元国税局職員さんきゅう倉田です。特技は「割り勘の計算」です。

地面師の事件が話題です。三省堂国語辞典によると、地面師とは、「他人の地所をたねにして、売買の詐欺をする人」だそうです。

昨年、積水ハウスが55億円を騙し取られて報道されましたが、犯人が捕まらないまま時が過ぎました。しかし、ついに、地面師グループのメンバーを逮捕。事件は収束に向かいそうです。

五反田駅徒歩3分の旅館跡地を巡って起きたこの事件から、自分を騙そうとしている人が、どのような怪しい行動を取るのかがよく分かります。

詐欺だとは見抜けなかった事件

今回の取引は、積水ハウスの社員が、私的な飲み会で知り合った不動産の仲介業者から話を持ちかけられたことから始まりました。取引の過程で、土地の所有者である女性と会い、土地に建てられた建物に踏み入れることもあったそうですが、それでも詐欺だとは見抜けなかったようです。

所有者になりすました女性は、土地の権利証の原本を見せず、カラーコピーを見せたそうで、さらに、自分の住所と誕生日を間違えました。何十億円もの取引をするのに「なぜ原本ではないのですか」と詰めないのでしょうか。マンションを建てれば悪魔的に儲かるこの土地を手に入れるため、所有者の気持ちを損ねてはいけない、と腫れ物を触るように行動していたのかもしれません。

土地の売買契約後には、土地所有者本人から内容証明郵便で「売買契約はしていない」旨が伝えられていましたが、確認せず、これを無視。「怪文書」とみなしたようです。怪文書として無視するのは、ボノボでもできます。内容証明郵便を放置し、捨てればいいわけですから。

その真偽を確かめて、事実を明らかにするのが、プロフェッショナルの仕事ではないでしょうか。怪文書を送ってきたのが、1名だった場合、自分たちと契約した人か怪文書の送り主どちらかが嘘をついています。どちらが嘘をついているのか、気にならないのでしょうか。どうして、取引した方だけを信じてしまったのでしょうか。

動物にはプライドがあるので「自分が過去に取った行動を否定したくない」という心理が働きます。だから、現在の情報で嘘つきと正直者の天秤が釣り合っている、あるいは、多少嘘つきに傾いていても、バイアスがかかってしまいます。今回の担当者もそのような状態だったのかもしれません。

さらに、購入代金の支払い後には、警察の介入もありました。積水ハウスの社員が旅館の中に入ろうとしたところ、土地所有者本人から相談を受けていた警察から任意同行を受けたそうです。これも「偽物の仕業」と判断しました。

どのように生きていたら、そんなに自分の都合のいいように解釈できるのでしょうか。どうして、念の為、確認しないのでしょうか。どうして、任意同行を求めてきた警察に相談しないのでしょうか。これほどにもハプニングが起きているのに、気にならないのでしょうか。すごくがさつな人間の集まりなのでしょうか。

その後、法務局から連絡が来て、やっと詐欺に遭ったことを認識したそうです。上場企業の社員を騙せるなんて、地面師グループは特別優秀だったのでしょうか。

ほぼ同じ時期に別の不動産会社も、同じ地面師グループにこの土地の取引を持ちかけられていたそうです。ただ、この不動産会社は、所有者になりすました女のパスポートのコピーを取り、土地の周辺で聞き込みを行い、所有者本人でないことを突き止めました。国税局もびっくりの調査力。こっそり聞き込みを行い、直接所有者に疑念を抱いていることを伝えないスマートな方法です。

誰かと取引をするときは、損をしないように最大限務めなければいけません。ましてや、それが友人や家族、旧知でない人間であれば、物事を注意深く観察し、行動する必要があります。取引とはそういうものです。

不動産という、とくに多額のお金が動く場合、騙す側も準備や計画を怠らないでしょう。それでも、地面師グループには、瑕疵がありました。しかし、それでも騙されてしまった。欲に駆られ、基礎を疎かにしたことで招いた結果といえます。

さんきゅう倉田

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さんきゅう倉田

さんきゅう倉田

芸人、ファイナンシャルプランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。100社以上の法人の税務調査を行ったのち、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに。ツイッターは こちら