注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、現在放送中のテレビ東京系ドラマ『サ道』(毎週金曜 24:52~)のプロデュースを手がける五箇公貴氏だ。

30分間まるまるサウナを描く今作や、史上初のバーチャルYouTuber((VTuber)ドラマ『四月一日さん家の』(19年4月期)など、振り切ったチャレンジングな作風の印象を受けるが、話を聞いてみると、そこには“テレビだけで完結しない”仕掛けの狙いがあった――。


■「絶対ウチの局には出ないから」

テレビ東京『サ道』の五箇公貴プロデューサー

五箇公貴
1975年生まれ、東京都出身。早稲田大学卒業後、98年にテレビ東京入社。事業部で舞台やイベントを担当した後、制作部で『大人のコンソメ』『やりすぎコージー』『ゴッドタン』などのバラエティを担当し、『湯けむりスナイパー』『ナイトヒーローNAOTO』『電影少女 VIDEO GIRL シリーズ』『四月一日さん家の』などのドラマをプロデュース。『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』『ローカル路線バス乗り継ぎの旅 THE MOVIE』などの映画も手がける。現在放送中の『サ道』のプロデューサーで、サウナ・スパ健康アドバイザー資格を取得。

――当連載に前回登場したテレビ美術制作会社、コラムニスト、小説家の燃え殻さんが「物書きとして、五箇さんと一緒に仕事をしたいというのをモチベーションにしてやっています」とおっしゃっていました。

出た! プレッシャー(笑)

――燃え殻さんとはどのようなご関係なのでしょうか?

僕は、燃え殻さんの最初の小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)が大好きで、「cakes」での連載から読んでいました。僕らは同年代なんですよね。彼はテレビ美術制作会社、僕はテレビ局ですけど、同時期に業界に入ったから、彼の小説に描かれている当時の状況をよく知っているわけです。バラエティ番組のADだったし、まだコンプライアンスのない時代だったので、本当に家に帰れないし、蹴られたりしていましたから(笑)

――2000年代初頭のテレビの世界はそういうものだったと。

その中でも美術の会社の駆け出しって、本当にしんどかったと思います。紙のテロップがまだあった頃で、それを美術センターから子会社に発注する。そこでは何百枚とテロップを用意しないといけない。その大変さってすごく分かるんです。

――なるほど。

僕もサブカル的なものに憧れて、テレビ局に入ったひとり。当時のテレ東は、今ほどの勢いはなくて。入社当初、新入社員研修の企画書を皆で作るんですが、そこで先輩に言われたことでよく覚えているのは「お前らが考えるようなタレントの名前書いても、絶対ウチの局には出ないから」って(笑)。そんな時代でした。燃え殻さんとは、聴いてきた音楽などの文化的なバックグラウンドも、働いている業界という物理的なバックグラウンドもシンクロしていた。これは面白いな、話したら仲良くなれそうだなと声をかけたんです。

――燃え殻さんは、「僕が小説を書いて最初に接触してくれたテレビの人」だとおっしゃっていました。実際に一緒にお仕事をされるプランはあるのでしょうか?

いつか彼の小説を実写化したい気持ちはありますね。

■「タイミングが合って」企画が通った

――現在、プロデュースを手掛けるドラマ 『サ道』が放送中ですが、この企画がスタートした経緯を聞かせてください。

『サ道』って企画的には一見キャッチーじゃないですか。漫画版(『マンガ サ道』(講談社モーニングKC刊)がスタートした2013年頃から、企画自体は何度も出てきてたんです。僕は若い頃から原作者のタナカカツキ先生の『バカドリル』や、『トンコちゃん』をずっと愛読していましたし、過去に伊藤隆行Pと立ち上げた『やりすぎコージー』のアートワークを任せられたときも、カツキさんにお願いしたことがあったんです。もちろん、11年に出たエッセイの『サ道』単行本も初版で持っています。だけど、当時は企画が成立しなかったし、僕もやれるとは思えなかったんです。

――それはなぜでしょうか?

