――長期シリーズとなったおぼん・こぼん師匠の企画ですが、最初は「解散ドッキリ」を仕掛けるという内容でした。

ナイツさんに「師匠クラスの方で解散ドッキリやりたいんですけど」って相談をして、めちゃくちゃ仲がいい東京丸・京平師匠と、ハード目だけど仲が悪いおぼん・こぼん師匠という2パターンでどうでしょう?ということになったんです。あの時は、おぼん師匠に解散をふっかける仕掛け人のお願いをしに行って「分かった」と言ってもらったんですけど、いざドッキリが始まったらこぼん師匠に全然解散の話をせず、日頃の不満をどんどん言いだして(笑)。ナイツさんもマジで焦ってるから、「これはいつもよりヤバいやつだ」と思って。「本当に解散しちゃう!」と大慌てで、ネタばらしに行った感じですね。

――こぼん師匠がおしぼりを投げたときは、ヒヤヒヤしました。

途中、藤井(健太郎、『水曜日のダウンタウン』演出)さんに電話して「結構ハードな状況です」って言いましたから。

――それがOAされ、以降もシリーズとして続けていくというのは最初から決まっていたのですか?

いやいや全然。OAが終わってから高須(光聖)さんと藤井さんとしゃべってるときに、「またおぼん・こぼん師匠で何かやれたらいいですね」っていう話をして、いくつか企画案を出した感じです。

――それで第2弾が催眠術をかけて仲直りさせるという企画でした。前回がああいう結果だっただけに、緊張感はすごいですよね。

めちゃくちゃ緊張しましたけど、だからこそ面白くなるんじゃないかというのもあるので。ナイツさんもいるし、「多少殴られてもいいや」という気持ちで撮りました。本当に仲直りしてほしかったですし。

――あのまま放っておくわけにはいかない、と。

催眠術はちょっとふざけ過ぎたかもしれないですけど(笑)

――でも、うまく行きかけましたよね。

そうなんです!(催眠術師の)十文字幻斎さんには、年齢の高い方はかかりづらいと言われてたんですが、何とかお願いしてやってもらったんですよね。

――そして結局2回目も失敗で、また怒られてしまいました。

こぼん師匠は毎度すぐ帰ってしまうので、ナイツさんと謝りに行っても全然お話しすることができないんですよ。あの、帰っていく後ろ姿を見てるときが一番怖いです(笑)

■OAよりもっともっと長い説得の時間

――そこから次の「おぼん・こぼんヒストリー」(=NHK『ファミリーヒストリー』のパロディー企画)まで、コロナもあってだいぶ期間が空きました。

ナイツさんに言われたのは、もうドッキリはしんどいだろうと。そんな中、次なる仲直り企画を考えているときに、おぼん・こぼん師匠のこと自体をもっと知りたいという話になってきたんです。正直、『水曜日』内での師匠しか知らないから、『ファミリーヒストリー』っぽく調べてみようということでやりだした感じです。

――2人の仲良かった時代を振り返って、思い出してもらおうと。

でも、あのVTRを作るのはめちゃくちゃ大変でした。師匠にはもちろん言わずに進めているので、思い出の話を取材できない…昔のおぼん・こぼん師匠を知ってる人を探すんですけど、もうほとんどいなくて。情報源が昔の雑誌とかしかなくて、その山のような記事を読んで勉強するってやり方でした。その後、2人の同級生という方が1人見つかったのでお話を聞いて、後半はナイツさんや島田洋七師匠にお話を伺いました。

みんなその後の結婚式のシーンに頭が行きがちなんですけど、僕としてはこの情報集めがとにかく大変でした。あと、ベース『水曜日』に不信感を持っている師匠たちが、VTRをちゃんと見てくれるのかも、マジでドキドキしてましたけど(笑)

――そしてヒストリーVTRを見終わって、こぼん師匠の娘・いづみさんの結婚式に、2人そろって出席することをお願いするんですね。

仲直りできるとしたらもうここしかないと思って頼んだんですけど、こぼん師匠は「2人が結婚式になあ。うーん」という感じで、本当に来るのか分からない温度だったんです。だから、娘さんにめちゃくちゃ頼みました。もう娘さんのパワーしかないと思って。そしたら、当日いらっしゃったんですよ。

――2人がいらっしゃって、いづみさんの両手をそれぞれ組んで登場したときに、スタジオもお茶の間も盛り上がりました。そして、いづみさんの「仲直りしていただけないでしょうか?」に、こぼん師匠は「普通に戻りましょうか?」と歩み寄った。にもかかわらず、おぼん師匠が納得せず、式場から怒って出ていってしまうという…。

あの段階では僕としては、まだそんなにめちゃくちゃヤバいなという感じはしてなくて、変な言い方をすると1つまたハラハラドキドキする展開になってきたなという気持ちもありました。そこからナイツさんが説得してくれて、マネージャーの谷川さんも気持ちを言ってくれて、無事おぼん師匠に戻っていただけることになったんです。ただ、それはOAよりもっともっと長い交渉時間でしたね。

――真っ昼間だった外がいつの間にか夕暮れ、これはものすごく長いロケなんだろうなと思いました。

それで戻ってすぐに、おぼん師匠が手を差し出しこぼん師匠も握手してくれたから、これで仲直りしてハッピーエンドで終われる!と思ったんです。そしたらまさかの、こぼん師匠が「仲直りじゃない!」と言いだして…「このパターンがあるのかあ!」と思って。その上、もう解散すると言いだしたので、これはマズいことになったなと。

