元国税局職員 さんきゅう倉田です。好きな領収証はありません。

講演会の依頼をしてくれると言うので知らない会社の人と会うことにしました。

仲介してくれたのはとあるベンチャー企業で、そこのサービスに登録していたところ連絡があり、取引先に紹介してくださることになりました。大変有り難いです。こうやって仕事は増えていき、こうやって記事にすることで仕事は減っていきます。

その取引先は、定期的に会社内で社員向けのワークショップを行っていて、そこの講師を探しているとのことでした。子どもから大人まで誰でも知っている有名な会社です。弊社に来てくれとのことだったので、丁重にお断りし、こちらのオフィスに来ていただくことにしました。

この連載でも述べましたが、本当に仕事をくれるかわからない人のところへは、おいそれと行くべきではありません。こちらはフリーランスで、向こうは会社員。我々の移動時間はお金になりませんが、彼らは賃金が発生しています。

ヤバイ会社員はそのことに気づかず、平気で何度も呼び出します。もちろん、こちらから伺うこともありますが、よく分からない相手の場合は警戒して差し支えないでしょう。特に、いきなり「来てくれ」という相手は要注意です。仕事を依頼してくださる方は、特段の事情がない限り、初回は出向いてくださいます。

会ってすぐ、「芸人さんなんですよね。どこの事務所なんですか?」と聞かれてしまいました。Wikipediaにも出ている情報です。ぼくのことを調べていらっしゃらないようです。芸人のぼくですら、これから会う人のプロフィールを調べてから望みます。一般企業の社員で、相手のことを調べていないことが失礼だという認識がない人がいるのでしょうか。

ぼくが両親より尊敬する辞書編纂者の方は、トークライブで初めてお会いしたときに拙著を購入し、持ってきてくださいました。今まで見たことのない透明で美しいカバーに包まれた本は、琥珀のように輝き、ヤニだらけの汚い楽屋をサラセン帝国の宝物殿に変えたのでした。

どこの事務所かという質問に答えると、社内ワークショップの内容やこれまでの講師についての話がありました。一段落すると、動画を取らせて欲しいとおっしゃいます。自分の部署は3人体制で、上席が本日は出張で来られなかった、だから、喋っているところの動画を取らせてほしい、と。

この場で講演に先立ってミニ講演をやってほしい、という発注です。これは参ってしまいます。この不快感が、芸人以外に伝わるのでしょうか。恥ずかしいのでそれはちょっと、と別の理由をつけてやんわりと異なります。

すると、どんな感じで話しますか?と聞かれてしまいました。それまで、30分くらい話していたので「こんな感じで話しますよ」と言っても良かったのですが、そういう質問をしてくるということは何か意図があるのかもしれません。「普通の人よりは、短く上手に話すと思います」と答えると「はははは、上手て!」と言われてしまいました。

これはもう、どう贔屓目に見たって危ない発言です。ぼくは、冗談を言っているわけではありません。笑うというのは、何か面白いことがあったときの反応です。何か面白いことがあったのでしょうか。その笑った女性(お伝えしていませんでしたが、女性だったのです)の同僚と、紹介者の方は沈黙していました。

こういう場合、その場で注意しようと考えることはありません。そういう行動を重ねてくる人は、平行世界からやってきた人でこちらの常識は通じません。よしんば、謝ってきたとしても、気持ちのこもってない等閑なものでしょう。

面談をそこで終え、プロフィールと写真を送るように言われたので、1時間後にメールで送りました。しかし、返事はありません。“ただのしかばね”にでもなったのでしょうか。無論、仕事の依頼をするかどうかは相手次第です。面談の結果、依頼をせずに放置しても構いません。

ただ、自分が送れといったプロフィールに対し、査収した旨の返事はあってもよいと思います。フリーランスが蔑ろにされることはよくありますが、ぼく以外のフリーランスの方が同じような内容で辛い思いをしないように、取引先の民度が高まることを切に願います。

さんきゅう倉田

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(総合法令出版/1,404円/税込)
さんきゅう倉田の初の著書が発売されました。ぼくの国税局時代の知識と経験、芸人になってからの自己研鑽をこの1冊に詰めました。会社員やパート・アルバイトの方のための最低限の税の情報を、たのしく得られます。購入は コチラ

さんきゅう倉田

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さんきゅう倉田

さんきゅう倉田

芸人、ファイナンシャルプランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。100社以上の法人の税務調査を行ったのち、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに。ツイッターは こちら