テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第80回は、21日に放送された日本テレビ系単発バラエティ番組『サンバリュ 50日間で女性の顔は変わるのか!?』をピックアップする。

『サンバリュ』は2006年10月から放送されている日曜午後の単発特番バラエティ枠(当初は『サタデーバリューフィーバー』の名称で土曜午後に放送)。もともと日テレのスタッフが選りすぐりの企画を持ち込むチャレンジ枠であり、これまで『密室謎解きバラエティー脱出ゲームDERO!』『解決!ナイナイアンサー』『笑神様は突然に…』『1周回って知らない話』などのレギュラー番組を輩出した。

現在もレギュラー放送されている『有吉ゼミ』『沸騰ワード10』『ウチのガヤがすみません!』『THE突破ファイル』を生み出した、まさに登竜門。「日常の“ちょっとした生活習慣の変化”や“人生を変える大きなライフスタイルの変化”の中で、生活、心、顔がどう変わるのかを追う」という今回の企画もレギュラー化への期待値は高い。

なにせ出演者は、全世代人気のマツコ・デラックスと、業界評価トップクラスの平成ノブシコブシ・吉村崇。プライムか深夜かは内容次第だが、レギュラー化を見越して先物買いするつもりで見てみたい。

  • 平成ノブシコブシの吉村崇(左)とマツコ・デラックス

■「つまらない女が一人増えただけよ!」

この番組は、“フツー”の女性たちが、生活をガラッと変えて50日過ごしたら…を実験していくというもの。冒頭、「返り血浴びたみたい」とスタジオのセットにケチをつけたのを皮切りに、「私の台本これ(1枚)だけ」「今日は私、吉村の番組だと思っているからあんたに決めてもらうわよ。ちゃんとやるのか、やらないのか」と言いたい放題のマツコ。「この番組はマツコの毒が肝なんだな」というニュアンスが伝わってきた。

番組は4人の一般女性に50日間の密着取材を敢行。1人目は越谷レイクタウンで見つけたシングルマザーの大須賀さん(28歳)。7歳の双子男児を節約生活で育てながら、近所の飲食チェーン店でアルバイトをしている庶民的な女性だ。

大須賀さんは、表参道にオフィスを構えるファッション誌『25ans』編集部でのアルバイトをスタート。マツコは「たぶん、このあととんでもない(美意識の高い)女編集者が出てくるわよ」とツッコミを入れて笑わせた。

電話に出ると「ドンペリニヨンの件で…」、受付係を務めるイベントのドレスコードは「サムシングフラワー(どこかに花のモチーフを入れる)」など浮世離れしたオフィスで、徐々に変わり始める大須賀さん。マツコは「ちょっと心配になってきた。大事なものを失わないでほしい」と不安視したが、服の費用は番組が負担するにもかかわらず「買い物は地元のイオンばかり」というオチが待っていた。

その後、大須賀さんはヒールを履きはじめ、ジーンズの裾をロールアップし、巻き髪に挑戦して迎えた50日目。オシャレな編集部員に混じってランチする姿を見たマツコが、「もう! こういうことになるじゃないのよ…あっち側の人になっちゃったじゃない」とボヤいて終了した。

2人目は、日テレ内のコンビニで週5日働くアルバイト店員のみすずさん(22歳)。ふだん家にひきこもっていて、「自分の容姿も性格も好きではない」という。スタッフがそんな彼女に用意したのは、意識高い系女子たちがビーチライフを満喫する葉山というロケーション。

現地での費用はすべて番組持ちなのに、カップラーメンやお菓子を食べてばかりの彼女を見たマツコは「すばらしい」と絶賛。さらにマツコは、番組側がSUPをやらせると「この番組やらせだぞ!」、外に連れ出してマリンスポーツやヨガなどをやらせようとすると「行くな~!」と拒んで爆笑を誘った。

ほどなく、みすずさんは憧れの美人女性についていきはじめ、嫌いな野菜を食べ始めるなどの変化を見せ、50日目には別人の顔に。マツコを「私は全然納得できません。海なんて近づくもんじゃないね。またつまらない女が1人増えただけよ」とボヤかせたことが、何より変化の証だった。

