テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第123回は、23日に放送されたNHKのバラエティ番組『よなよなラボ』をピックアップする。

ミュージシャンの岡崎体育とヤバイTシャツ屋さんの3人が「みなさんの想像以上にスマホだけで作る番組」として先月にスタート。「土曜深夜にチャット、検索、SNS投稿などを駆使して“じぶん的無敵ライフ”を考える」というリモートが前提の番組だが、新型コロナウイルスが感染拡大する前から、この企画は決まっていたようであり、驚かされる。

今回の放送では、「日本よりフィットする国がある気がする」という岡崎がスマホを使って世界旅行に挑戦し、ベストフィットの国を探していくという。さらに、世界中の人々と日本語だけでトークできるアプリも登場するなど、深夜番組とあなどれない期待感がある。


■「YouTubeを見せるだけ」の自己紹介

岡崎体育

番組は「さっ、では、はじめようかな」という岡崎の声と、スマホの画面からスタート。ホームボタンが押され、アプリのアイコンが並ぶトップ画面に変わり、自撮りをしている状態の岡崎が現れた。

岡崎は「ミュージシャンをやっておりまして、『どんな音楽をやっているか』、みんなに聴いてもらおうと思います」と自己紹介をはじめてYouTubeを開く。画面上部にマクドナルドの「ごはんチキンタツタ新登場!」という広告がデカデカと映され、検索画面に変わると「岡崎体育」「ヤバイtシャツ屋さん」「東海オンエア」「asmr」「サンドウィッチマン」「乃木坂工事中」「日向坂で会いましょう」という過去検索の文字が見える。つまり、岡崎のスマホ画面がそのまま番組の映像となっているのだ。

岡崎は、自分のMVを「ああカッコイイ!」と自画自賛したあと、LINEのグループビデオ通話でヤバイTシャツ屋さんの3人を呼び出す。すぐに画面が4分割になってトークが始まり、こやまたくやがグループの紹介としてYouTubeでMVを流した。制作サイドにとって、「YouTubeを流してもらうだけ」のプロフィール紹介は画期的であり、仕事を減らす革命的な演出にも見える。

岡崎は4人でスクリーンショットの撮影をしたり、音楽アプリ・Spotifyで名曲を流したり、Twitterを立ち上げて番組アカウントをのぞいたり、朝日新聞がこの番組を取り上げたニュース記事を開くなど、自由気ままに番組を展開していく。しかし、少し見方を変えれば、岡崎は「ふだん通りスマホをいじっているだけ」なのかもしれない。そんな自然体の姿勢は、そのまま視聴者の親近感につながる。

ここまでいろいろな仕掛けが見られたが、まだ番組スタートから3分が経過したのみ。多少の粗さこそ感じるものの、分かりやすさとスピード感を両立させた画期的な演出手法であり、同時に「この番組はスマホだけで完結する」というコンセプトを強烈に印象づけていた。

■外国人との会話アプリが次々に登場

本題の「妄想旅行」に入ると、こやまたくやが番組Twitterを開き、フォロワーたちにおすすめの国を尋ねて、実際に投稿されたものを見ていく。

こやまは、投稿されたロシアとポルトガルの写真を紹介したあと、自身のタイ旅行をアップしたインスタグラムをタップ。これも「旅行中の写真や動画を4人で共有しながら、同時に視聴者にも見せられる」という効率的な演出だった。わずか3分間のスマホ写真と動画で、ちょっとした世界旅行気分にさせられるのだから、やはりネットコンテンツはテレビ番組の強力なライバルなのだろう。

続いて、岡崎が「最近、東京に引っ越してきたけどしんどいなって。生活していく中でスピード感とかが早いから。もしかしたら日本以外の国で自分にフィットする国があるかも」という企画の主旨を話し、候補となる国の条件をLINEのメッセージで4人に送った。

ちなみにその条件とは、(1)税金に関する国民の不満度が低い国 (2)水回りが清潔な国 (3)地平線水平線が感じられる国 (4)ご飯のクセが強くない国 の4つ。ゆるさの中にガチが顔をのぞかせるチョイスは岡崎らしく、彼が愛される理由が見える。

すると、しばたありぼぼが「海外の人に質問を投げられる」という言語学習アプリ・Hello Talkを紹介。「What do you like about your country?」と呼びかけて反応を待つことになった。さらに岡崎が「いったん解散」と声をかけて、3人が「退出しました」という文字が表示された。

