テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第207回は、14日に放送されたNHKのジャーナル番組『不可避研究中』(23:35~)をピックアップする。

2019年12月のスタートからほぼ月1ペースで放送していたが、昨春から約8カ月にわたって放送がなく、ファンを心配させていた。しかし、昨年末に再開したほか、今年も放送が継続されることが明かされ、しかもテーマは「結婚」。MCの稲垣吾郎は新しい地図の中で唯一、未婚だけにそのコメントが注目を集めていた。

  • 『不可避研究中』MCの稲垣吾郎

    『不可避研究中』MCの稲垣吾郎

■「圧を感じたことがない」稲垣吾郎

オープニングでファーストサマーウイカが「今日のテーマは、結婚ってした方がいいの?」と発表すると、稲垣が「このテーマね……待ってました。未婚ですから。僕、独身ですよ。このために『不可避』をやってまいりました」と呼応。開始早々、「どこまで本音で話してくれるのか」という視聴者の期待感を高めた。

番組は「結婚に悩むディレクターたちが徹底研究する」という構成で、まず1人目は入局5年目の27歳独身女性で「友人の結婚ラッシュに圧を感じる」という末藤ディレクターが登場。本人が毎日、『あつまるけっこん圧の森』という「“結婚は正義”という圧がエグいこの世界を生き抜くゲーム」(クソゲー)をしている設定のVTRが始まった。

「スマホに結婚報告が届く」「家具の組み立ては『2人で』の指示」「同級生たちとの会話」などの具体的な圧が挙げられた後、末藤ディレクターが“最大圧の根源”と称する友人と対面。その友人が昨年9月にSNSで結婚報告をしたことで、圧を受けたという。

友人は、SNSにアップした理由を「いっぱいSNSで報告をもらってたから私も報告し返したいな。やり返したいなと思ってたかな」「投稿の内容をカジュアルに、大げさすぎないようにした。ごめんね、圧かけるかもしれないけど」とサラリ。最後も「友人の夫が現れ、ペアルックの姿で見送りされる」というオチだった。

VTRが終わるとスタジオトークが始まり、稲垣が「圧を感じる感じないっていうのは、やっぱり自分がそれを望んでいるからっていうのが前提にあるよね。僕はもともと感じたことがないから」とコメント。すかさず、ウイカが「世の中すべてにおいてですか?」と尋ねると、稲垣は「そうそう。あれっ? 根本的すぎた?」と笑っていた。この率直さが稲垣らしさであり、本音を求める人が多い現代のMCとしてフィットしやすいのではないか。

末藤ディレクターが「『結婚しているとクリアな人間、してないと難ありの人間だと思われるのかな』っていう気持ちもある」と悩みを語ると、稲垣は「結婚している側としてない側を分ける必要はないんじゃないかな」、ウイカも「私が思うに、結婚は決して幸せなものではない。私は結婚してなくても、してても幸せです」と返した。

それを聞いた末藤ディレクターが「『人生の一番頂点に結婚がある』って思ってた節がある」と語ると、ウイカが「(ゴールじゃなくて)超スタート!」と即答。1つ目のエピソードから、教訓的な着地点を作ったところは、いかにもNHKの番組らしい。

■「結婚したいとは思ってない」は本音か

2人目は入局4年目の女性で「高校時代の得意科目は日本史」という田中ディレクターが、時空を超えるマッチングアプリをモチーフにしたドラマ『今昔LOVE』を手がけた。

婚活中のレイ(29歳)が時空を超えてマッチングできるアプリで、平安時代の貴族、江戸時代の農家、明治時代の資産家、昭和時代のサラリーマンのデータを目にする。その結果、日本人は時代ごとにそれぞれ違う相手を求めてきたことが分かった。

ドラマを受けたスタジオのトークテーマは、「結婚は時代で変わるか」。田中ディレクターが「かつては女性が選択する自由がなかった。今は結婚するかしないかとか相手も選べる自由な時代に生きている」と話すと、稲垣は「自由だからこそ難しい。選択肢が多いから逆に迷ってしまう」と冷静にコメント。

さらに、田中ディレクターが「すでに世界ではパートナーシップ制度や同性婚が増えているので、今後もっと多様な結婚が増えていくのではないか」「『結婚しなくてもいい』という価値観も広がっていくのではないか」と話を広げると、稲垣は「今後変わっていくでしょうね」と締めくくった。

架空のマッチングアプリを使った演出はユニークだった反面、無難なまとめ方で物足りなかった感は否めない。もっと深く、あるいはブラックに掘り下げられるテーマだったのではないか。

次のテーマは「伝説の仲人さんに聞く! 結婚の極意」。37年で1,267組を結婚に導いてきた伝説の仲人・橋本きよみさん(84歳)が登場した。橋本さんは「理想のタイプとかは一切聞かない」「条件ありきで結婚考えたら失敗する」「ご縁と自分の希望はまったく違う」とキッパリ。年齢も見た目も言動もキャラが立ちまくっていて、稲垣と堂々わたり合っている。

そんな自信を裏付ける「世話した夫婦で離婚したのは5組だけ」というデータが表示されたが、よく見ると「報告があったもの」という注釈つきだった。「あいまいなデータを見せることで、かえって視聴者から疑われてしまう」ケースであり、これは逆にNHKらしくない。

橋本さんから結婚について尋ねられた稲垣は「僕は『結婚したい』とは別に思ってないです。ただやっぱり結婚も1つの形として『今後、自分の人生であるのかな』とも思ってみたりとか」「人生はこうだと決まってない。いつ何があるか分からない」「明日に結婚するかもしれないし、明日誰かと出会うかもしれない」と冗舌に語った。

48歳独身で「今後あるのかな」という余裕のコメントは、いかにもスターのそれであり、SMAP時代のキャラと変わっていない。