■「賛否両論あって当然」の抜かりなさ

3人目は、小田急線・秦野駅前を歩いていた女子大生・キョウカさん(21歳)。漫画研究会に所属し、「男性は女性のビジュアル重視なので、自分の顔をさらしたくない」と絶対にマスクを外さない典型的なオタク女子だ。番組が用意したのは、「イタリア語を勉強しながらイタリアの男たちにホメまくってもらう」というプランで、50日目にはマツコが「これは恐ろしい…何やかんやいって男の力って大きいのよね」とうなるほど効果てきめんだった。

4人目は、日テレ近くの本屋でゲーム雑誌を立ち読みしていたOLのゆうさん(28歳)。番組が用意したプランは、「中学時代から堅物人生で、服とアクセサリーがほとんどない。休日は12時間ゲームばかり」の彼女に、「50日間ダイヤモンドを身につけて生活してもらう」。ゆうさんも同様にマツコが、「あんなにみんな宝石に狂うのは分かるわ」「彼女はこれから大変なことになっていくと思う。まずは部署移動、華やかなほうに行くんじゃない?」と語るほど、激変した姿を見せて盛り上げた。

最先端ファッション、開放感あるロケーション、男性のホメ言葉、高級宝石ときっかけは違えど、4人全員が別人のように変身。「整形やダイエットをしなくてもこれだけ変われる」という意味で、日本全国の「私はイケてない」と自覚のある女性に希望を与えるような番組となった。

忘れてはいけないのは、マツコがスタジオ観覧客に繰り返していた「みんな50日後がいい?(前のほうがよくない?)」という問いかけ。「みんな変わって何か楽しくないわ。変わらないのが見たい」などの不満も含め、「変わらなければいけないというわけではない」「賛否両論あって当然」というメッセージを忘れず、多様性を認めるような手堅さは、マツコならではの安定感だろう。

■『ボンビーガール』の後継番組になれる

エンディングでもマツコは、「いないの? てこでも動かない女」とこぼす一方、吉村は「素晴らしい番組でございました。50日間で女性の顔は変わるのか? やはり変わった顔もあり、本心では変わらない心の顔もあるんじゃないでしょうか。当番組では変わらない顔、これも探していきたいと思います。また次回お会い…」と言ったところで噛んでしまい、締まらずに終了。マツコの「かわいそうだね、あんたって」がオチとなったが、たとえばターゲット層で言えば、今すぐ『幸せ!ボンビーガール』の後継番組になっても驚かないクオリティがあった。

『月曜から夜ふかし』『マツコ会議』と同様に一般人にツッコミを入れさせる、「これぞ日テレらしいマツコの使い方」と言える構成であり、密着撮影に手間がかかる一方、タレントのギャラはナレーションの岩下尚史も併せて3人のみと、コスパは悪くない。今回の放送を見た人はレギュラー化への期待を抱いたのではないか。

“50日間”という瞬発力と持続力の中間を狙った期間は、ビフォーアフターが出はじめるギリギリの設定なのではないか。ドキュメントバラエティに新たな風を吹かせられるか、間違いなく期待感を抱かせる番組だった。

■次の“贔屓”は…今こそ吉本芸人の話芸を見せるとき『人志松本のすべらない話』

『人志松本のすべらない話』に出演する(左から)木村祐一、千原ジュニア、松本人志 (C)フジテレビ

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、27日に放送されるフジテレビ系バラエティ特番『人志松本のすべらない話』(21:00~23:10)。

2004年12月の第1回から特番として放送されること33回。「人は誰も1つはすべらない話を持っており、そしてそれは誰が何度聞いても面白いものである」をコンセプトに、「プレイヤーの名前が書かれたサイコロを振り、出た目の人がすべらない話をする」というシンプルな構成ながら、約15年間に渡って安定した人気を得ている。

今回のプレイヤーは、松本人志、千原ジュニア、宮川大輔、木村祐一、稲田直樹(アインシュタイン)、神田松之丞、小峠英二(バイきんぐ)、粗品(霜降り明星)、大悟(千鳥)、出川哲朗、バカリズム、塙宣之(ナイツ)、小林メロディ(ブリキカラス)の計13人。

松本を筆頭に大きく揺れる吉本興業の芸人が過半数を占めるだけに、話芸の力を見せつけられるか。「神田松之丞」という初参戦の目玉もあり、これまで以上に注目度は高い。引いては、トーク番組全般についても、あらためて考えていきたい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。