1人になった岡崎は、自動翻訳機能がついたチャットアプリ・Abloを使ってアルゼンチン人とのトークを開始。打ち込んだ日本語の下に変換されたアルゼンチン語が表示され、何度か会話が続いたものの、街並みの風景写真をリクエストしたら退出されてしまう。続いてトルコ人にも接触し、今度は写真を送り合う円満なトークとなったが、どちらもリアルだった。

その後も、スマホを使った仕掛けは多彩。岡崎体育が「友人で話を聞いてみたい人」としてスペイン在住のサッカー選手・岡崎慎司と、同業者の鬼龍院翔に声をかけて3人でグループトークを行う。もりもりもとが「愛してる」をトルコ語、タガログ語、アイスランド語に変換して紹介。岡崎体育がTwitterに投稿されたニューカレドニアやフィンランドの現地写真と一体化して現地人になり切る。「ロサンゼルス在住歴のある帰国子女」としてフワちゃんが岡崎体育の疑問に解答。もりもりもとがウーバーイーツで外国料理のクスクスをオーダーして食べる動画を撮る。

■ズラリ並んだアプリアイコンの意味

制作サイドは4人にきっかけを与えているだけで、基本的に現場主義・演者まかせの撮影コンセプトは、YouTubeを彷彿(ほうふつ)とさせられる。視聴者にとっても、「番組Twitterへの投稿がアプリだけでなく、テレビ画面にも映る」のはうれしいのではないか。

各局を見渡しても、「情報を提供して楽しんでもらう」「番組に参加して楽しんでもらう」という2つの楽しみがある番組は、まだまだ少ない。それを増やしていくためには、進化を続けるネットツールに目を配り、その上でどれを選んで、どう活用していくのか。テレビマンたちの制作姿勢も進化を問われている。

最後は、岡崎が筆アプリ・Zen Brush 2を使って“今日のまとめ”を発表。「結局 人による」と書き込み、4人は「ありがとう、おやすみ~」と声をかけ合ってグループトークを締めくくった。そして、やはり最後のカットも、スマホのトップ画面。横4列×縦7段=28個が並んだアプリアイコンの多さを見ると、今後のさらなる拡張性を感じずにはいられない。アプリが開発されるほど、テレビ番組にとっては、それを生かすチャンスが広がるからだ。

あらためて番組を思い浮かべると、スマホ画面のため左右両サイドが真っ黒の縦長映像、ボソボソと話して表情の変化が乏しいローテンションの岡崎、検索履歴や写真フォルダをそのまま番組に映す演出、カメラの向きがズレるなどのケアレスミスなど、民放各局では見られないものばかりだった。

NHKは当番組だけでなく、画面を4分割して4カ所のリモート撮影を同時に見せる『金曜日のソロたちへ』も昨年5月にスタートするなど、ネットを使った“ラボ”のスピードが早い。だからこそ両番組ともに「単なる深夜帯の実験番組」で終わらせずプライムタイムでの放送を実現させ、「民放各局が追随せざるを得ない」というムーブメントに昇華させてほしい。

しかし、もし民放各局がこの手の番組を企画したら、話術に長けた芸人たちを中心にキャスティングするのではないか。一方、岡崎とヤバイTシャツ屋さんの4人は、友人グループのようなフリートークを続けていただけで、特に笑いを取りに行く姿勢は見せなかった。

今後のバラエティは、「出演者が視聴者を笑わせる」という一方的な図式ではなく、当番組のように「出演者と視聴者が一緒に楽しむ」という親近感重視のものが増えるのかもしれない。その意味で当番組のキャスティングは、民放各局にとっても有意義なラボと言える。

■次の“贔屓”は…揺れる恋愛リアリティーショーの現在地点 『あいのり』

『あいのり African Journey』MCのベッキー

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、30日に放送されるフジテレビ系バラエティ番組『あいのり African Journey』(毎週土曜25:45~)。

99年から09年までレギュラー放送されて人気を博したあとも、CSのフジテレビTWO、Netflix、FODで続編を配信。数カ月遅れで地上波でも放送され続けている「恋愛リアリティーショーの旗艦番組」と言っていいだろう。

最近でも、18年に『あいのり Asian Journey』、19年に『あいのり Asian Journey2』、20年に『あいのり African Journey』が地上波放送されるなど根強いファンも多いが、『テラスハウス』に出演中の木村花さんが急死したことで、恋愛リアリティーショーを取り巻く空気が一変。『あいのり』を通して、恋愛リアリティーショーの現在地点と今後の行方を占っていきたい。

著者:木村隆志(きむら たかし)

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。