鉄道路線に必要な設備の1つに「車両基地」がある。車両を保管したり、点検したりする場所だ。車両基地は当然ながら、その路線にある。例えば東京メトロの場合、銀座線は上野、東西線は東陽町、丸ノ内線は中野富士見町と茗荷谷、有楽町線は新木場、千代田線は北綾瀬といった具合だ。ところが、半蔵門線の車両基地は半蔵門線の沿線にはない。一体どこにあるのだろう。

15kmも離れた神奈川県内にあった!

東京メトロ半蔵門線といえば、東京都渋谷区の渋谷駅と同墨田区の押上駅を結ぶ16.8kmの路線である。全線が地下区間になっており、政治の中心地である永田町、皇居近くの半蔵門を経由しており、まさに東京の中心部を横断する路線といえる。沿線は地価の高い場所や住宅密集地ばかり。それゆえに、路線に隣接して車両基地を設置するための土地の確保が難しかった。

そこで当時の営団地下鉄は、半蔵門線の建設に当たり、相互乗り入れが決まっていた東急電鉄に相談する。これを受けて東急は、田園都市線の鷺沼駅にあった車両基地を営団地下鉄に譲渡した。東急は長津田にも検車区を設けており、東急田園都市線の車両はすべて、長津田検車区を拡張して対応した。

こういう経緯により、東京メトロ半蔵門線の検車区は、半蔵門線の渋谷駅から15kmも離れた神奈川県川崎市に設置された。

自社の車両基地を、自社路線から離れた他社の沿線に置く。こうした例はとても珍しい。しかし、東京メトロではこれが2例目。日比谷線の検車区を東武伊勢崎線の竹ノ塚に設置して以来のことである。他社の場合は、都営地下鉄浅草線の車庫を京成線沿線に置いた時期があった。また、大阪市営地下鉄堺筋線の車庫が阪急京都線の沿線にある。

車両基地が他社の路線上にある場合、ちょっと気になることがある。それは春闘などのストライキだ。もし、東急がストライキに突入した場合、半蔵門線はストライキを実施していなくても、車両を出庫できなくなってしまう。そんなときはどうなるのだろうか。鉄道ファンとしては興味津々で、「前日に出庫し、半蔵門線の各駅に車両を移すのではないか」「東急側でストライキに参加しない立場の、運転資格を持つ管理職が回送させるのではないか」などと噂しているようだ。

しかし幸いにも、営団地下鉄鷺沼検車区が稼動開始した1980年から現在まで、大手私鉄では朝のラッシュ時間帯にかかるストライキは行われていない。また、半蔵門線は2002年から東武鉄道とも相互乗り入れを行っているため、どちらか一方がストライキに突入しても、一方から車両が乗り入れてくるためリスクは軽減されているといえる。それにしても、東武と東急が同時にストライキを実施したらどうなるのだろう。いささか不謹慎ながら、興味は尽きない。