――最近は、放送作家さんもYouTubeに進出されている方が増えてきましたが、樅野さんはいかがですか?

僕、実は2019年の暮れくらいから、本気でYouTubeに参入したんですよ。テレビにちょっと危機感を覚えていた時期で、他のこともやったほうがいいなと思って、4~5個くらいチャンネルに携わって、自分の会社でお金出して運営もしたんです。それで、やればやるほど結果も出て、お金ももらえるというのが分かってきたんですけど、そういう中ですごい違和感を覚えるようになって。

――“違和感”ですか?

これって、タレントさんと撮影・編集するディレクターがいればできちゃうんじゃないか、つまり、作家は必要ないんじゃないかと思ったんです。テレビの仕事って、「僕がいなかったらできなかったでしょ?」って胸張って請求書出せるんですけど、YouTubeはどうも気持ち悪くて、1年くらいで全部抜けました。僕に入るお金があるんだったら、それはタレントさんとディレクターさんで分けてくださいって。

それと、ちょうどそのときに、テレビが世帯から個人視聴率重視になって、『有吉の壁』がゴールデンで成功して、お笑い番組が急にめちゃくちゃ増えたんですよ。何年か前まで、僕みたいなお笑い放送作家はもう必要ないのかなと思ってたんですけど、排水口のように僕のところに仕事がどんどん入ってくるみたいなことになっちゃって。だから僕は「テレビが終わったら、僕も終わりでいいや」と決めたんです。

――心中すると。

はい、そんな気持ちです。

――それにしても視聴率指標の変化で、ここまでお笑い番組が急増するというのは、ちょっとバブルみたいで怖くもあるのですが…。

流行っちゃったらいつか終わることは覚悟しています。でも、僕らの仕事って発注される喜びなんですよ。それがある限りは、「もう喜んでやりましょう!」って感じで今やってますね。僕、忙しいのが嫌いなんですけど、暇なのはその100倍嫌いなんで(笑)、暇よりはいいわと思って歯を食いしばってやってるんですけど、ちょっともう回らんぞ!?というところまで来てる感じですね。

  • 『新しいカギ』(フジテレビ系、23日スタート 毎週金曜20:00~)

  • 『かまいガチ』(毎週木曜24:15~) (C)テレビ朝日

――4月からは『新しいカギ』が始まりますし、『かまいガチ』も24時台に上がりました。

それに付随して、ありがたいことにレギュラーがまた数本増えるんです。この年になってこんなことになるなんて思ってなかったので、最近親に言いましたもん。「面白く生んでくれてありがとう。人生楽しいです」って(笑)

――40代後半で「人生楽しいです」と胸張って言える人、なかなかいないですよね!

いやぁ、それは思いますね。でも本当に幸せなんですよ。だって、僕らみたいなお笑い作家なんて、少し前までテレビにいっぱいあった生活情報番組を作るのにいらないじゃないですか。それがまさか、こんなにも「樅野さん、樅野さん」って呼ばれるようになるとは思わなかったですね。しかも、年下の若いディレクターから誘われるのが、すごくうれしい。これはみんなで橋本さんに「『有吉の壁』のおかげです」ってお礼を言いに行かないといけないですよ。

――それ、(名城)ラリータさん(『クセスゴ』総合演出)も言ってました(笑)

『クセスゴ』の会議で、ラリータさんが言うんですよ(笑)。でも、『しくじり先生』をやって本当に思うのは、調子の良いときこそ腰を低くしないといけないということですね。誰の授業を見てもそうおっしゃるんで、調子にだけは乗らないようにしています。

――長年『しくじり先生』をやっていて、人を見る目が変わりましたか?

やっぱり“負けた人”って強いんだなあって改めて思いますね。僕自身も、芸人として大成しなかったし、作家では最初にボロクソ言われたし、いろいろ“しくじり”があって。でもそれを経験して今があると思うんです。竹原ピストルさんの歌と野村克也監督の言葉が僕、すごくしみるんですよ。だから、「人生の成功は遅ければ遅いほどいい」ってずっと言ってるんですけどね。

■売れっ子ディレクター&放送作家に共通すること

――今後、こういう番組を作っていきたいという構想はありますか?

