元国税局職員 さんきゅう倉田です。好きな料理は「フードバンクからもらった食べ物」です。

女性とお料理教室に行きました。シェアキッチンを利用してみんなで料理を作ったときに、ぼくのペアだけ上手に作れなかったので、ふたりで料理教室に通うことにしたのです。

大手の料理教室を調べると、体験レッスンの広告がトップに表示されるようになっていました。月額料金やスタジオの場所より、兎にも角にも体験レッスンが受けられることを伝えたいようです。あまりに多い体験レッスンのページに、狂気を感じます。

しかし、せっかくの機会なので利用させてもらいます。ネットで予約をして、2日後にスタジオに向かいました。500円を払って、指定の用紙に名前や連絡先を記入し、更衣室に案内されます。「領収証をください」と言うと「出しておりません」と言います。どうしてなのか疑問に思いました。ランチ営業の売上を除外している居酒屋を彷彿とさせます。

この500円は、体験レッスンの講師のポッケに入るのでしょうか。会計処理が気になるところです。そんなことを考えていると、キッチンに案内されました。お金をかけているのが伝わってくるステキな内装です。「こんなところで料理が出来たら最高だな」と思わせるデザインになっています。

席につくと、名前を確認され、名刺を頂戴しました。ここからの1時間で10回以上名前を呼ばれます。おそらくそういうマニュアルなのでしょう。相手の名前を呼ぶと親睦度が高まる、という心理的効果を狙ってのことと推察されます。しかし、あまりにも不自然なタイミングで必要以上に連呼するので、無理に呼んでいるな、マニュアルなんだな、と思ってしまいました。

マニュアル通りに行動することが相手に伝わったとき、相手は不快感を覚えるということを学びました。役場の公務員の杓子定規な対応に批判が集まるのが理解できます。

ぼくと女性の名前を確認したあと、二人の関係を尋ねられました。あまり答えたくありません。1度しか会ったことがない、料理をした仲間です。説明が煩わしい。ぼくは、少し間をあけて、「メル友です」と答えました。講師の男性は、暫しの間沈黙してから「ほんとにメル友ですか?」と聞いてきました。可能であれば、メル友と答えた時点で、聞かれたくない質問なんだな、と察してほしかったのですが、そういうマニュアルはないようです。

ぼく「はい」
講師「どうして今日は、体験を受けようと思ったんですか?」
ぼく「先日、二人で料理をして、上手く作れなかったんで」
講師「どこで作ったんですか」
ぼく「・・・家です」
講師「えー!メル友じゃないじゃないですか!」
ぼく「はい」
講師「嘘じゃないですか!」

とてつもなく帰りたいです。人生で初めて、チェンジしたい、と思いました。隣の女性はずっと俯いていました。そこから教室への勧誘が始まります。必ず、質問をして追い込んでから、自社のサービスを伝えるマニュアルのようです。

講師「お料理教室って1回いくらくらいが相場だと思いますか?」
ぼく「5000円くらいですかね」
講師「いいえ、一般的なお料理教室って8000円くらいなんですね。でも、うちは5000円で、とっても割安なんです」

チェリーピッキングの可能性を感じました。それにすらも該当しないいい加減な情報かもしれません。そのあともたくさん否定してくださいます。

講師「鶏むね肉はどんな料理に使いますか?」
ぼく「ささみチーズフライとか」
講師「(沈黙)」
女性「からあげ」
講師「違いますね~。からあげはもも肉のほうがおいしいですよ。むね肉はバンバンジーなんか良いですね」

しっかりと否定されて、連れの女性は悲しそうに窓の外を見ていました。その後も、「入会してもらわなくてもいいんです。ぼくはどっちでもいいんです。」とか言いながら、コースや料金の説明を始めました。その時も必ず質問をして追い込んでから、勧誘に移ります。

「料理を作るとしたらどんな料理が良いですか」「月に何回なら通えそうですか」「どのくらいまでできるようになりたいですか」。実際に、料理をしている自分や上手になった自分を想像させて、入会に傾かせるテクニックです。

マニュアルを作った人は、マルチ商法をやっていたか、心理学が好きなのでしょう。でも、講師に思いやりがないので、ぼくらと波長が合いません。会話も全然噛み合わないので、たのしくありません。

東京には、無理な勧誘や不快な勧誘を行う人間がたくさんいます。そんなとき、自分を責めず全力で相手のせいにして断ることができると、社会を生きやすくなります。ぼくは断ることができないので、いま、お料理教室に通っています。

さんきゅう倉田

新刊『元国税局芸人が教える 読めば必ず得する税金の話』

(総合法令出版/1,404円/税込)
さんきゅう倉田の初の著書が発売されました。ぼくの国税局時代の知識と経験、芸人になってからの自己研鑽をこの1冊に詰めました。会社員やパート・アルバイトの方のための最低限の税の情報を、たのしく得られます。購入は コチラ

さんきゅう倉田

新刊『笑う数学』

(KADOKAWA/1,404円/税込/1月27日発売予定)
数々の数学イベントで大活躍の、数学エキスパート集団「日本お笑い数学協会」(タカタ先生、横山明日希、さんきゅう倉田、平井基之、秋田崇宏、小林裕人、鰺坂もっちょ)のメンバーが書き下ろした、とっておきの数学の話100を収録。
「数学で愛の告白」「キスするのに最適な身長差を三角比で求める」「アイドルが売れる確率」など、多種多様な数学の話にハマる人、続出中!

さんきゅう倉田

さんきゅう倉田

芸人、ファイナンシャルプランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。100社以上の法人の税務調査を行ったのち、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに。ツイッターは こちら