元国税職員さんきゅう倉田です。好きな選択は「逆選択」です。
情報の非対称性。
ありとあらゆる取引で、我々はこの言葉に悩まされています。悩んでいない場合は、取引相手と自分の間に情報の格差があることを意識していないだけです。
多くの場合、売り手は買い手より多くの情報を持っていて、買い手は不利な立場にあります。
逆選択と道徳的危険
情報の非対称性は、不動産の取引で顕著です。
例えば、お菓子など、市場にたくさん流通し、購入機会が何度もあり、かつ、自分以外も購入できる商品は買い手側も情報をたくさん持っています。
しかし、渋谷区松濤一丁目△番地◯号の住宅はこの世に一つしかありません。買い手がどんな物件なのか調べるには限界があります。一方、売り手はその物件の詳細な情報を持っています。悪い物件なのか良い物件なのかも知っています。
都合の悪い情報を隠したり、悪い物件なのに良い物件と仮装したりするかもしれませんが、買い手には分かりません。買い手がそのことを学習すると、損失を恐れて市場全体の取引が減少します。情報の非対称性があることによって、このような市場の失敗が起こることを「逆選択」といいます。
また、情報の非対称性を利用して、他者にとって不利な行動を取るようになることを「道徳的危険」といいます。「自動車保険に入っているから事故にあってもいい」と考えるため、自動車保険に入っている人と入っていない人では、入っている人の方が事故率が高い。これは、道徳的危険に起因しています。
身近な事例で考えると、「食べ放題の飲食店で食べられない量の料理を皿に盛ってしまう」「会社の経費だから、普段自分では注文しないようなワインを注文する」「リモートワークで誰も見ていないから、テレビを見ながら仕事をする」も道徳的危険に当てはまります(※道徳的危険の範囲は、学説によって射程が異なります)。
情報の非対称性を完全に解消することはできないため、逆選択と道徳的危険を考慮して、制度設計や取引を行わなければいけません。
恋愛における情報の非対称性
どうして、今回、情報の非対称性を扱ったかというと、マッチングアプリをやっているぼくの友人が、異性と全くマッチしないと嘆いているのを聞いたからです。
男性は36歳で、ぼくの友人の中で最も裕福な会社員で、話が上手で、聡明で、学歴も高くて、女性に優しい。しかし、体脂肪率は20%を超えていて、一般的に女性に好まれる容姿ではありません。
プロフィールには、「都内で会社員をしています。食事に行きましょう」とだけ書き、自分の写真を2枚載せています。
ぼくにとっても彼にとっても、彼は素晴らしい男性ですが、写真とプロフィールを見た女性は彼の容姿しかしらないので、マッチングしません。
逆選択です。
個人的には、マッチした時の損失などないに等しいと思いますが、損失をおそれて「いいね」してくれません。参加者の魅力が数字で完全に評価できるとしたとき、参加しているすべての女性が、彼より魅力的だとは考えられません。
それでもマッチしないのは情報の非対称性があるからです。
情報の非対称性によって、女性が彼を低く評価しています。
情報が少ないために、他人を正確に評価できないことは市場でよく起こります。
多くの男性はそれが分かっているから、自分の仕事での成功や私生活での豊かさを出会った女性に語るのかもしれません。
ぼくの友人は、話が上手なので自慢話はしません。だから、合コンや知人の紹介で女性に会った場合は、とにかく高い店に行き、上手に会話を回して女性の話をよく聞き、会計をすべて一人で支払うことで豊かさを示しています。
このように、我々は情報の非対称性に悩まされ、それを解消するために努力を知らず知らずのうちに行っています。
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