11月に入り、オフィスや通勤時の電車内を見渡してみると、せき込んだりマスクを着けたりする人の姿が目立つようになってきた。気温が下がり、空気が乾燥しだすこれからの季節は、さまざまなウイルスが増殖しやすい次期となる。そうなると、注意したいのが各種の感染症だ。

秋・冬シーズンの感染症の代表例であるインフルエンザウイルスやノロウイルスに感染した場合、感染者は出社を控えるのが好ましい。だが、自身がウイルスに感染している事実に気づかず、知らず知らずのうちに周囲に感染を拡大させてしまっている人がいるのが現状だ。

これらの「ウイルス禍」の加害者および被害者にならないためには、各種感染症を引き起こすウイルスについて正しく理解しておく必要がある。そこで本特集では、秋・冬シーズンに流行しやすい感染症の特徴や対策を紹介していく。今回はノロウイルスについて、小児科医の竹中美恵子医師にうかがった。

  • ノロウイルスに感染すると激しい下痢や腹痛といった症状に悩まされる

    ノロウイルスに感染すると激しい下痢や腹痛といった症状に悩まされる

ノロウイルス感染症の症状や潜伏期間

ノロウイルス感染症は通年で発症するが、冬場を中心に晩秋から春へかけて発生件数が増加。例年は12月~1月にピークを迎える傾向にある。その主な症状は「嘔吐」「下痢」「吐き気」「腹痛」などで、ノロウイルスが引き起こすこれらの症状を総称して感染性胃腸炎と呼ぶこともある。体内に入ったウイルスの量や感染者の抵抗力にもよるが、通常は感染から24~48時間の潜伏期間を経て発症するとされている。

「嘔吐や下痢は一日に数回、ひどいときは10回以上にもおよびます。私の子どもも一晩で18回嘔吐し、一滴の水も飲めませんでした。発熱や悪寒を伴う場合もありますが、発熱してもそれほど高熱にはなりません。抵抗力の落ちている乳幼児や高齢者では、症状が重篤になるケースがあります」

ノロウイルスの感染経路

ノロウイルス感染症は、口から体内にウイルスが侵入して症状が出現する、いわゆる「経口感染」での発症が大半とされている。主な感染パターンは、以下の通り。

■ノロウイルスが含まれる嘔吐物や排泄物

ノロウイルスは小腸で増殖すると考えられおり、体外に出された嘔吐物や排泄物には大量のウイルスが潜んでいる可能性がある。感染者が自宅で嘔吐した場合、その嘔吐物を非感染者が片付ける際に爪の間などにウイルスが入り込み、その手で食事をすることによって感染するケースも起こりうる。床などに飛び散った感染者の嘔吐物や排泄物を処理するときは、使い捨てタイプの手袋やエプロンの装着を忘れずに。

■食品取扱者や食材そのもの

ノロウイルスに汚染された食事を摂取しても、ノロウイルス感染症が引き起こされることがある。仮に飲食店の調理師らがウイルスに感染していた場合、その人が触れた食材もノロウイルスに汚染されるため、提供された料理を食べて嘔吐や下痢などの症状に苦しめられるケースも出てくる。そのほか、食品そのものではカキなどの貝の中にノロウイルスが確認されており、ノロウイルスが流行する時期には、日々の食事にも十分に注意を払う必要がある。

「ノロウイルスは、毎年形を変えて少しずつ強いウイルスになってきています。感染力が非常に強いため、昨年に罹(かか)らなかったといって、今年も罹らないという保証はありません。ノロウイルスの感染を予防するためにも、しっかりとした手洗いやうがいをしましょう。そして感染した場合は、拡大を防ぐためにも机やいすなど、感染者が触れた可能性のある部分は次亜塩素酸水で拭き取っていきましょう」

ノロウイルスの感染予防策

ノロウイルスに対する特効薬は現時点ではない。そのため、感染した場合は脱水症状が出たら補液を、発熱したら解熱剤をといった具合に、症状に対する治療を施していくことになる。大半は3日~4日で症状が軽快するが、肺炎や高度の脱水などの合併症を伴う可能性もゼロではない。もしもそのような状況に陥ったら、しっかりと水分補給をして安静にすることで改善を待つという。

このように対症療法しかないノロウイルスだけに、感染自体を防ぐための予防策が非常に重要となる。食事の面では、ウイルスの活性を失わせる(失活化)ために加熱処理を徹底するとよい。ノロウイルスに汚染している恐れがある二枚貝などの食品の場合は、中心部を85℃~90℃で90秒以上加熱することが望ましいと厚生労働省も推奨している。

感染者からの二次感染を予防する点も大切だ。上述のように、ノロウイルスには次亜塩素酸による消毒が有効と言われており、通常の除菌アルコールでは全く効果がみられないので注意したい。万一、普段使う衣類やシーツに嘔吐してしまった場合は、すぐに洗濯をするのが好ましい。その際のポイントを以下にまとめたので、参考にしてほしい。

(1)衣類やシーツを洗うときは、洗剤を入れた水の中で静かにもみ洗いをする。その際、しぶきを吸い込まないように注意する。

(2)もみ洗いをした後は、85℃以上のお湯で1分以上の時間をかけて熱水洗濯をするのが望ましい。熱水洗濯ができない場合は、嘔吐物を洗い流してから次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤を50倍に薄めた液)にしばらく漬ける。消毒後に改めて洗濯する。

「洗濯をする際は十分にすすぎ、高温の乾燥機などを使用すると殺菌効果が高まります。布団などのすぐに洗濯できないものに対しては、スチームアイロンや布団乾燥機を使うといいでしょう。下洗いをした場所は次亜塩素酸ナトリウムで消毒し、洗剤を使って掃除してください。また、床などに嘔吐した場合も必ず次亜塩素酸を使って消毒をするようにしましょう。薄めた次亜塩素酸をぞうきんに含ませたり、スプレーして拭き取ったりするといいですね」

※写真と本文は関係ありません

取材協力: 竹中美恵子(タケナカ・ミエコ)

小児科医、小児慢性特定疾患指定医、難病指定医。「女医によるファミリークリニック」院長。

アナウンサーになりたいと将来の夢を描いていた矢先に、小児科医であった最愛の祖父を亡くし、医師を志す。2009年、金沢医科大学医学部医学科を卒業。広島市立広島市民病院小児科などで勤務した後、自らの子育て経験を生かし、「女医によるファミリークリニック」(広島市南区)を開業。産後の女医のみの、タイムシェアワーキングで運営する先進的な取り組みで注目を集める。

日本小児科学会、日本周産期新生児医学会、日本小児神経学会、日本小児リウマチ学会所属。日本周産期新生児医学会認定 新生児蘇生法専門コース認定取得、メディア出演多数。2014年日本助産師学会中国四国支部で特別講演の座長を務める。150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加する「En女医会」に所属。ボランティア活動を通じて、女性として医師としての社会貢献を行っている。