注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、昨年6月にテレビ東京を退社してフリーになった上出遼平氏だ。
“ヤバい奴らのヤバい飯を通してヤバい世界のリアルを見る”異色のグルメ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』で注目を集め、伝説のバンド・オナニーマシーンのイノマーさんががんで亡くなる瞬間まで撮り続けた『家、ついて行ってイイですか?』のドキュメンタリーや、深夜に突如として放たれた『蓋』など、話題作を次々に送り出してきたが、なぜテレ東を辞める決断をしたのか。ドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』(カンテレ)のエンディング映像など、フリー後の仕事や今後の展望についても、話を聞いた――。
■『ハイパーハードボイルドグルメリポート』と『電波少年』に通底するもの
――当連載に前回登場した元日本テレビの土屋敏男さんが、「『ハイパーハードボイルドグルメリポート』では「ダメだよ! ヤバイよ!」っていうのをやってたし、本も書いてるし、最近だとナイキの映像を撮ったり、『エルピス』のエンディングもやってるし、すごいですよね。次回作を楽しみにしてます!」とおっしゃっていました。土屋さんと言えば『電波少年』ですが、上出さんはご覧になっていましたか?
僕の家のテレビはNHKしかついていなかったので、ほとんど見てないんです。幼い頃から見たいなあとずっと思っていたのですが、大人になってようやく見られて、この前のインタビューも拝読させていただいて、「むちゃくちゃだな!」って思いましたよ(笑)。悪いことも全部ひっくるめてずっと挑戦をしてきたんだなというところに、ほのかなうらやましさはやっぱりありますよね。
当然、今同じことはできないし、やるべきだとも思わないけど、あれだけなんでもありの世界で、「ああ、怒られちゃったね」で終わるみたいな世界ってどこに行っちゃったんだろうなって。今は「怒られちゃダメ」が前提にあってものを作っている状況なので、それはやっぱりブレイクスルーが起こる機会は少ないだろうなと思いました。
――『ハイパー』には『電波少年』に通じる、一見無謀とも言える果敢な取材スタイルという面もあって土屋さんはシンパシーを感じていたようなのですが、上出さんからはいかがですか?
根本的には同じものが通底していると思いますね。“人が見たことのないものを見せる”というのがテレビの根源にあって、それが同じように無謀さの先にあるんだと思うんです。みんなができることをやってもみんなが見たことのあるものしか撮れないんで、必然というか。
ただ、何を無謀かと言うのは難しくて、結果生きて帰ってきてますからね。それよりも、日本のけんか祭りとか、マグロ漁の密着とかのほうが事故率で言ったら無謀なんじゃないかという考え方もありますから。
■イノマーさんを見つめて「もっといろんな人を大切にして生きなきゃ」
――まずはテレ東時代に手がけられたお仕事の話から伺いたいのですが、やはりイノマーさんに密着した『家、ついて行ってイイですか?』(※)がすごく印象に残っています。取材者としても、貴重な体験だったのではないでしょうか。
直接的に人が亡くなっていくというのを目の当たりにしてカメラに収めたのは、もちろん人生で初めてだったんですけど、なかなかひと言では言えない経験で、「面白い」と言える部分もありました。言えない話もあるのですが、仲間たちに見守られる中で死んでいくということはいいなと思いましたね。ベッドのそばにずっと誰かがいてくれて、心臓が止まるまでを見届けてくれるって、心地いいだろうなって。苦しそうでしたけど。
だから、もっといろんな人を大切にして生きなきゃと感じました。結局、人生って人とのつながりじゃないですか。一生懸命生きるって何だろうなと考えると、人数はどうでもいいですけど、どれだけ人とちゃんと関わって生きていけるかというのは、めちゃくちゃ大事ですよね。
(※)…口腔底がんにより53歳の若さで亡くなった伝説のバンド・オナニーマシーンのイノマーさんの葬儀の日にパートナー女性と出会った番組スタッフの取材VTRと、亡くなる瞬間までイノマーさんを撮り続けていた上出氏の映像を組み合わせて放送した番組。ギャラクシー賞テレビ部門2021年1月度月間賞。
――それからテレ東で最後にやられていたのが、『空気階段の料理天国』だったと思います。あまりに平和なまま終わった番組でしたが、どんな狙いがあったのでしょうか。
実は企画になるまで結構紆余曲折があって、いろいろやろうとしたんですけど、「あれはダメ」「それはダメ」っていうのがあって、最終的にはテレ東の営業にも吉本にも本当のことは言わずに放送したんです(笑)。表向きには真っ白な清潔な空間で料理が進行していくというだけの番組なんですけど、出てくるのはパスタの上にチキンが載ってるとか、肉を焼くだけとか、ただの白いバニラアイスとか、料理番組としてどう考えても変なレシピなんですよ。
あれは何かと言うと、アメリカの死刑囚が最後に食べた飯なんです。アメリカには「ラスト・ミール」という制度があって、死刑執行の前に「これを食べて死にたい」とオーダーしたものを食べることができるのですが、番組で登場したのは、その実際のメニューです。基本的には人を殺したとされる死刑囚なんですけど、みんな“人殺し”ということで「最悪だ」と思考停止するじゃないですか。でも、あそこで扱ったのは、死刑執行後にえん罪だと分かった人の飯とか、最後まで無実を主張していた人の飯とか、ずっと虐待を受けてきて最後の最後に親を殺してしまった人の飯で、そういう人たちにもみんな天国に行ってほしい…というところの“料理天国”ですね。
――なるほど!
なおかつ、「空気階段」っていうコンビ名に、僕はすごくおぞましさを感じてて。「空気階段」って怖くないですか? 僕、結構そこから死を連想するんです。
――言われてみると、絞首台へ一段ずつ上がって…と捉えられるような。
あの「空気」というふんわりとした世界が、ものすごく「ラスト・ミール」を連想させるんです。なおかつ、僕は「我が国にこうなって欲しいんだ!」と行動を起こした過激派だけど、力足らず処されたという思いが自分の中にあったので(笑)、そんなことからも、あの番組になったんです。
――空気階段さんという演者がいて、上出さんや竹村武司さん(放送作家)という作り手がいて、「何か起こるんじゃないか…」と期待させておいて、最後まで何も起こさない、ある種の“裏切り”という狙いもあったのでしょうか。
もちろん、おこがましいですが、絶対にそういうふうに思ってくれるだろうというのはありました。それにどう応えるかというプレッシャーはでかいんですけど、性格が意地悪なんで、分かりやすいものを出したいという思いは全くないんですよ(笑)。とにかく視聴者と「どうだ?」って遊んだり、ケンカしたいんですよね。ただお客様に料理を提供しますっていう番組づくりをするつもりはサラサラないんで、そういうことをずっとやっていきたいんですよ。昔のテレビはそうだったんじゃないかと思いますけどね。視聴者とともに作っていくというか。
――よく“共犯関係”という言い方をしますよね。
ただ向こうがこっちを批評するだけじゃなくて、一緒に面白がったりしながら番組を作っていきたいですよね。そのほうがみんな絶対楽しいですから。