11月に入り、オフィスや通勤時の電車内を見渡してみると、せき込んだりマスクを着けたりする人の姿が目立つようになってきた。気温が下がり、空気が乾燥しだすこれからの季節は、さまざまなウイルスが増殖しやすい次期となる。そうなると、注意したいのが各種の感染症だ。

秋・冬シーズンの感染症の代表例であるインフルエンザウイルスやノロウイルスに感染した場合、感染者は出社を控えるのが好ましい。だが、自身がウイルスに感染している事実に気づかず、知らず知らずのうちに周囲に感染を拡大させてしまっている人がいるのが現状だ。

これらの「ウイルス禍」の加害者および被害者にならないためには、各種感染症を引き起こすウイルスについて正しく理解しておく必要がある。そこで本特集では、秋・冬シーズンに流行しやすい感染症の特徴や対策を紹介していく。今回はロタウイルス感染症について、小児科医の竹中美恵子医師にうかがった。

  • ロタウイルスは乳幼児をはじめとする子どもの急性胃腸炎でよくみられる

ロタウイルス感染症の症状や潜伏期間

ロタウイルスは、嘔吐と下痢を主症状とする急性胃腸炎を引き起こすウイルスの一つ。同じく冬場に感染性胃腸炎をもたらすウイルスにはノロウイルスがあるが、ロタウイルスは乳幼児をはじめとする子どもの急性胃腸炎でよくみられる。

「乳幼児がロタウイルスに感染すると、約2日間の潜伏期を経て4~5日続く激しい嘔吐と下痢の症状が出現します。下痢便の色が白くなったり、酸っぱい臭いがしたりすることがよく知られています。さらに3割から5割程度の子どもは、発熱も発症します。下痢が激しいため脱水症状になり、嘔吐もあるので水が飲めなくなり、入院しなければいけないケースもあります」

例年、1月から4月頃までがロタウイルスの流行期間となっている。5歳未満の乳幼児での発症事例が多く、「5歳までに95%の子どもが少なくとも1回は感染する」と言われているという。

さらに厄介なのが、インフルエンザにおけるA型やB型のように、ロタウイルスにも複数の型が存在するという点だ。これはすなわち、一口にロタウイルスと言っても、さまざまなタイプのウイルスが存在することを意味する。そのため、「一回のウイルス感染でできるのはその型の免疫だけなので、何度もロタウイルスに罹(かか)る可能性はあります」と竹中医師は注意を促す。

ロタウイルスの感染経路

ロタウイルスは付着したウイルスが体内に侵入する「接触感染」によって感染・発症する。特筆すべきはその感染力の強さで、国立感染症研究所によるとウイルス粒子10~100個で感染が成立すると考えられている。

感染者の便や嘔吐物には、1g中にウイルスが数億個~数兆個あるとされており、胃腸炎の症状が治まっても1週間以上は排便中にウイルスが出ていくと言われている。そのため、それらのものに直接触れることがいかに危険かは容易に想像できるはずだ。

「ロタウイルスは家具やおもちゃ、タオルなどに付着しても長ければ10日間ほど生きていきます。それらを手や指で触ると、石鹸や消毒用アルコールの効果もほぼ期待できず、口から小腸へと感染します。特に赤ちゃんならば、ごくわずかなウィルスで胃腸炎が起こると言われています」

保育園や幼稚園などで一度誰かが感染すれば、手洗いや消毒をしていてもロタウイルス感染症が広がってしまう恐れがある。保育施設に子どもを預けている家庭は、これからの季節はこういった施設内の集団感染リスクを念頭に置いておくべきだろう。

感染予防にはワクチンが有効

ロタウイルスによる感染を予防するには、ワクチンが有効となる。日本では2種類のロタウイルスのワクチン(単価と5価)が承認されており、任意で接種を受けられる。ワクチンの対象者は乳児であり、接種する期間も重要。具体的なタイミングについて、厚生労働省は「単価ロタウイルスワクチン(2回接種)の場合は生後6~24週の間、5価ロタウイルスワクチン(3回接種)の場合は生後6~32週の間」としている。

万一、乳児がいる家庭で上の子が保育園などでウイルスに感染してしまった場合、家庭内での感染を防ぐために適切な処置が必要となる。

「ロタウイルスは感染した子どもの便に大量に含まれます。うがいや石鹸を使った手洗い、アルコールによる消毒ではウイルスの感染を予防しにくいです。塩素系漂白剤による汚物処理や手袋を使用した自己防御が大切で、オムツ交換時には使い捨てのゴム手袋などを使い、捨てる場合はポリ袋などに入れましょう」

そして、ロタウイルスに対する有効な抗ウイルス薬はないため、補液や解熱剤などで嘔吐や下痢に伴う脱水、発熱といった症状が治まるように治療を施していく。特に抵抗力の弱い乳幼児が感染すると脱水症状になりやすため、症状が少し落ち着いたときに少しずつ水分補給を行うようにしよう。

※写真と本文は関係ありません

取材協力: 竹中美恵子(タケナカ・ミエコ)

小児科医、小児慢性特定疾患指定医、難病指定医。「女医によるファミリークリニック」院長。

アナウンサーになりたいと将来の夢を描いていた矢先に、小児科医であった最愛の祖父を亡くし、医師を志す。2009年、金沢医科大学医学部医学科を卒業。広島市立広島市民病院小児科などで勤務した後、自らの子育て経験を生かし、「女医によるファミリークリニック」(広島市南区)を開業。産後の女医のみの、タイムシェアワーキングで運営する先進的な取り組みで注目を集める。

日本小児科学会、日本周産期新生児医学会、日本小児神経学会、日本小児リウマチ学会所属。日本周産期新生児医学会認定 新生児蘇生法専門コース認定取得、メディア出演多数。2014年日本助産師学会中国四国支部で特別講演の座長を務める。150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加する「En女医会」に所属。ボランティア活動を通じて、女性として医師としての社会貢献を行っている。