3つ目は、滝沢カレン監督が撮る黒柳徹子。カレンいわく徹子は「妖精のような人」であり、「仕事場からプライベートまで、おとぎ話みたいな人であってほしい」という思いから、絵本風のドキュメンタリーにするという。この時点で、癒やしと笑いのバランスが取れたゴールデンタイムタイムにふさわしいドキュメンタリーになりそうなムードが漂っていた。
カレンは徹子への密着を「ショッピングという名のお宝探し」「小さな願いと9つの夢」などと名付けて、絵本のページをめくっていくように見せていく。ただ、徹子が発する「夢は9回くらいしか見たことがなくて、そのうち5回がマンモス」などのコメントはどれも破壊力十分だった。
さらに、ポニー、犬、ウサギらとふれ合うシーンをはさんで語られたのは、NHK同期の大親友・野際陽子さんとの別れ。徹子は野際さんから「あなたには話しておきたい」と言われていたことを聞けなかったことを今でも後悔しているという。これが今回、最も深い話だったのではないか。
絵本の最終ページに選ばれたのは、主演朗読劇のラストシーン。「80歳で死ぬことも新しい体験」と明るく死んでいく主人公を演じる姿を紹介しつつ、「徹子さんにはまだまだ楽しい夢がたくさんあります」「黒柳徹子さんはこれからも地球に笑顔をお届けします」というナレーションで終了した。
最後に徹子の映像が絵に変わり、「徹子の大きな大きな物語」という絵本が閉じる演出も静かな感動を呼び、スタジオの別所は「歴史的映像遺産になるんじゃないか」と絶賛。このクオリティが続けられるのなら、『芸能人監督グランプリ』は人気特番の1つになりうるのかもしれない。
4つ目は、羽鳥慎一監督が撮る斎藤佑樹。テーマは「『ハンカチ王子』って勝手に名づけられて、これから第2の人生でそれとどう付き合いながら生きていくのか」で、「斎藤佑樹 第2の人生とハンカチ」というタイトルがつけられていた。どう見てもスポーツドキュメンタリーにしか見えない。
現在は後輩と2人で「株式会社斎藤佑樹」を立ち上げて、野球界への恩返しや子どもの未来に還元する活動をしているという。羽鳥監督は、斎藤に投球や打撃のシーンを披露してもらったほか、現在の収入、少年野球専用の球場を作る夢、ライバル・田中将大などへのコメントを引き出した。
■次回に問われる“この番組らしさ”
斎藤は、原点である小学生時代のグラウンドに立ち、渡されたハンカチで顔を拭く姿を再現。さらに「自分のハンカチは持っていない」ことを明かし、羽鳥監督が「ちょっとショック」とこぼしてオチをつけたあと、「かつて自分を苦しめ、嫌な思いをしたハンカチ。今は夢を叶えるための相棒になっていました」というナレーションで終了した。
その他にも、「自分の価値は毎年毎年下がっていく」「(ハンカチフィーバーは)やっぱり、あえて言葉を選ばずにいうと嫌だった」などのコメントを引き出す技術は、さすが羽鳥監督。取材者に踏み込んでいく“メディア側の人間らしさ”が出ていたが、よくある情報番組のようであり、「これは『芸能人監督グランプリ』なのか?」という疑問も浮かび上がった。
興味深かったのは、スタジオでのエンディングトーク。まず別所が「『ドキュメンタリーって本当に難しい』って思うんですよ。なぜかというと相手が思うように動いてくれるか分からない。こうやって見ていると監督と被写体のみなさんがダブル主演のドキュメンタリーみたい」と語る。
さらに、安藤が「娘が小学生なんですけど、彼女たちの世代って動画を撮るのが日常で当たり前ですけど、『この番組みたいに撮る側と映る側の境界線がなくなるんじゃないかな』と思いました」とコメントして番組は終了した。
「ダブル主演のドキュメンタリー」「撮る側と映る側の境界線がなくなる」という2人のコメントが、そのまま番組の目指すところなのではないか。今回は4者4様の色分けが見られたが、次回はもっと両者のキャラクターや自我などを引き出したドキュメンタリーが見られるのかもしれない。
正直、通常の日テレバラエティで見られる構成・演出も多く、「スタッフが毎分視聴率を踏まえて編集したのかな」と感じたところが多かった。それは否定こそしないが、現代の視聴者はもっとリアルなものを求めているだけに、「スタッフではなく芸能人が監督したから、この芸能人が監督したから、この番組はこんなに違う」…そんなクチコミが飛び交う番組になってほしいとも思ってしまう。
■次の“贔屓”は……ドラマ『silent』で話題の街をどうめぐる?『なりゆき街道旅』
今週後半放送の番組からピックアップする次回の“贔屓”は、11日に放送されるフジテレビのバラエティ番組『なりゆき街道旅』(毎週日曜12:00~)。
同番組は「タレントたちが全国の街道を訪れる、台本も筋書きもないなりゆき任せの旅」というコンセプトで2018年4月にスタートし、放送期間はすでに4年半を越えている。
次回の放送は、MCの澤部佑が松尾諭、ロッチ・コカドケンタロウと行くドラマ『silent』のロケ地・世田谷代田の旅。「ロケ地めぐりのファンが殺到している」という街はどうなっているのか。また、バズった自局コンテンツをどう活用していくのか。局と作り手の狙いをチェックしていきたい。