テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第253回は、2日に放送された日本テレビ系特番『芸能人監督グランプリ』(19:00~)をピックアップする。

番組のコンセプトは、「芸能人が監督となって本気で気になる芸能人に密着したらどんなドキュメンタリーができあがるのか」。

その組み合わせは、フワちゃん監督が撮る上沼恵美子、滝沢カレン監督が撮る黒柳徹子、東野幸治監督が撮る草なぎ剛、羽鳥慎一監督が撮る斎藤佑樹の4つ。「多忙な人気者が人気者にカメラを回し続けるほか、編集やナレーションを担う」というハードルの高い企画だけに、放送前から期待が大きかった。

  • (上段左から時計回りに)フワちゃん、東野幸治、羽鳥慎一、滝沢カレン

    (上段左から時計回りに)フワちゃん、東野幸治、羽鳥慎一、滝沢カレン

■上沼恵美子はフワちゃんに怒るのか

最初は、フワちゃん監督が撮る上沼恵美子。フワ監督が上沼の印象を「怖えー、恐ろしい、女帝」と語っていたが、「どこまでそのキャラを貫き、上沼がどう受けるのか」がポイントになるのだろうか。

フワ監督が「素を撮るために自宅を訪問し、100個の質問をぶつける」というプランを立てると、上沼はまさかのOK。その自宅は「全国放送では初公開」というだけに、1番手のネタにふさわしい特別感があった。

ただ、いきなり気になったのは、フワ監督が自撮り棒で撮った映像がふんだんに使われていたこと。映像がブレブレで、たびたび上沼の顔が切れているなど、いかにも「YouTuberが撮ってますよ」という編集は賛否があったのではないか。

若年層にはテンポがよく飽きずに見られる反面、画面を埋め尽くすカラフルなテロップ、早送り、効果音、画像、イラストなどを詰め込んだ演出は、個人的に見づらかった。ともあれ、「上沼の主な支持者である中高年層ではなく、コア層(13~49歳)を重視した」ことは間違いなさそうだ。

インタビューの見せ場は、昨年長年続いた番組が相次いで終了した心境を聞かれたときのコメント。上沼は「『欲ばりすぎて何もつかめなかったな』という人生。人生の終わりが近づいてきているから。生き方がね、ちょっと違かったかな。主人が怒るねんけどね、『僕と結婚したのが失敗か』みたいな……はっきり言って失敗やわ!」と笑わせつつ、「今度生まれてくるんだったら中途半端で『大阪だけでってのは嫌だな』って思ってる」と言い切った。

上沼は、最後も「とにかく頑張りますわ。フワちゃんと会えたから。もう捨てたもんじゃない人生は。やっといてよかったな」と清々しい表情でコメント。フワ監督は「みんなに『怖い』って思われることもあるけど、ホントの恵美ちゃんはとってもチャーミングでとっても優しかったよ。いつか一緒にプロレスして遊ぼ~ね。ありがと」というナレーションで締めくくった。

結局、“フワちゃんVS上沼恵美子”の図式は一度もなく、毒気も夫に対するものだけ。演出も内容も軽く、「これだけ?」という肩透かしの感があった。スタジオゲストの別所哲也から「あえて『ここ使わなかった』というところは?」と聞かれたフワちゃんは「テンポをよくするために私の声はなるべく切った」と返したが、減らしすぎたら普通のドキュメンタリーと変わらなくなり、この番組らしさが失われていくのではないか。

4組中この映像に関しては上沼のサービス精神ありきで、『芸能人監督グランプリ』というより普通の日テレバラエティに見えた。

■東野幸治監督は「人選ミス」だった

次は、東野幸治監督が撮る草なぎ剛。SMAP解散後、いまだにゴールデンタイムの民放バラエティに出演するケースがほぼないだけに、それだけで価値と意図を感じさせられる。

映像は「風が冷たくなってきた10月」という東野自身のベタで棒読み調のナレーションからスタート。開始数秒で「芸能人が芸能人を撮る」ことの笑いを誘えるのは、東野の経験と実力によるものだろう。

密着の現場は、主に草なぎと香取慎吾が2人芝居する三谷幸喜演出の舞台。東野監督はまず、草なぎから「正直カメラあると意識しますよね。全部ホント(の自分)なんですよ。作ってる自分もホントなんですよ。『どの一部分を切り取るか』というところだと思うんです」という不満とも開き直りとも思える言葉を切り取った。さらに、東野監督は「まったく謎」「スイッチのオンオフがわからない」というスタッフ側のコメントを引き出し、草なぎ剛の実態を探ろうとする。

続いて、香取の「好きなんですけど、イカれていますよね」というコメントをピックアップしたあと、「台本を完璧に覚えるが、台本を読みすぎない」という凡人には意味不明の極意が明かされた。その後、カメラ店でしつこく質問する姿を「面倒くさい男」とバッサリ斬ったと思えば、「失敗という概念にとらわれず自分の感性を貫く」と称えるなど、東野監督自身が草なぎをつかみきれない様子が伝わってくる。

最後まで草なぎは、「常に結構ムカっとしています。常に喜んでいるし、常に怒っています」「(『芸能人生をひと言で言うなら』と聞かれ、サラダを食べながら)サラダみたいなものですかね。色とりどり見たいな、野菜みたいな感じですかね」と解釈の難しいコメントに終始。これに東野監督は、「監督一作品目の題材として草なぎくんは人選ミスでした。深い人間なのに私ではすべてを引き出せませんでした」というナレーションで締めくくった。

スタジオゲストの安藤桃子が「こんな無責任な監督いないですよね。『被写体として失敗や』って」とツッコミを入れると、ホラン千秋も「自分のせいでなく『人選ミス』って相手のせいにする」とたたみかけて笑いを誘った。『芸能人監督グランプリ』としての面白みは十分で、やはりこの番組の出来は監督の人選が鍵を握っているのかもしれない。