注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、昨年10月末に日本テレビを退社した安島隆氏だ。
山里亮太(南海キャンディーズ)と若林正恭(オードリー)による『たりないふたり』シリーズを手がけてきたことで知られ、日テレ在籍中の最後はスポーツ局に。「新しいものを作るワクワクを大切にして楽しく生きていきたい」と同局を退社したが、その主戦場は配信でなくテレビになるといい、「あらゆる人にリアルタイムで見てもらえるような番組を作りたい」と意欲を語る――。
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安島隆
1973年生まれ、東京都出身。早稲田大学卒業後、96年に日本テレビ放送網入社。『落下女』『潜在異色』『たりないふたり』『ぜんぶウソ』『コレってありですか?』『ヨロシクご検討ください』『解決ナイナイアンサー』『ウーマン・オン・ザ・プラネット』『得する人損する人』『犬も食わない~ディスり合いバトルコント~』『newsオードリー』などを企画演出。『オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム』総合演出。24年10月末で同局を退社。フリーのディレクターとして、『オードリーの弾込めてきました!』(フジテレビ)、『ザ・コメデュアル』(Netflix・Prime Video)で演出を務める。エッセイ『でも、たりなくてよかった』(KADOKAWA)発売中。
ちょっと余白があって勝手に想像するのが好き
――当連載に前回登場した日本テレビ『クイズタイムリープ』の生山太智さんが安島さんについて、「スポーツ局で一緒になった初日に飛び込んだら、安島さんは“昔の自分は、自分の面白いと世間の面白いが一致していないことに気づいた瞬間があったから、これを一致させる手法は生山に教えられると思う”と言ったんです。それを後輩に言えることがすごいなと思いました」と言っていました。
そんなこと言った覚えはないし、そんな手法があれば僕も知りたいです(笑)。でも、僕がスポーツに異動してきた初日に、生山くんから「一緒に企画を考えたいんです!」って言われたんですよ。そうやって後輩が来てくれたらうれしいですが、ちゃんと受け止めないと自分の器の小ささが見えちゃうから一番緊張するじゃないですか。だから、ちゃんといいこと言わなきゃとは思いましたね(笑)
――そして生山さんは「安島さんはロジカルに説明して、日本語を操ってる感じがある」とも言っていました。
彼はなぜかよくそう言ってくれるんですけど (笑)。生山くんの熱意に応えたかったし、まだキャリアの短い生山くんが腹落ちしてくれるように、きちんと順番を考えて話すというのは意識していたと思います。
――「日本語を操ってる」に通じるか分からないですが、安島さんの番組タイトルは『落下女』『潜在異色』『たりないふたり』など、短いワードの中でそこに込めた意味を考えさせる印象があります。
タイトルは結構考えますね。ナレーションの言葉やサイドスーパーの文言を考えるのも好きですが、番組タイトルはその最たるものかもしれないです。もちろん番組趣旨を分かりやすくお伝えするのが一番ですが、自分がいち視聴者として「こういう意味なんです」って100%投げられるよりも、ちょっと余白があってそこで自分も勝手に想像するのが好きなので、受け取っていただく方にお任せしたいという部分もあると思います。
ピンとこなかった台本の内容が劇的に面白くなった
――日テレに入社されて、最初から制作部署に配属されたのですか?
はい。お笑い番組志望で入社して、入社2年目に『特命リサーチ200X』(※)という番組のチームに異動になりました。そこにいたのが、吉川圭三さんという総合演出と、財津功さんという演出のおふたりです。
(※)…架空の調査機関「ファー・イースト・リサーチ(F.E.R.C.)」に寄せられた様々な難問を、調査・解決していく情報バラエティ番組。佐野史郎、稲垣吾郎らがF.E.R.C.のエージェント役としてドラマパートに出演。
――あの番組はものすごく緻密に作られている印象がありました。
『特命リサーチ』のVTRって、長いのだと1本30分くらいあるんですけど、その構成台本は30ページくらいになるんです。人間の脳の構造など難しい話を、スタッフが専門書を読んで勉強したり、大学教授に聞いたりして作られた台本が会議に提出されるんですけど、正直ADの僕にとって読んでいてピンとこないものありました。
でも、会議で吉川さんに「安島くんさあ、ちょっと今から言うことをホワイトボードに書いてくれる?」って指示されて、「まず2ページにこれを書いて、次に15ページのこれを書いて…」って言われた通りに書いて並べてみたら、めちゃめちゃ面白いんですよ。「ここで生まれた疑問が何ページで解消されて、解ききれない部分はここにヒントがあって…」ってその場でやっていくと、30ページの台本と全く情報は変わってないのに、劇的に面白くなる。これが「構成」なんだと知りました。