テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第131回は、17日に放送されたフジテレビ系バラエティ番組『ネタパレ』(毎週金曜23:40~)をピックアップする。

一時は存続が危ぶまれた時期もあったが、お笑い第7世代の台頭が追い風になり、放送開始から3年あまりが過ぎた今、ジワジワと存在感を増しつつある『ネタパレ』。メインが漫才やコントなどのネタであることは変わらないが、このところ注目を集めているのがバーチャル大喜利。『IPPONグランプリ』(フジ系)の「写真で一言」に動きを加えたような企画であり、すでに人気コーナーとして定着している。

今回の放送は「真夏の30分丸ごと! バーチャル大喜利スペシャル」。宮下草薙・草薙航基、ラランド・サーヤ、四千頭身・後藤拓実、GAG・福井俊太郎、ゾフィー・サイトウ ナオキ、ぼる塾・田辺智加、ハナコ・秋山寛貴、インディアンス・田渕章裕という歴代MVPの8人がしのぎを削るレア回であり期待が募る。

  • 『ネタパレ』MCの陣内智則(左)と南原清隆

■ガチンコ感をやわらげた南原の優しさ

番組冒頭、「これはただの大喜利ではない。芸人の熱い想い、プライド、すべてが詰まった魂の叫びである。今夜8人のチャンピオンが一挙に集結。最強は一体誰なのか?」という力感たっぷりのナレーションが流れた。「あれっ? もうちょっとゆるい企画じゃなかったかな…」と思ったが、今回は特別版ゆえにムードを変えたのだろうか。

スタジオには支配人・南原清隆、副支配人・陣内智則、従業員・増田貴久に加えて、常連客として『IPPONグランプリ』のメインキャストであり、大喜利名人の千原ジュニアとバカリズムが登場。続いて陣内が、今回の放送は「最強のMVPを決めるチャンピオン大会」であることを強調した。

しかし、それを受けた南原は「普通の大喜利じゃないですからね。人柄で見てますから。面白いだけじゃないのよ」と審査基準を明かし、ジュニアも「大喜利って人柄が出ますからね」と呼応。南原のコメントはガチンコムードをやわらげようとした優しさを感じさせたが、ならばどんな人柄の誰がチャンピオンになるのか? まったく予想がつかない。

大喜利は「4人ずつ2組に分けて行い、各2人が最終決戦に進出する」というレギュレーションで、まずはAブロックの後藤、草薙、サーヤ、福井が登場。他の3人が第7世代の若手であることを振られた福井は「みなさんご存じないかもしれないですけど、今日は第7世代vs“大宮セブン”ということで大丈夫ですか?」と返した。すかさず陣内が「“大宮セブン”のセブンには誰がいるんですか?」と話を広げると福井は6組しか答えられず「もう1組は…忘れました」と笑わせ、これが後の伏線となっていく。

大喜利がはじまると、「(1)教室で一言」「(2)ゴミ屋敷で一言」「(3)手術中に一言」「(4)チンパンジーに一言」という写真が一挙に映し出された。4枚の写真を見たジュニアは、「『写真で一言』じゃなくて、写真の中に入ってやから難しいんでしょうね。(たとえば)教室なんか、子供になるのか、先生・父兄になるのかとか」と若手芸人たちをいたわるように視聴者のハードルを下げていた。『ネタパレ』は大喜利企画に限らず、若手への目線が優しい。

■キレる四千頭身・後藤を優しくフォロー

以下にAブロックの一言をすべて挙げてみよう。

最初に手を挙げたのは福井。教室を選んで「このクラスの給食費、昨日なくなったんやけども…(子供たち全員が挙手する写真で)窃盗団がいます!」と一言。これに陣内が「いいですね。分かりやすくて面白い」とフォローを入れた。

