各局の10月改編がほぼ出揃った。10月の改編、いわゆる"秋改編"よりも春の改編のほうが新年度スタートを飾る意味もあって、大規模でお金をかけたものになりがちだが、秋改編は秋改編で重要なのである。何故ならテレビ放送は切れ目なく行われ、秋から冬にかけての勢いも、来るべき春に少なからず影響を与えるからだ。テレビはただの現在にしかすぎないが、未来にもつながる――今回の改編には、その意図が見え隠れする。

フジテレビ『直撃LIVEグッディ!』の終了

フジテレビは平日昼帯を中心に大幅な改編を行う

きょう改編の発表会見を行うテレビ東京以外の、各局の全日帯(6時から24時まで)の改編率(=番組を新しく始めたり、放送時間を移動したりといった作業が行われた割合)を低い順に並べると、最初にくるのが日本テレビの5.0%。次いで低いのがTBSで5.36%。3番目はテレビ朝日で10.3%。最も大きく改編したのがフジテレビで、33.1%となる。この改編率から分かることは、日テレがタイムテーブルにほとんど手を入れなかったということ。すなわち、視聴者の支持を得ているから番組を変える必要がないという自信の表れだ。TBSも同様に低いが、春改編でゴールデン・プライム帯で大ナタを振るったから、コロナ禍での結果をみて改編するには時期尚早という判断が働いたと思われる。

突出した改編率となったフジテレビ。特に大きいのは『直撃LIVEグッディ!』の終了だろう。『グッディ!』が終了して、新たに始まるのは『バイキングMORE』。現在放送中の『バイキング』を1時間拡大し、14時45分までの放送に。バラエティー班から情報制作局チームが主体になるということで、「ホンネトーク&ニュースLIVEショー」に生まれ変わるとしているが、単純に『グッディ!』終了で浮いたスタッフがそのまま番組に移ったようにも思える。すべては結果=視聴率なので、そんな批判も気にせず新しいジャンルを切り開いてほしいところだ。

そして、このフジテレビで見過ごせないもう1つの動きは、『Live Newsイット!』の拡大。現在より1時間前倒して15時45分スタート。日テレ、TBSの夕方ニュースが始まる時間帯に殴り込みをかけた形だ。加藤綾子アナと榎並大二郎アナの2人をフレッシュと謳うのには無理があるが、勝算があるのだろう。確かにこの時間、全局が足並みを揃えているわけではないから、ニュースを欲する視聴者を獲得できるかもしれないし、3局での争いなら多少の旨味はあるかもしれない。その後の17時台・18時台の流れを考えても悪い戦略ではない。

"テレビを欲している視聴者"を狙うテレビ朝日

テレビ朝日は平日深夜に14本の新番組をスタートさせる

対照的なのがテレ朝だ。老舗『スーパーJチャンネル』は拡大どころか、15分短縮となる。各局がライブでニュースを放送する枠を広げていく中で、逆行するような短縮。もちろん、ここにはワケがある。15分短縮し、ゴールデンのバラエティー番組開始時間を他局より早い18時45分とすることで、若い視聴者層を取り込むということだろう。ここにはニュースを欲している視聴者という限定的な考えではなく、"テレビを欲している視聴者"を貪欲にまで狙っていくという広い視野がある。

夕方ニュース戦争に一石を投じるようなバラエティーの18時台拡大。テレ朝はそこにとどまらず、深夜で『バラバラ大作戦』と題し、14本ものバラエティー番組をスタートさせる。1本20分で20~30代の若手プロデューサーやディレクターが担当。制作費はそれほどないはずの深い時間(ほぼ26時台)の深夜番組だが、そこは若手の知恵と根性で乗り越えろということだろうか。そんな中で気になるのは、やはり20分という尺設定。YouTubeでよく見られる映像尺を意識したものなのか、CMなどを省くと15分程度で収まる尺だ。今や「動画が途中から始まるからテレビはつまらない!」と怒る若者もいるのだから、時間を短くして、できる限り番組の"途中"感を持たせたくないという意図もあるだろう。テレ朝は土日プライム帯のバラエティーも30分番組にして段積みするなど、攻めの姿勢を取っているが、これはもしかしたらテレビのYouTube化の始まりの瞬間なのか?

AIを活用する日本テレビ

『金曜ロードSHOW!』で「コアターゲット・家族視聴」強化を打ち出した日本テレビ

ここまで書いておいて何だが、実はこの秋改編で筆者が一番注目しているのは、日テレだ。改編率も低く、どこが興味深いんだ? と問われそうだが、『金曜ロードSHOW!』である。当連載で2週連続取り上げているので、まるでコナンやジブリアニメ状態だが、この『金ロー』で、AIによる視聴率予測システムを活用していくと発表している。TBSやテレビ朝日のドラマ潰しとかそういった次元ではなく、AIの力でラインナップ強化につなげるのだ。主に映画ソフトの買い付けに活用され、誤差は1%未満。恐ろしい数字であると同時に、このAI利活用が進んでいった場合、編成マンの仕事は無くなるのではないかと不安を覚えなくはない。

華やかさはないものの、テレビの未来を占ううえでも重要な意味を持つような秋の改編。"テレビの終わり"の始まりではなく、すでにエンドロールの真っただ中なのかもしれないが、それでも筆者はこう思うのである。「テレビ東京があるじゃないか」と(笑)。