• 『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(毎週月曜24:15~) (C)テレビ朝日

――ご自身の会心の企画を伺っていきたいのですが、放送文化基金賞で構成作家賞を受賞された『しくじり先生』は大きいですか?

あれは北野の企画なんですよ。「企画書が通ったから手伝ってください」と言われて行ってみたら、番組の題字になってる北野が書いた「しくじり先生」って字があって、そのときは「しくじった人が授業する」くらいしか決まってなかったんです。それをどうやって番組にしていくかという会議をやっていく中で、教科書を一緒にめくりながら進行するという形に決まりました。

当時はひな壇トークバラエティ全盛なので、1人のゲストで30分やるなんていうのは非常識中の非常識で、尺が持たないだろうと思われてたんです。結構ネガティブな意見が多くて、僕にもその気持ちがあったんですよ。そこで、大林素子さんが「私結婚できないんです」という授業をやるときに、大林さんにより興味を持ってもらえるように、頭で「1%未満」と出して、「この数字、何だか分かりますか?」って問いかけてもらったんです。この数字は「独身40代女性が結婚できる確率」なんですけど、最初に数字で驚かせて共感を生めば興味を持ってくれるんじゃないかということで、今では『しくじり先生』の名物になってます。

――最初の手応えはどうだったのですか?

北野には申し訳ないんですが、僕は深夜に特番を1回、2回やっても、実はあんまり手応えがなかったんですよ。ただ、局ですれ違うプロデューサーの人とかが「面白かったよ」「評判いいよ」と言ってくれて、しばらくは「あぁ、そうなんだー」という感じでした。だから、レギュラーになると聞いたときは本当に驚きました。

――『しくじり先生』は他の番組に比べて、台本作成作業のカロリーがものすごく高そうですよね。

めちゃくちゃ大変です! 冨澤(有人)さんというプロデューサーがいるんですけど、『しくじり先生』の作り方を見て、「初めて“放送作家”という仕事を見ました!」と驚いてましたから。直前まで台本ができなかったりしたら、僕と北野の2人で朝まで書いて、そこにずっと富澤さんが付き合ってくれて、「これは大変だ!」って。

――まさに“作家”の仕事ですよね。

フォーマットがあるわけじゃないし、この世にない授業を作るわけですから。タレントさんを取材して「こういう授業でできませんか?」と提案して、「ここは違う」と言われたら書き直して…みたいな作業ですし、収録何日か前に「これをやる自信がないです」って言われたら急いで別の人を埋めなきゃいけないこともあるし。よう続いてるなと思いますよ(笑)。だから、そこには1言って10分かってくれる後輩作家たちに入ってもらってます。

■一流大卒のスタッフに説教…「放送作家は夢のある仕事」

―――『両親ラブストーリー~オヤコイ』でも、放送文化基金賞で企画賞を受賞されましたが、以前の取材でお話を伺った際に「知らないことを知る」というのを企画で意識しているとおっしゃっていました。

あの頃はそうだったんでしょうね(笑)。僕はもともと芸人だし、自分で言うのもアレですけど、本当に“奇跡”の作家だと思うんですよ。会議見渡したら僕以外全員、一流大学出てるんです。そこで偉そうにしゃべってるんですから(笑)。たまに北野にお説教して、家に帰ってシャワーを浴びながら、「あれ? あいつたしか京大出てたよな…」とか思って、あいつの母ちゃんに見られたら「うちの子は京大出てるんですけど、あなた高卒のNSCでしょ!」って言われるんじゃないかって(笑)

そんなこと考えると、すごく夢がある仕事だなあと思うんですよ。面白いことだけが得意で好きで、いい大学なんか出なくてもちゃんと通用するよっていうのを、この記事を読んでくれる人に伝えて、放送作家を目指したいと思ってくれる人が1人でもいるといいんですけどね。本当に学もないし知識もないし、企画考えるときに「ロジック」とか言ってても、全く理解できないですから。コント案とか出すと、いい大学出てる人に「これどうやって思いつくんですか?」って聞かれるんですけど、答えられないんですよ。「ごめん、思いついた」って言うしかない。

――“感覚”なんですね。

そうなんです。まさに僕、感覚だけでずっとやってきてるんで、1秒ごとに考えることも違うし。だから、「知らないことを知る」っていう意識も、なんとなく面白いなあと思ったんだと思います(笑)

――そういう感覚を武器にしている樅野さんと、論理的に整理するディレクターさんという噛み合わせが、うまく行っている要素ではないでしょうか。

そうです、もう出会いがすべてです。藤井さんのおかげでいろんなディレクターさんに会いましたけど、いくら自分が面白いことを思いついても、それを具現化してくれるディレクターがいないと結局はいい番組にならないので、ディレクターさんには頭が上がりません。北野とか近藤はその最たるもので、僕が言ったことを全部「面白いです」って褒めて乗せてくれるんで(笑)