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ドラマにありがちなシチュエーション、バラエティで一瞬だけ静まる瞬間、
わずかに取り乱すニュースキャスター……テレビが繰り広げるワンシーン。
敢えて人名も番組名も出さず、ある一瞬だけにフォーカスする異色のテレビ論。
その視点からは、仕事でも人生の様々なシーンでも役立つ(かもしれない)
「ものの見方」が見えてくる。
ライター・武田砂鉄さんが
執拗にワンシーンを追い求める連載です。
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あと10分だから、もう一山あるかな

年2回くらいのペースで大切な大会を開いているイメージのあるバレーボール中継を観ていると、放送を9時54分まで延長する、と出る。あと30分で終わるというのにまだ第3セットの接戦を放送しているということは、もう逆転することはないのだな、と気付いてしまう。テロップが出る直前まで「まだ諦めるな!」という気持ちを共にしていたのだけれど、早速「もう諦めなさい」に切り替えて、ヌルいお茶をすすり始めている。ここから巻き返しだ、と意気込む実況を聞かされても、もはやこちらの興味は夜分のお茶菓子にある。

終了時間から逆算して読み取ってしまう悪癖は、録画中継のスポーツだけではなく、連続ドラマを観ていても同様。最終回の残り10分くらいであれば「もう一山あるかな」という頭が芽生え、いやはや、これからどうやってヒロインと結びつくのだろうと勘繰る。すっかり気持ちが離れた、いやらしい分析屋に成り下がっているのだが、やっぱり家を飛び出してタクシー拾って離陸前の彼女に会いに飛行場へ駆け込む展開かぁ、と、その動きを全て当ててしまったりして、すっかり上機嫌。

人里離れた一軒家で睦まじく住んでいる3年後

しかし、分析屋が翻弄されるのは、ここから。これで終わりだろう、と踏んだ後に急遽展開される「あれから○年後」というテロップに始まる数分である。バリバリのファッションデザイナーがいきなり田舎のリサイクルショップで働いていたり、ようやく結ばれた2人に子供が生まれて「パパ、いってらっしゃい」と送り出されていたりする。確かに、「その後どうなったのかな?」という興味を持ってはいる。でも、その興味は「なにとぞ答えてください」と請願する意味を持っているものではない。そのまま放っておいてもらって構わないのだが「ええ、それでは、残り時間も少ないのですが、答えますね」という丁寧さによって「あれから○年後」の姿が急いで伝えられる。

なぜ、人里離れた一軒家で睦まじく住んでいる3年後の演技は、こんなにラフなのだろう。寝坊する旦那を叱っている妻がなんだかんだで幸せ、それはとっても大切な光景だけれども、あの1分前の緊張感は一気に醒めていく。順番通り撮影しているわけではないのだろうし、○年後の芝居を重ねて練り上げてきたわけではないからか、手探りな感じが否めない。観ているこっちも、演じているあっちも、慣れていない。慣れていないもの同士がわだかまりをそのままにしたまま本編が終わり、めでたく夫婦になったキャストが、セットのこたつに座りながら「このドラマの原作本を視聴者の方々にプレゼントします!」と話しかけてくる。

余韻と動揺は紙一重

余韻というのはとってもクリエイティブなものだと思うのだが、分かりやすさを至上命題としているあれこれが「全てを説明し尽くさなければならない」という強迫観念にかられている昨今、余韻よりも説明が重視される。「あれから○年後」という手法に流行り廃りがあったとも思えないが、丁寧な後処理は、今なお粗造されている。「あれから○年後」に唐突に亡くなっていたりするのも困る。呆然とする。悲しむ時間がない。なぜ、最終回の残り5分であんなに急ぐのか。

94分くらいで終わるミニシアター系の映画に多いけれど、「ん? これで終わりなのか?」と不安にさせる、情報が足らなさすぎる作品が正しいというわけでもない。エンドロールが流れてはいるけれど背景にはまだ映像が流れているから、ここからまだ展開があるのだろうと待ち構えていたら、スタッフクレジットから背景の映像が暗転してしまい、ええっ、あれでホントに終わりだったのか、と急いで心を落ち着ける。余韻と動揺は紙一重で、作品の温度感を余韻で伝えようとする作り手は、ある一定の、動揺したままの観客を放置しなければいけない。「よく意味が分からない。作り手の自己満足映画。☆1つ」という書き込みを引き受けなければいけない。唐突に終わらせるというのは、それなりに勇気がいることだ。というわけで、この連載は今回で終わります。

<著者プロフィール>
武田砂鉄
ライター/編集。1982年生まれ。2014年秋、出版社勤務を経てフリーへ。「CINRA.NET」「cakes」「Yahoo!ニュース個人」「beatleg」「TRASH-UP!!」「LITERA」で連載を持ち、雑誌「AERA」「SPA!」「週刊金曜日」「beatleg」「STRANGE DAYS」等で執筆中。近著に『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)がある。

イラスト: 川崎タカオ