テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第136回は、22~23日に放送された日本テレビ系大型特番『24時間テレビ43 愛は地球を救う』をピックアップする。

コロナ禍の影響で放送やチャリティーの意義を問う声が飛ぶ中、今年のテーマは「動く」。無観客、ソーシャルディスタンス、スタッフやセットの削減、キャッシュレス募金、深夜帯の事前収録など変えたところが多く、制作サイドは「43回目」というより「新しい日常での1回目」と掲げていた。

その構成と演出、ひいては番組そのものが、視聴者の支持を得ることができたのか。

  • 『24時間テレビ』

■「作り手の正義」で押し切ったドラマ

オープニングは、美輪明宏、福原愛、伊藤美誠、HIKAKINがリモートでつながり、V6・井ノ原快彦が「明るく楽しい新しい24時間テレビをお送りします」と切り出し、さらに羽生結弦が開会宣言。確かにこれまでとは異なる形だが、はたして“明るく楽しい”を感じさせられるのか。

まずは、井ノ原、NEWS・増田貴久、Kis-My-Ft2・北山宏光、ジャニーズWEST・重岡大毅、King & Prince・岸優太が、義手のバイオリニスト・伊藤真波さんの生演奏で「糸」を熱唱。時折、誰もいない両国国技館の客席が映されるなど、「これまでとの違いをストレートに見せていこう」という意図が見える。

さらに、募金して写真を投稿すれば国技館の背景に顔が映し出される“バーチャル募金メンバー”、ハリセンボン・近藤春菜と指原莉乃によるスペシャル募金ルームなど、いきなり初めての試みが発表された。ここまでは新鮮さを感じさせる一方、説明的なやり取りが多く、通常よりもエンタメ度は低い。

続いて、目玉企画である高橋尚子の「募金ラン」がスタート。走りはじめる前に高橋へのインタビューが放送され、「お金をいただく気持ちはないです。『偽善』とか言われることもあるでしょうし、『この時期マラソンをやる必要があるのか』とかいろいろなご意見があると思いますが、私が走ることで何か恩返しができれば」という熱いコメントが目を引いた。

このコメントで企画の意義が明確になり、以降は素直な気持ちで応援できた視聴者が多いのではないか。マラソンランナーに限らず、「お金をいただく気持ちはない」とはっきり口にする出演者が増えるほど、番組への否定的な声はグッと減るのかもしれない。

21時すぎ、マラソンに次ぐ大型企画のドラマ&ドキュメンタリー『誰も知らない志村けん ―残してくれた最後のメッセージ―』がスタート。「なぜコロナが収束していない今?」「亡くなった人を利用するのか」などの批判は今もあるが、それでもさまざまなエピソードを凝縮した物語は感動的であり、2時間超がアッと言う間だった。多少の批判は受けても、「いいものはいい」という作り手の正義で押し切れてしまうことを痛感させられる。

■80年代の欽ちゃん時代を思い出す構成

ドラマが終わって深夜帯に入ると、「『嵐にしやがれ』メインパーソナリティー記念館」「日テレ系伝説の映像解禁100連発」「24時間テレビパフォーマンス超豪華名場面」の収録コーナーへ。これこそ今、放送する必要のないコーナーだが、あらためて生放送らしいおふざけ企画を放送できないことに気づかされた。

その他放送された主なコーナーを挙げていくと、「『世界の果てまでイッテQ!』の女芸人12人・学生20人によるリモートリコーダー合奏」「市川海老蔵と岸優太のスペシャル歌舞伎・景清」「おうちQTube ギネス世界記録に挑戦」「全国64か所の打ち上げ花火」

「井ノ原快彦・有働由美子の『あさイチ』コンビが復活」「堀ちえみ、舌がんからの復活ステージ」「体操・田中理恵が7年ぶりの現役復帰」「小松美羽のライブペインティングとチャリティーオークション」「『笑コラ』ダーツの旅特別編」「夏ソング企画」「『有吉ゼミ』ヒロミ&ジェシーの八王子リホーム」

「大林宣彦監督と妻、夫婦63年愛の物語」「ブルーインパルス特別飛行」「『笑コラ×24』BMX兄妹の2020東京五輪のない夏」「医療従事者の方々ありがとうメドレー」「AKB48の神7メンバー9年ぶりの24時間テレビステージ」「さだまさし35億借金も前向き人生」

