ゆうに伸長を凌ぐ巨大な岩の数々。足元の悪い中を取材班は進む

アウトドアフリークであれば、誰もが一度は耳にしたことがあるであろう「キャニオニング」。発祥はフランスといわれ、渓谷(キャニオン)を探検したり、川の流れを使って遊んだりするリバー・スポーツを意味する。今回の富山ロケでも、キャニオニングを黒部峡谷で体験することになっていた。

「称名滝」に圧巻された取材班が目指したポイントは、黒部峡谷の入り口にあたる宇奈月温泉。そこから黒部川の支流に入り、このキャニオニングを体験取材するのだ。カメラ資材を担ぎ、早速ガイドの待つ渓谷へと足を踏み入れる。さて今回の取材班、集まった面子はすべて初顔合わせ。だが年代が近いということもあって、意気投合するまでに時間はかからなかった。

そんな取材班に向かってガイドの放った一言は「じゃあ、みんな裸になってこれに着替えて」という驚愕の言葉。いくら意気投合したとはいえ、旧知の仲でもないのにいきなり素っ裸ですか! しかし、そんな戸惑いを浮かべる我々の空気などものともせず、彼が手渡したのはウエットスーツ。撮影だから着替えなくていい、と勝手に決めていたにもかかわらず、無言の軋轢で早く着替えろのサイン。ほどよく脂の乗ったメタボリック予備軍の体に、これでもか、とスーツが食い込む。呼吸困難寸前の中年に待っているのは、経験したことのないアドベンチャーワールドだった。4WDに乗り込み、向かうは日本一深いV字峡を誇る黒部峡谷。峡谷の入り口にたたずむ取材班の雄姿、そこには、恐れとけだるい怠惰感しかなかった……。

黒部ならではのトンネルをくぐり、たどり着いた川は、巨大な岩がゴロゴロと転がっている渓谷だった。未経験者が、こんな秘境を遡るなんて、ぜったい無理! そうした心の叫びが聞こえたのかガイドから「このコースは初級編だから、女の子もきゃあきゃあ言って遊んでいるんだよ」の一言が。そこまで言われてしまったら、日本男児として魂が燃え上がる。やったろうじゃないか! というアイコンタクトを交わしながら、峡谷へと入っていったのだ。

ひたすら川を上ること約1時間。進んでも進んでも続く岩山地獄。暑い日差しとしたたり落ちる汗が、体力をどんどん奪っていく。そろそろ限界を感じたとき、行く手を立ち塞ぐひとつの大きな岩山。何と、ここを素人集団に登れというのだ。

必死な形相で命がけの取材班。ここまで体を張ったことはこれまでにない

高さ10mはあろうかという岩山を登り、そこからザイルで川に下りる。そして、高低差3mほどの滝つぼにダイブするのだ。写真を見る限り、楽しい水遊びに見えるだろう。しかし、この滝つぼ自体だけでも深さは3mある。人の存在の小ささを体感するスケールとしか言いようがないのだ。

いくら安全と言われても、腰が逃げてしまうのは許していただきたい!

すっかり山男と化した取材班。我々を待っているのは、復路の下山コースだった。疲れた体に、腰まである清流の流れはかなりキツイ。ましてカメラを濡らすわけにもいかず、自然と形相は必死になってくる。

大自然が作り上げた日本屈指のキャニオンは、軽い気持ちで進めるほどヤワではなかった

早く宿に戻って風呂に入りたい。そんな気持ちを抱きながらも、なぜか疲れているはずの体は軽く感じる。自然に溶け込むことで得られた、健康的な倦怠感とでもいうのだろうか。取材班の顔に浮かぶのは、疲労から来る苦しい表情ではなく、目的を遂げた男の顔だった。

吊り橋を渡り、真っ暗なトンネルを抜けて来た道を戻る。そこで交わされた会話は、自分がどれだけ頑張ったのか自慢以外の何物でもなかった

自然との触れ合い、それは都会に住む我々が無くした当たり前の空間。その場に直面すると、尻込みするしかできない現代人でも、黒部の自然に触れた瞬間、人の持つDNAが刺激されるのだろう。二度とゴメンだと思ったキャニオニング体験は、またチャレンジしたいというポジティブな気持ちに変化していたのだった。

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大人の遊び、33の富山旅。