テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第236回は、7日に放送されたTBS系バラエティ特番『現役力士VS肉体派芸能人 怪力バトルフィールド』(18:00~)をピックアップする。

番組ジャンルは“怪力バラエティ”。番組名を見ただけでぶっ飛んだ企画だったことが分かるのではないか。放送前から「現役力士と肉体派芸能人が計6種目で怪力を競い合う」という一点突破のコンセプトに潔さを感じていた。

同時間帯には15組のコント師を集めた『THE CONTE』(フジテレビ系)という注目特番もあったが、スポーツバラエティの可能性を探るTBSを信じてこちらを掘り下げてみた。

  • 『現役力士VS肉体派芸能人 怪力バトルフィールド』MCの東野幸治(左)と山下美月

    『現役力士VS肉体派芸能人 怪力バトルフィールド』MCの東野幸治(左)と山下美月

■「現場でハンデ調整」対決企画の難しさ

番組開始早々、「ザ・アタックボム」という競技がスタート。「力士が押すアクリル板を3m以内で20秒間耐えたら芸能人の勝ち」というルールのもと、「角界のアイアンマン」玉鷲VS平子祐希&小島よしおの対戦が行われた。

玉鷲のみ「189cm175kg」という数値が表示されていたことや、玉鷲が秒殺して「チョロい」とコメントしたことから、「オープニングでいかに力士が怪力かを印象づける」というデモンストレーション的な演出だったのだろう。

実際タイトルコールをはさんで、本当の第1競技「ザ・ヘラクレスラン」が始まった。これは「20mを走り、100kgのH型鋼を10m引っ張り、3tの大型車を40m押す」という複合タイムレースで、上位3人の中に芸能人が1人でも入れば勝ちという。

芸能人チームは、ジャングルポケット・おたけ、2.5次元俳優・桜庭大翔、オードリー・春日俊彰、マヂカルラブリー・野田クリスタルと4人連続で失格。しかし、最後のラグビー系タレント・ノッコン寺田が47秒51のタイムを叩き出して視聴者を驚かせる。ここでラガーマンを投入し、しかも初の成功者となったことで、ほのかに異種格闘技戦のムードが流れ始めた。

一方の力士は、「絶対に諦めない漢」平戸海が42秒59を叩き出したものの、翔猿、若元春、輝が3人連続で失格して敗退決定。最後の妙義龍が41秒56のトップタイムを記録したが、ノッコン寺田が3位に入ったため、芸能人チームの勝利となった。

この競技は大半が相撲の「押し」にあたる動きであり、「力士の圧倒的なすごさを見せる企画」だったはずだ。ところが5人中3人が失格し、ラガーマンが奮闘したことで意外な結果を生み、興味深い滑り出しとなった。

2つ目の「ザ・モンスターオセロ」は、300kgのタイヤ10個と400kgのタイヤ10個の計20個をいかにひっくり返せるかで勝敗をつける競技。オセロというより「怪力でタイヤをひっくり返すだけ」のためか、第1ゲームはあっさり力士チームが勝利を収めてしまった。

続く第2ゲームでは、芸能人チームが土下座でハンデ戦を直訴。力士チームは余裕で受け入れたが、結局芸能人チームが勝ってしまい、最終結果はまさかのドローに終わった。つまり、収録しながら現場でハンデ調整したわけだが、このあたりは事前のシミュレーションでは分からなかったのだろう。前例のない競技だけに、「やってみなければ分からない」という対決企画の難しさが表れていた。

■パワー系競技で力士が完敗の衝撃

ここまで芸能人の1勝1分けで迎えた3競技目は、1.5mの土俵から20秒以内に力士を押し出せるかを競う「ブッシュ・ザ・マウンテン」。芸能人8人が挑み、2人以上勝てば勝ちという。

相撲のぶつかり稽古がベースの競技だけに、横綱・照ノ富士は「これで負けたら引退したほうがいい」と自信満々で力士たちにプレッシャーをかける。初戦の組み合わせは「熊本が生んだスピードスター」佐田の海VSおたけだったが、案の定というべきか。おたけはスタジオゲストの生見愛瑠が「こんなにも男性って投げられるもんなんですか?」と怖がるほどの惨敗を喫した。

続く春日もいいところなく敗戦したあと、力士は「ザ・マシンガンハンド」阿炎に代わり、平子が対戦するも、やはりあっさり敗退。ただ、続くボディビルタレント・横川尚隆は、豪快なやられっぷりと「イチモツが飛び出した」というアクシデントで笑わせ、バラエティ慣れしたさすがの姿を見せた。怪力や筋肉を基準に芸能人を集めると、どうしてもタレント性やトーク力が欠けやすいだけに、横川のような存在は貴重なのだろう。

その後、若隆景が野田クリスタルと桜庭、逸ノ城が小島よしおと魔裟斗を破ったあと、ここでも芸能人チームが「2対1のハンデ戦」を提案。ハマカーン・浜谷健司と品川庄司・庄司智春が逸ノ城に挑み、庄司の反則負けで取り直しになるも、最後は力士チームの勝利となった。

4つ目の競技は、30kgの俵を担いで障害物を乗り越えゴールを目指す「俵さんが転んだ」。ただし、巨大な東野幸治人形が「俵さんが転んだ」と言っているときしか進めないルールだった。

1組目は大栄翔、王鵬、おたけの順で失格となり、庄司も最後に俵を落として全員失格。2組目は浜谷が失格したが、阿炎、佐田の海、青柳塁斗が見事成功。3組目は阿炎、王鵬、電動スミス・しらすが成功したが、小島がラスト1秒で失格となり、計4対2で力士チームが連勝を飾った。

全6つ中これだけは「怪力」というよりエンタメ性重視の競技であり、笑いの手数も多かったのではないか。その意味では、番組中盤の理想的なコーナーだったのかもしれない。

5つ目の競技は、オープニングでチラ見せした「ザ・アタックボム」で、4回中1回でも芸能人が勝てば勝ち。王鵬VS庄司、大栄翔VS青柳、玉鷲VS野田クリスタルの対戦で力士が3連勝したあと、最後に碧山VSノッコン寺田が対戦し、芸能人チームが勝利してしまった。純粋なパワー系の競技で力士が敗れたことで、この日最大の盛り上がりが生まれたが、この力士にとって屈辱的なシーンがエンディングにつながっていく。