本連載の第241回では「ロジックツリーを作る際に気を付けるべきこと」という話をお伝えしました。今回は、議論が噛み合わないときの要因と対処法についてお話します。

会議において発言が活発なことは結構ですが議論がもつれて紛糾してしまうと、これもまた会議が長引く要因になってしまいます。もちろん参加者の間で意見の相違があることは当然で、多様な意見があるからこそ画期的なアイディアや鋭い指摘、それまで誰も気が付かなかった観点が見つかるなどのメリットがあるはずです。一方で、意見が摺り合わないまま膠着状態に陥ってしまい、時間だけが過ぎてしまうことは生産的とは言えません。

会議が紛糾する主な要因として考えられるのは「議論が噛み合わない」場合と「主張が真っ向から対立する」場合です。そのどちらも、互いに主張をぶつけ合うだけではいつまで経っても議論が平行線のまま進展しない状況に陥りかねません。なお、「主張が真っ向から対立する」場合は基本的には「どちらか一方の主張を受け入れる」か「双方の主張よりも優れた第三案を考えるか」を検討すれば済む話ですが、より対応が厄介なのは「議論が噛み合わない」場合なので、こちらにフォーカスして考えたいと思います。

そもそも、なぜ「議論が噛み合わない」状況が生まれるのでしょうか。それには次の3つの要因が考えられます。

●論点と議論の粒度が合っていないから
●特殊事例を一般論や傾向と同列で捉えるから
●論点が交錯しているから

まず、「論点と議論の粒度が合っていないから」という要因について考えてみましょう。この要因は会社の役員と現場社員の間での会話などでよく発生します。役員が会議で提示した論点に対して現場社員の話が細かすぎたり、その反対に現場社員から役員への相談の中で提示した論点に対して役員の話が大きすぎたりするような場合に発生します。

このように議論が噛み合わないときには「論点に対して議論の粒度が合っていないのではないか」と疑問を持ち、場合によっては論点を変えるか、参加者を入れ替えて会議を仕切り直すようにしましょう。

次に、「議論が噛み合わない」要因の2つめ、「特殊事例を一般論や傾向と同列で捉えるから」に移ります。これは物事の全体の傾向や特徴に基づいて設定した論点に対して、個別具体的な事例に基づく議論を展開した場合、或いはその反対の場合において発生します。

全体の傾向の議論に対して個人の経験や周囲の特殊事例を挙げて、さも全体の傾向を表すかのような主張で反論されてしまっては議論が噛み合うべくもありません。こういうときは、そもそも「全体の傾向の話」と「個別具体的な話」を明確に分けて議論するように導くことが大事です。個別具体的な話をバッサリと切り捨ててしまった方がその場は楽かもしれませんが、その後に建設的な議論をする道が断たれてしまいかねないので慎重に対応しましょう。

そして3つ目の要因は「論点が交錯しているから」です。これは一見、同じことを議論しているように見えても実は全く異なる論点になっている場合に起こります。簡単な例を見てみましょう。「旅行に行くならどこがよいか」というテーマに対して次のような意見が出たとします。

(1)ショッピングを楽しみたいからハワイがいい
(2)安く済ませたいから近場がいい

各々、論点は(1)が「体験価値を重視した旅行先はどこにすべきか」、(2)は「コストの低さを重視した旅行先はどこにすべきか」と捉えることができます。論点が交錯しているので、このままではどこまで話しても議論が噛み合いません。

ではどうしたらよいのでしょうか。このような場合には、お互いの論点をホワイトボードなどに書き出して論点が交錯していることを明示的に示したうえで、そもそも会議の目的が何かを再確認したうえで、その目的に合った論点を設定し直すことが有効でしょう。

なお、特に注意しなければならないのは「一見すると同じことを話しているように見えているが、実は論点が交錯している」状況です。このような状況は、たとえば同じ「費用」について話しているつもりが一方では売上原価、もう一方では販管費を想定して話していたり、同じ「成果」について話しているつもりが一方では売上高、もう一方では利益額を想定して話していたりする場合などに発生します。

では、ここまででの話をおさらいしましょう。議論が紛糾してしまう要因として以下3点についてお話しました。

●論点と議論の粒度が合っていないから
●特殊事例を一般論や傾向と同列で捉えるから
●論点が交錯しているから

会議の中で「どうも議論が噛み合っていないな」と感じたときには、これら3つの要因のいずれかに当てはまらないかを考えてみましょう。そこで要因が特定できれば、その要因に応じた対処をすることで議論の紛糾を打破することができるはずです。