――自分の企画のせいでレジェンドコンビが解散してしまう…。

そうそうそう。うわヤバー!!と思って、藤井さんにも「結構エラいことになってきてます」って現状報告だけして、それぞれ控室に入ってもらって「1回冷静になりましょう」と話して。おぼん師匠のところには手伝ってもらっていたディレクターに対応をお願いして、僕はナイツさんとこぼん師匠の部屋に行って、「もう仲直りとかはどうでもいいんで、とにかく解散ということだけはやめましょう」「こんなことで演芸界に損失を出してはいけないし、まだまだ後輩に2人の漫才は見せていくべきです」と説得したんです。

そしたら、こぼん師匠に少し笑顔が見えるようになってきたので、今度はおぼん師匠のところへ行って話したら、やっぱり「漫才が好き」とおっしゃるんですよ。それで、「たしかにこんなことで漫才辞めたらあかん」となったので、僕としては「とりあえず解散はなしということで、終わらせ方は後で考えよう」と。すると、突然おぼん師匠が撤収中の式場に戻って行って、そこからはあれよあれよと。

――式場で座ってたこぼん師匠と急に握手して、一気に仲直りとなりました。ナイツさんは涙されていましたが、池田さんはいかがでしたか?

もうめちゃくちゃうれしくて、おぼん師匠と思わずハグして…。いやあ、本当に良かったなあと思いましたよね。

■解散宣言のままで「OKです」は絶対言わないと決めていた

――あの急展開は、本当に驚きました。やはり漫才コンビ独特の関係性とか距離感ということなのでしょうか?

漫才がとにかく好きだというのは、分かってましたから。絶対に意地張ってるだけなんだと思うし、その気持ちも分かるし。でも、とにかく解散だけはダメだと思って、めっちゃ怖かったですけど、あの険悪モードの解散宣言のままで「(撮影終了の)OKです」は絶対に言っちゃダメだとは腹をくくってました。

――池田さんやナイツさんの説得に加え、マネージャーの谷川さんがMVPだという声もありましたが、やはり存在は大きかったですか?

そうですね。揉めてるときは、本当に僕は無力だと思いましたから。谷川さんにはその前から、こっちが毎回複雑なオファーをしている状況の中でいろいろやってもらって、本当は「おぼん・こぼんヒストリー」も嫌だって言ってたんですよ。「もうこれ以上良くならないですよ」って。

――もう『水曜日』で触らないほうがいいと。

でも、こっちとしては「変な企画じゃなくて、本当に昔のVTRを見て、かつてはこんなに仲良かったんだっていうことを思い出してほしいだけなんです」とお願いして。解散回避の説得をしてたときは、たぶん谷川さんもめちゃめちゃビビってたと思いますけど、だんだん熱くなってきて、普段は不満を言わない人が日頃思っていたことを言ったというのは、相当インパクトが大きかったんじゃないかと思います。

――でも、谷川さんが最終的に企画をOKしてくれたのは、池田さんの「仲直りしてほしい」という気持ちが伝わったからではないでしょうか。

そうですかね。本当は谷川さんが一番仲直りしてほしいと思ってたでしょうし。「同じ空間に2人がいないから、それぞれに同じことを2回言わなきゃいけないからめんどくさい」って言ってました(笑)

池田哲也氏(中央)とおぼん・こぼん=池田氏提供

――仲直り後、おぼん・こぼん師匠からは「君のおかげや」という感じですか?

冗談ではそう言ってくれますけどね(笑)。OA後に東洋館へ行かせていただいたのですが、舞台上から「あいつがしつこかったからや」と言ってくれて、それはうれしかったです。

――「おぼん・こぼんヒストリー」「おぼん・こぼん THE FINAL」の回は、スタジオのパネラー陣も全員芸人さんというのが、また良かったです。

藤井さんと話して決めました。おぼん・こぼん師匠のことを昔から知ってる伊集院(光)さん、漫才師ということで麒麟の川島(明)さん、女性目線でも見てもらいたいということで柳原可奈子さんですね。

――『水曜日のダウンタウン』で、他にも手応えのあった担当企画を挙げるとすると、何になりますか?

「お互い負けるように指示されたダブル八百長対決」ですね。キングコングの梶原(雄太)さんとJOYさんがPKを外しまくるというありえない状況でも、止めずにずっと撮っていくので、結構ハードな収録なんです。本当にスタッフも頭おかしくなるような現場なんですけど…僕はああいうの見てるとめちゃくちゃ笑っちゃうので、何度もカメラの後ろに隠れて堪らえてました。

あと、「芸能界一細い隙間通れるの片岡鶴太郎説」もわりと好きですし、「ヤラセ設定持ちかけられた芸人、番組成立のためならついつい片棒担いじゃう説」でザ・マミィさんにウソの家族と実家ロケやってもらうのとか、ナダルさんが知り合いを電話である場所へ呼び出す企画も良かったです。

――「解散ドッキリ」は、おぼん・こぼん師匠以外の若手でも、他の担当Dさんがやってるじゃないですか。アドバイスなどはされるのですか?

いや、全然しないです。ただ、「俺のほうが怖かったけどね」って思います(笑)