テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第91回は、4日に放送されたテレビ朝日系バラエティ番組『ザワつく!金曜日 3時間SP』をピックアップする。

同番組は、昨年10月に木曜深夜の30分番組としてスタート。今年4月から金曜21時台の1時間番組として放送されていたが、今秋から2時間前倒しとなる金曜19時台に移動した。

「石原良純、長嶋一茂、高嶋ちさ子の毒舌トリオが妙にザワつく巷の問題を斬る」というコンセプトは、これまで金曜19時台に放送されていたアニメ『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』とは真逆だが、いきなりの「3時間SP」は自信の表れなのだろうか。

  • 『ザワつく!金曜日』に出演する(左から)高橋茂雄、長嶋一茂、石原良純、高嶋ちさ子=テレビ朝日提供

■「3人横並びで正面を向いて座る」雑談ムード

番組は前振りなく、「世界のザワつく!映像」からスタート。この番組を見たことのない人は、「この番組は世界の映像集なのかな」と思ったのではないか。

1つ目の場所はパナマとコロンビアの国境。右上には「不法入国…車から大量の人が! ありえない! 迷惑なヤツら」のテロップが表示され、5人乗りの車から何と18人もの不法移民者が出てきて驚かせた。

2つ目はインドネシアの「横転か? ギリギリ粘るトラック ありえない! 迷惑なヤツら」。明らかに荷物を積みすぎたトラックが慎重に走りながらも、結局は倒れてしまうという映像だった。

3つ目はロシアの「暴行…仕返しに車を破壊 あり得ない! 迷惑なヤツら」。男たちが車を降りてショベルカーの運転手に突然殴りかかったが、ショベルカーの運転手は殴られた仕返しに車を破壊するというマンガのようなオチだった。

4つ目はブラジルの「暴走バイクに2度の惨劇が! あり得ない! 迷惑なヤツら」。猛スピードのバイクが派手に転倒し、さらに折れた柱が頭を直撃という自業自得だった。

5つ目はカナダの「兄を恐怖から救ったのは…あり得ない! ファインプレー」。子どもが乳歯に結んだ糸をドアノブにつなぎ、ドアを閉める勢いで歯を抜こうとしていたが、恐怖のあまり泣き出してしまった。しかし、次の瞬間、怖がるお兄ちゃんの気持ちを知ってか、弟がドアにつないだ糸を棒で叩いて乳歯を取ってあげた。

怒りの映像4連発を中和するように、1つほほえましいエピソードを入れてバランスを取り、ようやく3人+進行役・高橋茂雄のトークがスタート。テーマは「乳歯をどうやって抜いた?」「やりすぎてしまったこと」だったが、3人横並びでリラックスして座っているため、“ただの雑談”というムードが濃い。

オープニングトークが終わると、「今夜から夜7時 ザワつく!金曜日 日本全国迷惑なヤツらをぶった斬れSP」のタイトルが表示された。これは、時間移動によって初めて見る人以上に、これまでの視聴者への「時間が変わってもぶった斬る形は変えませんよ」というメッセージだったのではないか。また、この時間帯に『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』を見てきた視聴者層との別れも意味している。

■「ウソなし、ホンネだけ」の親近感

最初の大型コーナーは、「ザワつく! 富士山24時」。番組は富士山の5合目、8合目、山頂の3カ所に撮影隊を送り、迷惑外国人たちのトラブルを1カ月にわたって密着したという。

その中でスポットを当てたのは、100円のペラペラカッパとTシャツで、無計画な弾丸登山をするインド人7人組と、上半身裸のアメリカ人バックパッカー。すかさずワイプから、一茂が「やめとけ」、良純が「帰れ帰れ」、ちさ子が「バカっているんだよ」と毒を吐く。

結局、前者は寒さで口論をはじめ、ちさ子に「ホント男ってこういうとき、最終的には弱いんだよ」と一蹴されたあげく、山小屋にも泊まれずに下山。後者は高山病の初期症状が出たものの、何とか山頂にたどり着いたが、悪天候のためわずか20分で下山するハメに。やはり「ほら見たことか!」と思わせるスカッとした結末を用意していた。

さらに、「高山病や低体温症のリスクも非常に高い。警察や消防によって救出された場合、救助費用はかからない。すべて国の負担となるのだ。それだけ金銭的にも大迷惑の弾丸登山。みなさんはどう思います?」のナレーションが入り、一茂が「外国人は来ていただくのはいいだけど、日本に甘えないで」、ちさ子が「なめられてるんですよ。金なきゃ来るな」と一喝。その後、山頂でドローンを飛ばす外国人、山頂のトイレを占領する外国人を糾弾してコーナーを終了させた。

