電車には電気が必要。その電気の取り入り方法は主に2つある。空中の電線にパンタグラフをくっつける「架線式」と、線路の横の電流用レールを使う「第三軌条式」だ。今回は架線のお話。あの電線、レールと同じく一直線に張られていると思ったら大間違い。実は、くねくねと折り曲がっている。理由を知れば「なるほど」と納得できる。実際に見てみよう。下の写真は富山ライトレール富山港線で撮影した。

富山ライトレールで撮影。右は架線部分を拡大したところ

かわいい電車に見とれてしまうが、今回の注目部分は「架線」。そこで拡大した写真が上の写真右側だ。一直線ではなく、ジグザグに配置されているのがわかる。

パンタグラフの偏摩耗を防ぐため

ジグザグの架線は、決して「設置がずさんだったから」ではない。意図的に、そして注意深く計算された上で張られている。その理由は「パンタグラフを長持ちさせるため」だ。パンタグラフの集電板(専門用語では集電舟)と架線は十字状に接している。もし、直線の線路で架線が真っ直ぐに張られてしまうとどうなるか。集電舟の同じところを架線がこすり続ける状態が続き、そこだけ早く摩耗してしまう。集電舟に溝ができると、架線はさらに同じところをこすり続ける。放置すれば集電舟が切れてしまうので、早めに交換しなくてはいけない。

上空から架線と集電舟を見下ろした図

しかし、架線がジグザグに張られていれば、架線が集電舟の広い範囲をこすっていくので、まんべんなく摩耗する。これで交換の回数を大幅に減らせるというわけだ。もっとも、架線の折れ線配置の角度はとても小さいので、ちょっと見ただけでは一直線に見える。写真のように望遠レンズを使って撮影するとはっきりわかる。

余談だが、保線の係員氏と立ち話したときに「架線」を「ガセン」と濁って発音していた。「カセン」だと「河川」と区別がつきにくく、鉄橋付近の作業で混同してしまうからとのことだ。