次に草薙がゴミ屋敷を選んで「全然好きなとこ座ってよ」と一言。バカリズムが「人柄を利用した(ネタだね)」、南原も「リアリティある」と称えた。

後藤は、一輪のバラを持つチンパンジーを選んで「『バーチャル大喜利の背景になる』って言ったらピクリとも動かなくなっちゃった」と一言。しかし大スベリで「おい! 何でだ! どうなってんだよ。何でこの企画で自信なくすんだ」と悪態をつくと、バカリズムが「人柄悪いな」、陣内も「後藤は口が悪いな」とツッコんだが、これも優しいフォローだった。

サーヤは手術中を選んで「(寝起きドッキリ風に)おはようございます。ちょっと今回は目覚めるか分かりません」と一言。陣内が「寝起きドッキリね。何を仕掛けようとしたんやろね」と補足説明のフォローを入れた。

以下、福井がチンパンジーを選んで「最後のローズセレモニーなのでバチェラー迷われています」と一言。陣内が「いいね、流行りのバチェラーから」、バカリズムが「1人でちゃんと大喜利してる感じがします」とフォローした。

後藤が教室を選んで「あっ、ちょっと、答え終わってから手挙げてよ、みんな」と一言。ジュニアが「なるほどね。『間違える前提』みたいな」と、こちらも視聴者に補足説明するようなフォローだった。

サーヤがチンパンジーを選んで「ROLANDさん、うちの店で働きたいやつ来てますけど」と一言。南原が「自信があるんだろうな」、陣内が「ニヒルやったな」とやはり優しいフォロー。

福井が手術中を選んで「すいません、すいません。ここ売店行くのに手術室通らないとダメないんですよ」と一言。陣内が「嫌な作りやなあ」とフォローし、さらに「15年間(の芸歴)をぶつけてきてる」と持ち上げた。

草薙が教室を選んで「カメ飼ってる人?」と一言。すると後藤が「みんな飼ってる」、サーヤが「すごい」と、ここでは出場者サイドがフォローしていた。

福井がゴミ屋敷を選んで「まあね、汚い汚い言うてますけどね、本当に汚いのはみなさんの心だと思いますけどもね。どうもゴミ屋敷亭ゴミ助でございます」と一言。陣内が「落語家さんなんだ」、バカリズムが「しっかりしてるなあ」、ジュニアが「いやあ、あの写真使ってキレイにまとめるっていいですね」と絶賛が続いた。

サーヤが教室を選んで「ぎょう虫検査引っかかった人? おしり汚いクラスの担任かよ!」と一言。陣内が「明るい先生やな」「あの担任いいね」「あのクラス行きたいわ」とフォローを重ねた。

福井が教室を選んで「みんなこれ難しいからね。“とぅいま”からでいいからね。(ですよ。のマネで)あーい、とぅいまてーん!」と一言。後藤が「そんなこともできるんだ」と感心すると、バカリズムが「バリエーション、バリエーション」と称えた。

後藤が手術中を選んで「これ、職業体験の人に体験させて大丈夫ですか?」と一言。スベリ気味の空気を察した陣内が「よかったよかった」と励ますようにフォローした。

最後は、草薙がチンパンジーを選んで「すいません、リーダー、言われた通り、トンネルに爆弾仕掛けてきました」と一言。陣内が「怖い」とツッコミを入れてフォローしていた。

計14本の一言が放送された結果、決勝進出は満場一致の福井と、南原が「平均点が高かった」と評したサーヤに決定。好みの差こそあれ、バカリズムが「ちゃんとやった人がちゃんと勝ってくれたなと」コメントする順当な結果だった。

■序盤の“大宮セブン”が優勝者を暗示

ここまで見て分かったのは、一言に加えて南原、陣内ら5人のコメントとセットで1つのネタとして完結していること。「若手芸人たちを一面グリーンの背景に立たせて写真を合成させる」というバーチャルな映像はそれだけで目を引き面白いが、それでもまだ粗削りな彼らが一言だけで笑わせるのは難しい。

だからこそ、画面下部に合成で先輩芸人たちと増田の顔を映し、リアクションを差し込めるようにしたのだろう。先輩芸人たちは温かい目で見守るだけでなく、ピンポイントでホメたり、補足説明したりなどのフォローで、若手芸人たちをできるだけスベらせないようにしていた。