次の大型コーナーは、70種類以上の豆菓子を試食できる「鎌倉まめや」の迷惑試食。店では試食用に1日200パック以上(約5万円分)を提供しているが、トングのまま口へ入れたり、一度手に取った豆を戻したり、持参のコーヒー片手に34個(2パック分)を食べたりのやりたい放題だった。

これを見たちさ子の「試食はしない。この歳になると見れば味なんかわかるんだから」という身もフタもないコメントがありつつも、スタジオで豆菓子を試食することに。一茂はわざとトングで食べるフリをして笑わせたあと、「いっぱい試食するやつの気持ちがちょっとわかる。これ店側にも罪があるよ。うまいもん。おれ70種類いくわ」と笑いを畳みかけた。

その後、「4億円…日本橋で大金がとびかう 爆競り中国人を考える」「横行する密輸の手口とは? ザワつく空港税関24時」「まだまだあった 世界のザワつく! 映像」「スズメバチハンター24時」が放送されて番組は終了。

終始、「スタッフが用意した映像をスタジオで見た3人がトークする」という効率重視の完全分業制が貫かれていた。さまざまな場所で密着取材を重ねるスタッフの苦労はさておき、ウソがなくホンネばかりの人柄もあって視聴者は、「3人と一緒にテレビを見ている」という感覚ではないか。

■『かりそめ天国』との親和性は低そう

3時間の中で「これぞ『ザワつく!』」と感じさせたのは、不意に差し込まれた“おやつ”のコーナー。1人前1437円の牛タンカツサンドを食べたあと、高橋の「あと甘いものもありますよ」という問いかけに、良純が「もう甘いもの食べちゃうの?」と返した。

ここで、ちさ子のスイッチが入る。「食べながら(次の映像を)見てもいいんですか?」とスタッフに問いかけると、一茂が「あとしゃべるのは何があるの? もう終わっていいんじゃない?」と呼応する。さらに、ちさ子が「(食べてるから映像を)やってていいよ」と悪ノリしたところで、高橋が「ホンマのレストランか!」とツッコんで笑わせた。

このような「常識の範囲内で見せる傍若無人な振る舞い」こそが3人の強みであり、だからこそ決められた台本とは別の笑いが生まれるのだろう。3人の立ち位置は、“天然の一茂、知識の良純、毒舌のちさ子”をベースに置いただけで、ツッコミとボケを明確に分けないスタイル。ただし、3人そろってキレるようなバランスを欠くようなシーンはなく、笑いが足りないときは芸人の高橋に振るなどの器用さも持ち合わせている。

わざわざ怒るテーマを探す自作自演のムードや、CMのたびに同じ映像を繰り返す編集は気になるが、それもメインターゲットの中高年層はさほど気にしていないだろう。視聴率15.1%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)は移動後初回のご祝儀もありそうだが、近いうちに裏番組『爆報!THEフライデー』(TBS系)の視聴者をごっそり奪ってしまう可能性を秘めている。

ただ、「同じ毒舌が持ち味ではあるが、20時から放送の後番組『マツコ&有吉 かりそめ天国』と視聴者層が違うのではないか」という声もあるように両番組の親和性は怪しく、「続けて見てもらえるか」と言えば疑問符が付く。

とはいえ、視聴率トップを狙うテレ朝が「隔週2時間番組のように交互で放送する」という弱者の戦略は考えづらいだけに、編成・制作がどのような策で臨むのか。しばらく注視していきたい。

■次の“贔屓”は…食べた麺の長さで勝負! ローカル局の挑戦『ご当地麺バトル』

『食べた麺の長さで勝負! ご当地麺バトル』に出演する(左から)西口真央アナ、クロちゃん、西村瑞樹=広島テレビ提供

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、12日に放送される広島テレビ・日本テレビ系単発バラエティ番組『食べた麺の長さで勝負! ご当地麺バトル』(10:30~11:25)。

土曜午前というニッチな放送時間ながらピックアップしようと思った理由は、「食べた麺の長いほうが勝ち」という異色のコンセプト。全国の麺処から広島、愛知、栃木の3県が選ばれ、それぞれ地元にゆかりのある西村瑞樹(バイきんぐ)・クロちゃん(安田大サーカス)・西口真央(広島テレビアナウンサー) 、向井慧(パンサー)・北原里英・Mr.シャチホコ、U字工事・佐藤美希が「8時間でどれだけの麺を食べられるかを競う」という。

もう1つの注目は、ローカル局ならではの発想と意地。制作は広島テレビだけに、全国放送という晴れ舞台の場で、どんなものを見せてくれるのか。麺好きの多い日本人をうならせ、楽しい昼食につなげる番組となることを期待したい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。