「労災」という言葉をご存知でしょうか? 労災とは「労働災害」を指し、仕事が原因で、怪我をしたり病気になったりすることです。この連載では、労災かそうではないか判断に迷う読者の悩みを紹介します。

Q.長期にわたり反復継続した作業で、腰痛、腱鞘炎、白内障に。これは労災になりますか?(東京都・男性・会社員・49歳)

A.一定の要件を満たす職業病は、労災認定される場合があります。

  • 仕事での腰痛は労災になる?

今回は、多くの日本人が経験する傷病について、検討してみましょう。仕事との関係で、まず思い浮かぶのは「職業病」という言葉です。

職業病とは

日常会話でもよく使われる言葉ですが、じつは労働基準法施行規則にも「職業病リスト」としてまとめられており、厚生労働省「お墨付き」の立派な専門用語なのです。

もちろん、「いやあ、私のガンマGTPが高いのはサラリーマンの職業病でして」など、広義の職業病は労災にはなりませんが、「職業病リスト」に掲載されている狭義の職業病は業務上疾病といって、一定の基準を満たすと業務起因性が認められて労災認定されることがあります。

パソコンの長時間操作による白内障は労災?

最初に白内障について見てみましょう。一般に中高年に多い疾病ですが、老化ではなく若い人でもかかる場合があります。

夜間の運転や細かい作業、有害光線などが原因となることもあるため、「パソコンでの作業やスマホの画面が原因で白内障になったのでは」と、業務との関連性を考える方もいらっしゃるようです。

しかし、白内障で労災認定されるのは、特殊な作業環境下で、目に強烈な刺激を受けたり、異物が混入したりするなど、外傷性の白内障に限られるようです。

パソコンやスマホの影響も可能性としてはあるかもしれませんが、今や公私の区別なく日常のあらゆる場面で多くの国民が使用するものなので、業務との因果関係を特定するのは難しいでしょう。

腱鞘炎は認められる場合もある?

次に、キーパンチャーやプログラマ、エステティシャンなどが腱鞘炎に罹った場合はどうでしょうか。

腱鞘炎などの上肢障害も、楽器の演奏やスマホ操作など日常の生活習慣により発症する傷病なので、業務起因性を判断しづらいのが特徴です。そのため労災認定には、以下の一定の要件が必要になります。

(1)上肢等に負担がかかる作業を主とする労働者が相当期間(約6カ月以上)従事した後に発症した場合
(2)発症前に過重な業務をした場合
(3)過重な業務から発症までの過程が妥当だと認められる場合

過重な業務かどうかは、発症前3カ月の業務量が、通常時や同じ業務を行う他の労働者と比べて明らかに過重な業務量だったかどうか、その他の状況を考慮して判断されるようです。詳しくは「上肢障害の労災認定」(厚生労働省)でご確認ください。

腰痛は、急性、慢性それぞれで認定基準が異なる

最後に、腰痛です。

10人に1人が腰痛を抱えており、9割の日本人が一生に一度は経験する、人類とくに先進国の宿命ともいえます。

筆者も例外ではありません。この腰痛は、どのような場合に労災認定されるのでしょうか。これについても、「腰痛の労災認定」(厚生労働省)に分かりやすく解説されています。

それによると、腰痛には2種類の認定基準があります。

災害性の原因による腰痛

(1)腰痛またはその原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること
(2)腰に作用した力が腰痛を発症、または著しく悪化させたと医学的に認められること

この(1)(2)の要件をどちらも満たす場合に、労災として認定されます。これは因果関係が明らかなので、比較的認定されやすいでしょう。

ただし、いわゆる「ぎっくり腰」は、日常の動作の中で起きるものなので、たとえ仕事中に急になったとしても、原則として労災の対象にはなりません。

災害性の原因によらない腰痛

日々の業務による腰への負担が、一定期間にわたって徐々に積み重なって発症した腰痛で、筋肉疲労が原因の場合と、骨の変化が原因の場合の2種類に分けて判断されます。

筋肉疲労が原因の場合は、たとえば「20㎏以上の重量物を繰り返し中腰の姿勢で取り扱う業務」や「毎日数時間、腰に不自然な姿勢を取ったまま行う業務」などを、比較的短期間(約3カ月以上)従事した場合などは、労災の対象になります。

骨の変化が原因の場合は、たとえば「30㎏以上の重量物を3時間以上取り扱う業務」や「20㎏以上の重量物を4時間以上取り扱う業務」などに長期間(約10年以上)従事した場合などは、労災の対象になります。

ただし、腰痛は加齢による骨の変化によって発症することが多いので、加齢による変化の程度を明らかに越える場合に限られます。

筆者のように、長年のデスクワークと前かがみのパソコン操作の癖がたたり、当然のことながらその間に年齢も重ねて腰痛持ちになった場合は、まず労災認定は難しいでしょう。

著者プロフィール : 米澤 実(よねざわ みのる)

社会保険労務士事務所 米澤人事コンサルティングオフィス代表
千葉県船橋市出身。株式会社リクルート(現リクルート・ホールディングス)でクリエイティブディレクター、ライン組織マネジメント、グループ企業の人事部長を経て、2010年独立。現在は「元気で強い成長企業の実現を支援する人事労務コンサルタント」として活動している。