僕は本当に自分にできることを粛々とやるだけです。「助けてくれ」って発注が来たら頑張ってアイデアを出し、「一緒に企画を考えてください」と言われたらお手伝いしに行く。結局、作家は受け手なんで、僕にできることがあればやりますというスタンスで、ずっと変わらずにやっていこうかなと思います。

――『オヤコイ』でお話を伺ったときに、「塩漬けされていた企画が復活した」とおっしゃっていたじゃないですか。最近のお笑い番組の盛り上がりで、他にも掘り起こした企画とかアイデアはあるのですか?

『オヤコイ』は吉本のスタッフに預けてたんで復活できたんですけど、僕は今までの採用されなかった企画のデータを、全部削除してたんですよ。それって、渡辺真也さん(放送作家)の影響なんですけど、昔作家になりたての頃、「過去に書いたコント台本とかあったら、勉強のために見せてくれませんか?」ってお願いしたら、真也さんが「全部捨てるからとってねーよ。そんなの書いた日で終わりだから」って言われたのがカッコよくて、俺もそうしようと思ってパソコンにあった企画、全部削除してたんです。

でも、最近また総合バラエティが各所で始まったじゃないですか。ああいうのって何でもありの番組だから、一度出してディレクターさんがピンとこなかった企画とかコントを違うところで出せるので、今めっちゃストックしてます(笑)

――渡辺真也さんから、そんな影響を受けてたんですね。

素晴らしい放送作家の先輩方の会議を経験できたのも、すごく大きいですね。真也さんのほかにも、石原(健次)さん、そーたにさん中野(俊成)さん……一線で活躍されている方の会議にいっぱい出られたということは、めちゃくちゃ肥やしになりました。あの人たち、笑っちゃうくらいすごいんですよ(笑)。面白くて発想がすごいのは当たり前なんですけど、僕よりも尖ったものを多く出してくるので、それで毎回打ちのめされて反省するんです。あのキャリアでもまだまだ面白いものを数多く出すし。中野さんが作った『ポツンと一軒家』(ABCテレビ)なんて、天才だなと思いますもん。この時代に100点満点のあの企画を作るなんて、もう尊敬しかないですね!

あと、最近気づいたことがあって、売れてるディレクターさんや作家に共通しているのは、みんな気が強くて頑固だということ(笑)。そうじゃないと、個性的な番組って作れないんじゃないかなと思うんです。優しい人は他人の意見を聞いちゃってまんまるな番組になるんですけど、やっぱり番組の名を残した人たちは、みんな頑固だと思いますね。

  • (左から)石原健次氏、そーたに氏、中野俊成氏

――ご自身が影響を受けた番組を挙げるとすると、何ですか?

僕は本当にベタな少年ですよ。ドリフに始まり、『(オレたち)ひょうきん族』に行き、『元テレ(天才・たけしの元気が出るテレビ!!)』を見て、『ごっつ(ダウンタウンのごっつええ感じ)』『ガキ使(ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!)』へ……って、普通の人と同じお笑いを見て育ちましたね。「志村けんカッコいい!」「タケちゃんカッコいい!」「松ちゃんカッコいい!」って。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”をお伺いしたいのですが…

今回は藤井さんからの指名じゃないですか。僕、藤井さんに毎年正月のご挨拶メールをするんですけど、ある年に「樅野はこれからうちの若い連中の面倒を見てくれ」と言われてたんです。それは北野、芦田(太郎)、近藤のことなんですけど、北野はこの連載に出てるし、芦田はいろんなところで取材受けてるので、近藤にします。あいつ、金髪でミーハーなはずなのに「恥ずかしい」って取材めっちゃ断るんですよ。でも、面白いやつですし、『かまいガチ』も24時台に上がったので、ぜひ。

  • 次回の“テレビ屋”は…
  • テレビ朝日『かまいガチ』チーフディレクター・プロデューサー 近藤正紀氏