かつての鉄火場のイメージから脱却し、女性客やカップル、家族連れなどの姿も増えてきた競馬場。この連載では競馬場をお出かけスポットと捉え、その魅力を掘り下げて行く。第1回は東京都品川区にある東京シティ競馬(TCK、大井競馬場)を訪問し、現地に足を運ばなければ絶対に味わえない競馬場グルメを満喫してきた。

  • 東京シティ競馬の4号スタンド

    昔ながらの雰囲気を今に残す4号スタンド1階。長年TCKで愛される味を求めて多くの来場者が足を運ぶ

大人の遊び場は都心からもアクセス良好

浜松町駅から東京モノレールで約8分。大井競馬場前駅で下車して2分ほど歩くと、TCKに到着する。都心からのアクセスは抜群だ。この競馬場、1970年代に競馬ブームを巻き起こした元祖アイドルホース「ハイセイコー」がデビューを飾り、1986年7月には日本で初めてナイター競馬(トゥインクルレース)を開催するなど、かつては仕事終わりのサラリーマンが訪れるオアシス的な場所だった。

しかし、近年は場内やスタンドの改修が進み、その装いは一変した。広大な敷地をいかしたイルミネーションやイベントスペース「ウマイルスクエア」で開催する催しなどが、従来とは異なる客層を引きつけている。今や、新たな夜遊びスポットへと変貌を遂げているのだ。

  • 東京シティ競馬の様子

    50代以上の男性客で賑わったのも今や過去の話。プロモーションが功を奏し、若年層や女性客が年々多くなってきている

その中でも、注目度が急上昇しているのがTCKの名物グルメだ。昨今のご当地B級グルメブームの高まりとともに、競馬場で楽しめる“ここならでは”のグルメにも熱い視線が注がれている。当たり前の話だが、ネットで馬券を買っていたのでは、こういったグルメは絶対に楽しめない。というわけでさっそく、TCKを訪れたら必ず味わいたい名物グルメの実食に赴いた。

レトロな4号スタンドで味わう名物グルメは格別!

まず向かったのは、1974年に完成した4号スタンド。現存するスタンドの中では最も古い建物で、競馬場が鉄火場と呼ばれた当時の雰囲気を色濃く残す場所だ。

その1階にあるのが、牛スジ煮込み皿で人気の「幸福堂」だ。長い年月を感じさせる味のある外観とジャンルを問わないメニューが並ぶ様は、まさに昭和の食堂そのもの。まるで、過去にタイムスリップしたかのようなノスタルジックな気分にさせてくれる。

  • 東京シティ競馬の「幸福堂」

    4号スタンドオープン当時に営業を開始した店舗をルーツに持つ「幸福堂」。長年ファンに愛されてきた名店だ

オーダーしたのは「赤もつ串」「白もつ串」「牛スジ煮込み皿」の3品。牛の肺を使った赤もつ串は弾力があってなかなか噛み切れないが、噛むほどに味がしみでてくる。一方、牛の胃を使った白もつ串はシャキシャキとした歯ごたえで、咀嚼すること自体が楽しく感じられた。

  • 東京シティ競馬にある「幸福堂」の名物メニュー

    左から赤もつ串(1本200円)、白もつ串(1本200円)、牛スジ煮込み皿(550円)

そして、競馬場といえば欠かせないと個人的に思っているのが、牛スジ煮込みだ。「幸福堂」では牛バラのほか、アクセントとして少量のアキレス腱と赤もつを使用しているとのこと。実際に口にしてみると、いわゆる牛スジ煮込みのトロッとした食感とは趣が異なる食べごたえに驚いた。約1cm幅にスライスされた牛バラが、しっかりとした歯ごたえを感じさせるのである。1皿の中で、異なる食感を楽しむことができる牛スジ見込みだ。牛バラはすべて手切りで調理しているそう。食材に手間暇をかける江戸前の心意気が感じられた。

  • 東京シティ競馬にある「幸福堂」の名物メニュー

    牛スジ煮込みはいかにも肉を食しているといったような食べごたえで、満足度が高かった

続いて向かったのは、「幸福堂」の斜め向かいにある「びっぐうぃんど」だ。同店では5年前から、イカスミソースを使った名物グルメを提供している。それが「黒焼きそば」(470円)である。

  • 東京シティ競馬にある「びっぐうぃんど」

    おでんやもつ煮込みなどのお酒がすすむメニューから、ハンバーガーなどのしっかり食べたいメニューまで取りそろえる「びっぐうぃんど」

キクラゲ、もやし、ニラ、キャベツ、豚肉をふんだんに使った具だくさんの焼きそばに、東村山市の製麺所が開発したイカスミ入りの黒焼きそばソースとオイスターソースで味付けしたのが、びっぐうぃんど名物の黒焼きそばだ。食べてみると、始めは甘めで中華風な味わいなのだが、徐々にイカスミ独特の味わいが口の中に広がってくる。コク深い1品だ。

好みは人によってはっきりと分かれるそうで、好きな人は毎回、これを注文するという。また、途中でマヨネーズを入れて“味変”するのが通の食べ方らしいので、一度はチャレンジしてみてほしい。

  • 「びっぐうぃんど」の黒焼きそば

    黒い見た目がB級グルメ感満点の黒焼きそば。TCKで唯一、同店だけが提供しているホッピー(1杯450円/写真右上)との組み合わせがオススメだ

L-WINGでは期間限定の名物丼をチェックしよう

4号スタンドを後にして最後に向かったのは、2003年にオープンした「L-WING」の2階にある「柏屋」。店舗のパドック側はガラス張りになっているため、レース前の馬の様子をチェックしながら食事を楽しめる。

  • 東京シティ競馬にある「かしわや」

    L-WINGの開業と同時にオープンした「かしわや」。和食系のお店ながら、夏期には冷やし中華(700円)も提供するなど意外性も面白い

こちらで提供している大井名物「L-WING丼」(600円)は、約2カ月ごとに具材が変わる丼だ。今年はこれまでに、ネギチャーシュー、牛スジ煮込み、焼き鳥、麻婆豆腐などを乗せてきたという。

  • 「柏屋」のL-WING丼

    取材時のL-WING丼は、大きな焼き鳥が乗るゴロゴロ焼き鳥丼だった。甘いタレの焼き鳥とシャキシャキの白髪ねぎ。この組み合わせに間違いはない

L-WING丼はレースが3~4回開催されると具材が切り替わってしまうので、プレミア感が強い半面、食べ逃してしまうという残念なケースも避けられない。そこで同店では、特に人気の高かった丼を再度、提供することもあるそう。今年は11月下旬から、牛スジ煮込み丼を復活させる予定だという。前回食べられなかった人は、忘れずに足を運んでほしい。

  • 東京シティ競馬でのレース

    手に汗握るゴール前の叩き合いに思わず声が出てしまうのも、ライブならではの醍醐味だ

今回紹介した3軒以外にも、TCKの場内にはさまざまな料理を扱う店舗が軒を連ねる。秋の夜長は競馬場で食べ歩きというのも面白いかもしれない。

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  • ハイセイコー像
  • 東京シティ競馬のグルメ

※価格は2019年9月現在のものであり、変更になる可能性があります。