その後、Bブロックの秋山、サイトウ、田辺、田渕が登場し、「(1)プロポーズ現場で一言」「(2)崖で一言」「(3)研究所で一言」「(4)幽霊に一言」のお題で秋山と田辺が最終決戦進出。

福井、サーヤ、秋山、田辺で行われた最終決戦のお題は、「(1)ファンに囲まれて一言」「(2)泥棒に一言」「(3)図書館で一言」「(4)天国への階段で一言」。MVPは南原が「彼の中に今までのストーリーが見えました。『ここで自分は出てやるんだ』という人柄のマジメさ、熱がありました」と称えたGAG・福井が選ばれた。

この日放送された一言ネタは、Aブロック14本、Bブロック10本、最終決戦14本の計38本。30分番組にしてはかなりの多さであり、「数で勝負」というコンテンツ特性が見えてくる。それも、若手芸人がスベる恐怖と闘いながら、勇気をもって挑めるポイントなのではないか。

最後は「チャンピオン大会にふさわしい額の金一封が贈られる」と聞いた福井が「“大宮セブン”の1人ずつに配りたいと思います」とボケて、陣内に「あと1組誰やねん」とツッコませてオチをつけて番組は終了した。振り返ると序盤に“大宮セブン”のコメントをピックアップし、その後も何度かそのフレーズをカットせずに放送していたことが、この結末を暗示していた。

■大喜利にもライブ感が必要な時代

これはスタッフ側の構成と編集のレベルが高いからできることなのかもしれないが、裏を返せば「肝心の大喜利に不安を抱き、技術でフォローしている」という姿勢の表れなのかもしれない。また、前述したように、南原を筆頭に番組全体が若手芸人たちを優しく包み込み、チャンスの場を与え続け、成長を促しているようにも見える。

その意味で「バーチャル大喜利」は、『IPPONグランプリ』のようにトークを最小限に抑えて大喜利のみをフィーチャーできたとき、プライムタイムでも放送できるコンテンツになっているのではないか。また、それができればおのずと「スベりたくない」「絶対に笑わせたい」という若手芸人たちの緊張感やドキドキも感じさせられるだろう。

ただ、その緊張感やドキドキという魅力を考えたとき、「大喜利はそろそろ生放送の番組で見たい」とも感じてしまった。YouTubeやインスタグラムなどネット上のライブコンテンツが充実しつつある今、番組の質と同等以上にライブ感が重要な時代になっているからだ。

『M-1グランプリ』(ABCテレビ・テレビ朝日系)ほどシビアである必要性はないが、スベるところも含めてまるごと放送する。ウソがなく、作り手の編集で誘導されない番組。人々が求めるものが変わってきている以上、作る人も出る人も覚悟が必要なのかもしれない。しかし、それができれば笑いのボリュームは大きくなり、芸人のすごさを体感できるはずだ。「言うは易く行うは難し」だが、だからこそ価値がある。

■次の“贔屓”は…8年目のリニューアルで何が変わった? 『ジロジロ有吉』

有吉弘行

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、24日に放送されるTBS系バラエティ番組『有吉ジャポンII ジロジロ有吉』(毎週金曜24:20~)。

2012年10月スタートの『有吉ジャポン』が今月3日リニューアル。番組のコンセプトは「世の中のいろいろな物事をジロジロして人を見る目を鍛えるセミナーバラエティ」と大きく変わった。

ここまで放送されたテーマは、「結婚したら良い夫になる男性ってどんな人?」「本当に頼りになる先輩ってどのタイプ?」「へそで女性の本性が分かる」「足ウラを見れば性格や相性が分かる」「結婚したら良い妻になる人ってどんな人?」という女性誌の特集を思わせるラインナップ。さらに、「人気タレントたちの本性を見られる」という魅力も加わるなど、エンタメ度アップのムードが漂っている。