注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、カンテレでドラマ制作を手がける岡光寛子プロデューサーだ。

現在放送中の『ウソ婚』、10月10日スタートの『時をかけるな、恋人たち』と、フジテレビ系「火ドラ★イレブン」枠を2クール連続で担当する岡光P。近年、話題作を次々に放って注目を集めるカンテレのドラマだが、テレビの評価指標が世帯視聴率一辺倒から大きく変化する中、どのような意識で制作に臨んでいるのか。そこには、入社して最初に配属された宣伝の仕事で学んだことも生かされていた――。

  • カンテレの岡光寛子プロデューサー

    岡光寛子
    1989年生まれ、広島県出身。12年、関西テレビ放送に入社し、宣伝部、制作部を経てドラマプロデューサーに。これまでのプロデュース作品に『TWO WEEKS』『姉ちゃんの恋人』『アバランチ』『エ・キ・ス・ト・ラ!!!』『魔法のリノベ』『ウソ婚』など。10月10日スタートの『時をかけるな、恋人たち』では、『魔法のリノベ』の脚本・上田誠氏と再びタッグを組む。

■『時をかけるな、恋人たち』で上田誠氏と再タッグ

――当連載に前回登場したヨーロッパ企画の上田誠さんが、岡光さんについて、「『魔法のリノベ』で(脚本で)ご一緒しましたが、底知れない方。本当にいろんな業務がある中で、“こんなところまで手が回っているのか”、“ここまで気を配られているのか”というのを、すごいレベルでやってらして、変わった試みに付き合ってくださる」とおっしゃっていました。

おそれ多いです。実は元々、カンテレと上田さんが所属するヨーロッパ企画さんの距離が近かったんです。京都の劇団ということもあり、カンテレのバラエティ番組やドラマにもちょこちょこ劇団の方が出られていましたが、私がしっかりと関わったのは『魔法のリノベ』が初めてでした。

――上田さんの印象はいかがでしたか?

本当に大好きなクリエイターです。『魔法のリノベ』の演出をされた瑠東東一郎さんが上田さんと近い方で、「リノベって一見すごく地味なお仕事ドラマになっちゃいそうだけど、上田さんに入ってもらったら見たことがないエンタメが作れそうだよね」ってところで紹介していただいたのが最初でした。上田さんとはいつも形式ばった本打ち(脚本打ち合わせ)というより、お互いに時間があるときに喫茶店や電話、LINEで会話をする中で、様々なものが生まれてくるというやり方をしているんですよ。

――雑談からドラマが生まれてくると。

もう“おしゃべり”レベルですね(笑)。上田さんは1から10言わなくてもニュアンスを理解してくださるので、“こういうの面白いですよね”、“このネタ、楽しいですよね”って話をする中で企画が生まれてくる感じがあります。

――すごく肩の力が抜けたいい環境でのクリエイティブですね。

はい。私にとって一番うれしいパターンかもしれません。上田さんは剛腕ピッチャーでありながら、プロデューサーや監督の意見に真摯(しんし)に耳を傾けて、よりよい形で脚本に反映してくださる天才キャッチャーでもある。システムに翻ろうされる人間を描くのに長け、アホらしいことをやっているように見えて深いテーマをコメディーにする力、そして独特のテンポとワードセンスがあり、アイデアの宝庫のような方です。

――10月10日スタートの『時をかけるな、恋人たち』で再び、上田さんとタッグを組まれます。

カンテレが4月に新設した火曜23時枠のテーマが「ラブ」だったので、私が上田さんに「ラブは書けますか?」と聞いたところ、「うーん」と(笑)。じゃあ、上田さんの得意な時間SFとラブをかけ合わせたら何ができるか考えましょう、というところから企画が始まりました。議論していくうちに、「未来から時をかけてくる恋人を取り締まるタイムパトロールが面白いんじゃないか」と。取り締まらなければいけない立場なのに、未来人と恋に落ちて、今度は自分が時空を超えて逃げる立場になる。

