テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第164回は、12日に放送された日本テレビ系バラエティ番組『アナザースカイII』をピックアップする。

2008年秋の『アナザースカイ』スタートから12年半、2019年春の『アナザースカイII』リニューアルから2年になる紀行系トーク番組。今回の放送は「豪華女優SP特別編」であり、かつてMCも務めた瀧本美織をスタジオゲストに迎えるほか、高畑充希、浜辺美波らの旅を振り返るという。

視聴者を美しい映像で癒やし、局とタレントのイメージアップ番組として機能してきたが、コロナ禍の影響で国内ロケか過去の総集編が続いている。なぜこのタイミングで女優4人の特別編を放送するのだろうか。

  • 今田耕司(左)と広瀬アリス

■旬の女優・浜辺美波とイタリアの青い海

番組は美しい景色のフラッシュ映像と、「夢の数だけ空がある。アナザースカイ」というナレーションからスタート。映像はスタジオに切り替わり、瀧本美織が呼び込まれると、今田耕司が「おひさしぶり。どうもおかえりなさいませ」と声をかける。現在、今田とともにMCを務める広瀬アリスが同番組にゲスト出演したときのMCが瀧本であり、さらに現在ドラマ『知ってるワイフ』(フジテレビ系)で共演中。華と関係性があり、トークが盛り上がりそうなキャスティングとなっていた。

続いて、高畑充希や杉咲花らが旅した際のフラッシュ映像と、「面が割れていない異国の地。だからこそ素顔を見せてくれた」というナレーションが流れる。歴史の長い番組だけあって、このあたりの丁寧な振りは定型美と言えるかもしれない。

VTRが「女優スペシャル|絶景篇」に変わり、2019年に放送された浜辺美波の映像からスタート。「名前が(英訳すると) “Beach Beautiful Wave”としては『美しいBeachを見たいな』というところで」という理由からイタリア・サルデーニャ島へ。地元・石川県とは異なる美しい海にふれた浜辺は、あいにくの曇り空にも、「日焼けしなくてちょうどよかったりしますけどもね。『ここから旅に興味を持った』って言えちゃうくらい素敵な場所で、印象にこれからずっと残っていくんだろうなと思います」と笑顔で語った。

さらに、青く美しい海をバックに、「ここが私のアナザースカイ、サルデーニャです」という決めゼリフで終了。“美しい景色”と“清々しい表情の美女”、しかも旬の若手女優・浜辺美波というシンプルだが番組最大の強みをいきなり見せつけた。

■美女とヨーロッパの海、丘、城、家

2人目は2017年放送の桐谷美玲で、旅先は「何度も訪れた」というフランス・パリの大好きな場所・モンマルトルの丘。雑誌の撮影でも、母との2人旅行でも訪れていて、「のんびりとした雰囲気で、お母さんと芝生に座りながら『キレイだね』って言ってたんですよ」という微笑ましいエピソードを披露した。

3人目は2017年放送の山本美月で、旅先はドイツ・ロマンチック街道。なかでも2005年に家族旅行で訪れたノイシュヴァンシュタイン城は、アニオタの山本が「最もファンタジーを感じた場所」という。ただ、「ドイツの空に誓った。自分もファンタジーを届けられる女優になる」という締めのナレーションは強引な感もあった。美しい映像がメインの放送回ということだったのかもしれない。

4人目は2017年放送の本田翼で、旅先はスペイン・バルセロナ。初めて訪れたとき、天才建築家・ガウディに惹かれ、世界遺産に登録されたグエル邸や集合住宅カサ・ミラなどを訪れる様子がピックアップされた。

「女優スペシャル|絶景篇」で選ばれたのは、ヨーロッパの海、丘、城、家。異なるカラーとフォルムを持つ美しさをバランスよく構成できるセンスは、この番組のスタッフならではだろう。さらに言えば、その技術はネットコンテンツへのアドバンテージにも見える。

VTRが終わると、今田が「いやあ、やっぱり海外はいいよね」と女優2人に問いかけ、広瀬も「いいですね~」と大きくうなずいて同意。一方、瀧本は「そうだ! 言いたいことがあって。私のMC中、収録で海外(ロケに)行ってないんです。2年あったんですけど……(他の女性MCは)みんな行ってるのに」とボヤいて笑わせ、オチを作った。

ただ1つ残念なのは、ビジュアル優先でゆったりとした作りの番組なのに、コメントのテロップを入れていること。大量テロップの日テレバラエティにしては少ないのだが、ビジュアルとムードが売りの番組だけに……。

■バッキー木場が話せばすべてが感動的に

続いてVTRは、「女優スペシャル|美食篇」へ。まず2015年放送の永作博美は台湾で小籠包を口いっぱいにほおばり、その姿を見た広瀬が「永作さんのこういうところなかなか見れない」と番組の本質を語った。

2人目は2019年放送の杉咲花で、南仏・ニースへ。「生きるために食べるというより、食べるために生きています。前日に明日の朝食べるものを考えて寝るのが好き」というコメントと、旬魚(スズキ)の刺身 特製ソース添えやブイヤベースを食べるシーンがピックアップされた。