「75歳年の差黒柳徹子&寺田心 動く! 犬の幸せのために」「『笑点』に佐々木希、ジャニーズ5人が参戦」「総勢42人一夜限り 史上最大のアクションリレームービー」「X JAPAN・YOSHIKIと子どもたちのコラボ」「秋元康が手がけ、加藤茶の歌う“ステイホーム盆踊り”」

コロナ禍を踏まえてか、爆笑を誘うようなエンタメ性の高いものは少なく、ハートフル系の企画を粛々と続けていた印象が強い。平均世帯視聴率15.5%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)という高視聴率を記録した一方、ネット上の反応が微妙だったのは、面白さより感動を優先させた証なのではないか。過去を振り返ると、萩本欽一が出演していた80年代は今回のようなハートフル系コンテンツが大半を占めていただけに、本来の路線に回帰したようにも見えた。

だからこそ気になってしまったのは、いくつかの企画に寄せられた不満の声。ブルーインパルスの飛行に山崎育三郎が歌う「TOKIO」、全国の打ち上げ花火に乃木坂46の歌う「シンクロニシティ」、笑点メンバーがKing & Princeの「シンデレラガール」歌唱など、強引なコラボで“スペシャル企画”にしようとする作為が目についた。「ふだん見られないもの」を押し出した結果、相乗効果どころか、それぞれのファンからブーイングが飛んでしまったのなら残念でならない。

■チャリティー番組にふさわしい結末

けっきょく最後の20時台は、マラソンランナーに向けて「TOMORROW」「Runner」「負けないで」「愛は勝つ」「サライ」を歌う……といういつもの流れ。「新たな日常の1回目」とうたうのなら、これこそスクラップアンドビルドしてほしかった。

それでも計236㎞を走り、470万円を募金する高橋尚子と「チームQ」の土屋太鳳、吉田沙保里、陣内貴美子、松本薫、野口みずきの頑張りは感動を誘い、これだけでも番組放送の意義を示していたように見える。「何のために走っているのか分からない」のではなく、「募金するために走る」「終了時刻に合わせてゴール場所に向かう」のではなく、「終了時刻まで走り続ける」「ボロボロの姿で涙を流して抱き合う」のでもなく「チームで談笑する」。いずれもチャリティー番組にふさわしいものだった。

ただ、マラソンメンバーだけ「お金をいただく気持ちはない」「走った分だけ募金する」のであれば、番組の整合性と一体感は低い。番組内で「ランナーが走った分だけ募金する形式は海外では一般的」と連呼していたが、ならば「出演者全員が無報酬で出演するのが海外では一般的」という前提も求められてしまうだろう。

ゴール直後、土屋太鳳が高橋尚子のイヤホンを耳につけ、お辞儀をして取れてしまったら今度は吉田沙保里がつけ直すというほほえましいシーンがあった。そして、全員が笑顔で視聴者に手を振って番組は終了。肥満・虚弱・老齢などのタレントを指名して走らせ、「感動の押し売り」と言われがちな近年にはない自然なエンディングだった。

募金額は過去10年で2番目にあたる約5億5,200万5,762円に到達。視聴率・募金という数字の面で好結果が得られたのだから、テレビ局としては成功と言える。しかし、「世間の支持を得られたか」と言えばそうとも言えないし、まだまだ試行錯誤は続いていくのだろう。

最後に、メインパーソナリティーを務めたジャニーズの5人は本当に頑張っていたが、チャリティー番組である以上、彼らの責任が重すぎる感は否めなかった。高橋尚子と志村けんさんが大きな感動を与えたように、芸能界、音楽界、スポーツ界などから国民の誰もが知る存在が一堂に会する機会にならなければ、現在のような賛否両論まっぷたつの状態を抜け出し、本当の意味で国民的番組となれないのではないか。

■次の“贔屓”は…生放送で何人の100万円獲得が出るか?『100点カラオケ音楽祭』

(左から)MCの設楽統、日村勇紀、指原莉乃

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、30日に放送されるTBS系バラエティ特番『生放送で満点出せるか 100点カラオケ音楽祭』(18:30~20:54)。

番組名の通り「生放送でカラオケ100点出したら賞金100万円」というシンプルかつライブ感たっぷりの企画で2度目の放送となる。しかも、今回は「出場者全員が100点経験者」だけに「何人達成するのか?」という期待感が大きい。

芸能界からは「美声ハリウッド女優」「紅白出場! 元国民的アイドル」「リベンジに燃える土屋アンナ」ら、一般からは「祖母に捧げる9歳少女」「カラオケ日本代表JD」「奇跡の歌声42歳おじさん歌姫」などが出演するという。