その時は僕の中で、この作品をどう映像化したらいいのか、ビジョンができていなくて。今回のドラマに関しては、イーストの長島翔監督から「『サ道』一緒にやれませんか?」と、企画を持ち込みに来てくれたことがきっかけです。『世界は言葉でできている』などの演出を手がけていたんですが、音楽や言葉にとてもこだわりのある人で、燃え殻さんと同じように、文化的な造詣もある方で。趣味も共通していて話が早かった。だから「この人に演出を任せたら面白くなる」と直感的に思ったんです。

――そこからドラマ化企画が動き出したと。

企画って、通るものは一瞬で通るんですよね。通らないものは何かしら足りていない。そういう意味で、「タイミングが合った」のかもしれません。

――数年前に比べて、SNSなどを通じてサウナや「交互浴」(サウナと水風呂に交互に入ること)を楽しむ人も増えているように感じます。

弊社のドラマでいうと、『孤独のグルメ』や『ワカコ酒』といった「ひとりで楽しむもの」がジャンルとして成立するようになったこともあります。ドラマとして起承転結があって、1話から最終話まで話を追うために見るものではなくて、『孤独のグルメ』なら飯、『ワカコ酒』ならお酒。ドラマを通してライフスタイルを提案するもの。そういう流れが会社の中で生まれて定着していたことも大きいですね。先人の積み上げがあったからこそ、今回「サウナ」というニッチなジャンルのドラマが実現したんだと思います。

――満を持してのドラマ化ですが、反響はいかがですか?

先日もラクーアで「サウナイト」(サウナ好き文化人が集まって、サウナの明るい未来についてトークをするイベント)さんとコラボした前夜祭を行ったんです。チケットは完売して、しかも8割くらいが女性客で驚きました。(出演する)磯村勇斗さん効果もあると思いますが、基本的にサウナ施設って男性専用の施設が多い。その点、ラクーアは女性も入れる貴重な施設ということもあるのかもしれません。番組を通じてサウナを広めることで、女性も行けるサウナも増えてほしいですし、業界も活性化してほしいです。

――では、他のサウナ施設とのコラボも?

ドラマは上野の「サウナ&カプセルホテル北欧」という男性専用サウナが舞台になっているんですが、そこで女性解放デー「北欧女子会~サ道ドラマ化記念~」というのも開催されました。

――フィンランド大使館で会見も行いましたよね。

はい、サウナの本拠地であるフィンランド大使館さんは「一緒になにかやりましょう」とおっしゃっていただきまして、フィンランド大使館で、番組の記者会見とフィンランドサウナアンバサダー授与式も実現することができました。みなさん、番組を通じてサウナを盛り上げようとしてくださって、テレビ番組のあるべき姿としてすごく理想的な状況だと大変ありがたく思っています。

  • フィンランド大使館での会見の様子(左から)磯村勇斗、原田泰造、三宅弘城

■サウナ英才教育を受ける磯村勇斗

―――制作にあたって、なにか苦労した点はありますか?

笑い話で言うと、今回は監督の意向もあって、「極力バスタオルを巻かない」ことにしています。

――言われてみると、大抵のドラマの入浴シーンは、腰にバスタオルを巻いてますね。

普段お風呂に入るとき、そんなことをしないじゃないですか。その不自然さってすごいよねという話になり、(股間部分に)タオルを置くことはあっても、巻くのはなるべくやめようと。エキストラの方も20~30名ほどいますが、彼らも同じく巻いていないので、チェックも大変ですね(笑)

――放送事故になってしまいますから(笑)。ちなみに、俳優さんたちで「露出NG」の方はいなかったのでしょうか?

事務所さんもご本人も、趣旨を理解してくださって、そこに関しては全任されていましたので、逆に気が重い。冗談ですけど(笑)。マネジメントさんがそういうところを嫌うこともありますので、ありがたかったです。主演の2人、原田(泰造)さんと三宅(弘城)さんは、サウナ道のクラスでいったら有段者です。磯村さんもこの撮影期間でどんどんサウナにハマってますね。若いからフットワークも軽いし、吸収も早いんですよ。周りから教えてもらった温浴施設にどんどん行ってて。素晴らしい師匠に囲まれているから、サラブレッド、英才教育ですよ(笑)