3人目は2016年放送の高畑充希で、アメリカ・ロサンゼルスへ。3年ぶりの長期休暇にすっぴん姿で登場した高畑は「赤身が大好きなんです。今まで食べたステーキで一番おいしいかも」と喜びを表現した。

4人目は2017年放送の篠原涼子で、台湾へ。「アイドルだった頃においしさを知った」という生シジミのニンニク醤油漬けを食べて、「この味を(23年過ぎた今も)まだ好きでいたんだ。『ずっと求めていたんだ』っていう感じ」と語った。

ここで「美食篇」は終了し、CMをはさんでゲストの瀧本にクローズアップ。旅先はイタリア・ベネチアで、サン・マルコ広場などを訪れるシーンのあと、イカ墨パスタを食べる未公開映像を盛り込み、バーカロ(立ち飲み屋)でナンパされ、キスされるひと幕も映した。

当地はベネチア映画祭に出演作『風立ちぬ』がノミネートされたことから訪問。瀧本が映画祭でスタンディングオベーションを受けて感極まり、涙を流すシーンが映されたあと、再訪問時に「『情熱がすごいな』って感じたし、お仕事に対する姿勢だとか、真摯(しんし)に向き合っていく大切さとか、言葉にするのは難しいんですけど……頑張って生きなきゃいけないなと思って」と、大粒の涙をこぼす様子も紹介された。

ここでナレーションが「『風立ちぬ』と出会い、人として、女優として、大切なことを学んだ」「何事にも真摯に向き合いすべてを出し尽くす。命果てるまで」とたたみかける。もはやナレーターの“バッキー木場劇場”と言っていいであろう語り口。この番組でこの人がしゃべれば、何でもエモーショナル風になってしまうのだ。

■一社提供時代から変わらぬさわやかさも…木曜25時台へ

さらに、「女優の道は悩んで、もがいて、傷ついて……誰もが通る茨の道」というバッキー木場のナレーションで番組はクライマックスへ。

永作博美の「人前で芝居をすることは恥ずかしいことだと思っていて、稽古も嫌で嫌でしょうがなかったんですけど。でも嫌すぎて反発しすぎて爆発した感じでしたね。何をやってもダメ出ししかされなかったので、もう怒りとセリフと動きが全部一緒になって、ある日爆発して。そしたら『それでいいんだよ』って言われて、フッと力が抜けて気持ち良かったんですよ。『あっ、お芝居をすること、感情をさらけ出すことは気持ちがいいんだ』と思って」という言葉を皮切りに、篠原涼子、中条あやみ、高畑充希、杉咲花、山本美月、本田翼、桐谷美玲、浜辺美波のコメントがピックアップされた。

最後は瀧本が「私の姿を見てドラマでもお芝居とかでも『元気をもらえるな』とか楽しんでもらえたらうれしいし、『面白い』ってみんなが思ってくれるようなものを作りたいと思うし、またあの地に立てるように努力します」と前向きなコメント。すかさず「いつか必ず戻ってくる。経験したすべてを糧にして。称賛と喝采が降り注ぐあの檜舞台へ」というナレーションが入り、瀧本の「ここが私のアナザースカイ。ベネチアです」で締めくくった。

エンディングのスタジオトークでは、今田から「美織ちゃんにとって女優とは何でしょう」と聞かれた瀧本が「『本当に不思議なお仕事だな』って思うんですけど、誰かの人生を生きながらも自分のことも知れる仕事なのかな。『こんな自分いたの?』ってことが知れたり。これからも発見していきたい」と語って番組は終了。BGMとして流れた心が洗われるようなピアノの音色も含め、やはり終始さわやかなイメージが貫かれていた。

スタートから7年半はJTの一社提供番組だったが、当時のイメージが貫かれているということだろうか。そこは当番組のアイデンティティであり、いまだ時間帯トップ級の視聴率を叩き出している要因でもある。

しかし、同番組は今月10日の4月改編説明会で、木曜25時台への移動が発表された。金曜23時台からの移動は残念ながら降格にしか見えないし、コロナ禍による撮影の難しさも含め、もしかしたらいつ終了してもおかしくない状況なのかもしれない。

その意味で、まさに大放出だった今回の「豪華女優SP」は、制作サイドが最後に番組の意地を見せたようにも見えてしまう。「プロモーションビデオのよう」と言われるなど人物ドキュメンタリーとしては、『情熱大陸』(MBS・TBS系)以上に「出たい」という芸能人の多い番組だけに、このまま先細りになって消えてしまうのはあまりに惜しい。

■次の“贔屓”は…渦中の加藤浩次MCで生き残った番組『がっちりマンデー』

加藤浩次

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、21日に放送されるTBS系経済バラエティ『がっちりマンデー』(7:30~8:00)。

2004年4月の『儲かりマンデー!!』時代から合わせて17年になる加藤浩次MCの長寿番組。テーマは経済だが、バラエティらしい出演者、構成、演出で硬いイメージはなく、幅広い年齢層からの支持を得ている。

今春は、加藤浩次と吉本興業のエージェント契約が終了したほか、加藤が同じTBSでMCを務める『この差って何ですか?』『スーパーサッカー』が終了。結果的に生き残る形となったこの番組にも注目が集まっているだけに、現在地点を探っていきたい。