アンバサダーとして、サントリー天然水ブランドの魅力を社内外に伝える活動にも力を入れている

テレワークを使い始めたきっかけは?

商品のデザインだけではなく、消費者調査からコンセプト作りまで幅広い業務に携わっている山岸さん。他部署との打ち合わせが多いため、デザイン作業に没頭する時間を作るために、テレワークを活用し始めたといいます。

「既に周囲では育児中の方などが利用していたので、テレワークという働き方に抵抗はありませんでした。特にデザインの作業に没頭したいとき、家で集中して取り組めるのはいいですね」。

1年ほど前から在宅勤務の利用を開始。新しい働き方を軌道に乗せていくさなか、より本格的にテレワークを導入しようと考えたきっかけがありました。

当時、仕事がとにかく忙しく、部署の中でもトップ2くらいの残業時間をたたき出していました。さすがにこのままだとまずいと感じて、去年9月、長野県でのリモートワークを支援してくれる『ときどきナガノ』という自治体の企画に応募してみたんです」。

長野で働く時間を確保するためには、他の業務を調整する必要が出てきます。時間の使い方を見直す良い機会になるのではないかと思いました」。

長野県では来春、山岸さんが関わっている「サントリー天然水」の新工場"サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場"が稼働する予定にもなっており、興味を持ったとのこと。

見事応募が通り、山岸さんは現在、2週間に1~2度の在宅勤務に加え、月に1度のペースで長野県内のシェアオフィスへ出勤しています。

  • テレワークで通い続けているうちに、すっかり長野県ラバーになってしまったそうです

1日のスケジュールと働き方の工夫

テレワークの利用日と出社日で、仕事内容や1日のスケジュールはどのように変わるのでしょうか。

テレワーク/在宅

まず在宅勤務の日には、デザインや資料作成などの単純作業をすることが多いそう。出社日以上に1日の仕事の流れを細かく考え、おしりの時間も決めることで、効率よく仕事を進めているといいます。

「私はリラックスした状態の方が効率的に仕事できるので、あえて家の中に仕事場を作ることはしていません。朝起きたら、コーヒーを買いに行ったり、散歩したりして、仕事モードに切り替えています」。

また、出社日に比べるとアフターファイブの時間もゆったりめ。夜ご飯を丁寧に作ったり、情報収集のためのネットサーフィンをしたりと、自由に過ごしているそうです。

「テレワーク日は気持ち的にもゆとりがあるので、街に出ていろんなものを見たり、新しいところに行ったり、おいしいものを食べたりして、アイデアを得るための時間が取れている気がします」。

  • テレワーク日、テレワーク日(長野)、出社日の1日のスケジュール

テレワーク/長野

一方、長野でのテレワーク日には、デザインの作業に加えて、アイデア出しをすることが多いとか。

環境ががらっと変わると、視点が変わり、アイデアが生まれやすいと感じています。お気に入りのシェアオフィスは天井が高く、広々としたログハウスのような空間で、非常に気持ちが良いんです。窓から山々が見えたり、一歩外に出れば豊かな自然が広がっていたりして、心も体も解放されます」

ダイナミックに物事を考えたいときや、今までにないアイデアを見つけたいとき、長野で仕事をすることが多いですね」。

  • 山岸さんお気に入りのシェアオフィス「富士見 森のオフィス」(長野県諏訪郡富士見町富士見)。大学の保養所として使われていた木造施設をリノベーションして作られた施設で、さまざまな人との出会いもここから生まれるそう

シェアオフィスで働く人々との出会いから、新工場が立つ地域の人とのつながりも自然とでき、仕事にも良い循環が生まれているといいます。

「新工場でのツアーやイベントを考える上で大町の魅力を最大限発信するには、地域の方々の協力が必要です。出張とは違い、テレワークで通い続けることで、公私ともに自然な出会いが生まれています」。

テレワーク日は金曜日に設定し、そのまま宿泊。仕事が終わると、現地で知り合った人たちとお酒を楽しんだり、観光したりして、地域での滞在を満喫しているそうです。

せっかくテレワークができるのなら、作業の効率化だけでなく、新しい環境に行って人に出会ったり、その町の空気を感じたり、会社ではできないことをしたいですよね」。

  • 松本の山々が見渡せる長野県内のシェアオフィスで作業するのはとても気持ちが良いのだそう

テレワーク導入で大変だったこと

今ではテレワークを使いながら自分のペースで仕事をされている山岸さんですが、導入当初は打ち合わせの予定が曜日バラバラで入っており、まとまったテレワークの時間を作るのに苦労したとか。事前にテレワーク日のスケジュールをブロックすることで、徐々に導入をしていきました。

また山岸さんにとって、今でもテレワーク中のウェブ会議は苦手とのこと。

「在宅勤務中のウェブ会議を打診されることもあるのですが、個人的には微妙な声のトーンや顔の表情が分からないので、ディスカッションがしにくいと感じています」。

そのため山岸さんの場合、込み入った内容や議論が伴うものは、なるべく直接会って打ち合わせできるよう、工夫しているそうです。

テレワークを利用してみて良かったこと

最後に、テレワークを利用してみて良かったことを聞きました。

時間の使い方、生き方について考えるきっかけになりました。もちろん、浮いた時間を作業にあてられたり、集中しやすい環境を自分で作れたりと、効率的に仕事を進められることに大きなメリットは感じています。でもそれ以上に、お金で買えない時間の大切さ、その時間の使い方を考えることは、同時に自分が仕事を通してどのような人生を歩んでいきたいかを考えることだと思うようになりました」。

「長野でのテレワークを始めるにあたって、必然的に時間を見直す必要が生まれ、改めて自分の仕事の進め方や仕事の優先順位を考えていくと、さまざまな気づきがありました。時間の使い方を変えること、より自分が効率的に進められる環境に変えていくことで、時間にも心にも余裕が生まれ、より働きやすくなったと感じています」。

勤務場所を長野まで広げたことで、仕事でもプライベートでも、新たな出会いやつながりを生むことができた山岸さん。業務の効率化だけでなく、新しい世界を広げるための手段として、テレワークを活用してみるのも良いかもしれません。

◆テレワークData◆


サントリーホールディングス・サントリー食品インターナショナル

導入開始: 2010年(利用回数/時間に制限を設けない現在の制度)

対象者: 原則入社3年目以上の全社員(入社3年未満であっても、業務上必要とみなされた場合や経験採用の場合は認めることがある)

実施者数: 全社員のうち約8割(2019年)

実施可能日数/回数: 原則、1週間のうち休日を除く日数の半分以上出社を必須とした上で、10分単位で毎日利用可(例: 毎朝1時間テレワーク後、通勤ラッシュ時間をずらしての出社など)

実施場所: 情報セキュリティに十分留意し、会社と同等の就業環境を整備できることを条件に、場所の指定はなし。会社でシェアオフィスを契約し、出張時等の利用促進も行っている

★いつでも・どこでも・週何日でも利用可能。2019年、サントリー全体で充電の持ちが良く、軽量なパソコンに総入れ替えするなど、会社としてもテレワーク制度の活用を後押ししている