タイトルの逆説は「恋をしようぜ」なのですが、現代人と未来人の価値観の相違も含め、感情はリアルに描きながら、くだらないことを真面目に全力で描こうというテーマで制作しています。吉岡里帆さんと永山瑛太さんを中心に、SFラブコメディーというジャンルにとらわれないドラマを作るべく日々奮闘中です。

  • 吉岡里帆と永山瑛太

    『時をかけるな、恋人たち』(左から 吉岡里帆、永山瑛太) (C)カンテレ

■今のプロデューサーは単にドラマを作っていればいいわけではない

――僕と岡光さんとの出会いは、僕がテレビ誌でカンテレさん担当だったときの錦戸亮さん主演『よろず占い処 陰陽屋へようこそ』でしたね。2013年放送で、その当時、岡光さんは宣伝担当でした。その時代から僕自身も、上田さんがおっしゃっていたように、なんて様々なところに手が回る方だろうという印象がありました。

本当ですか!? とても恐縮です。

――元々、ドラマを作りたくてカンテレさんに入社されたのですか?

そうですね。カンテレは当時から意欲的なドラマ作りをしているという印象があって。今、上司である豊福陽子(プロデューサー)のことも入社前から知っていました。関西の局で、私と同じ女性で、すごく素敵なドラマを作るプロデューサーがいると思い、豊福に憧れてカンテレに入社しました。

――入社してまず宣伝のお仕事をされたわけですが、そこで学んだことは今のドラマ作りに生かされていますか?

ものすごく生かされていますね。宣伝部はドラマ作りを俯瞰(ふかん)して客観して見る立場でもありましたので、そういった視点も生かされていますし、多くの方にお会いする機会があり、そこで培われた人脈というのも役立っています。また今、ドラマがこれだけ量産されている中で、どうすれば選んで見てもらえるかと言えば、大事なのはやはり宣伝なんです。ですのでプロデューサーとなった今も、制作発表会見の台本は私が自分で書いているんですよ。

――そうだったんですね!

はい。やっぱり今は会見をやればいいっていうものではなく、どれだけ多くの見出しがネットニュースなどに打たれるか、見出しを作るための逆算の質問を出演者の方々には振るべきだと考えていまして。プロデューサーとして出演者の皆さんとは近い距離にいますので、あのとき、こんな面白いことを言っていたなとか、この言葉がドラマを象徴するワードだなということを質問に盛り込んでいます。加えて司会のアナウンサーと事前に打ち合わせをして、現場の空気やエピソード、出演者同士の関係性を伝えたり。

その上で、やっぱり会場が沸くような…記者の皆さんが「面白いな、これを記事の見出しにしよう」と思ってもらえるような言葉を出演者の方々から引き出し、ニュースポータルサイトで話題になるよう心がけています。

――まさに宣伝時代の経験があってこそですね。ただ、その当時から今、テレビの見られ方も宣伝の仕方も一気に変わったように思います。今と昔の違いは何でしょうか?

私がプロデューサーになったのは2018年で、その頃はまだ配信が今ほど浸透しておらず、視聴率至上主義でした。コロナ禍前後でいろんなことが変わったような実感がありますね。過去は広告媒体として交通広告に何を打つか、新聞に何を打つか、雑誌に何を打つかが主流だったのが、圧倒的にネットニュースやSNSなど、ウェブへ意識が向かっているように思います。

あとは、自分がどう動いたらプロデューサーとして予算を持って来られるか。また、どうすれば、配信や海外、パッケージ化、キャラクタービジネスなどの二次展開で利益を増やせるか。SNSをどう盛り上げるか。リアルタイムの放送でも、ストックコンテンツとしても楽しまれるドラマ作りをしなければならない。ちょうど過渡期でプロデューサー業をやらせてもらっていたので、今のプロデューサーは単にドラマを作っていればいいわけではなく、まるで何でも屋のように、クオリティの担保と制作費を賄い、広げていくために、先述のことも含めて様々なことを考えなければいけない立場になったということを体感しています。