本連載の第240回では「ロジックツリーを使って議論を整理しよう」という話をお伝えしました。今回はロジックツリーを作成するときに注意すべきことについてお話します。

前回は会議の参加者間での議論がまとまりなく、なかなか結論に至らない場合にロジックツリーが役に立つ、というお話をしました。まずはロジックツリーとは何かについて、軽くおさらいしておきましょう。

「ロジックツリーはフレームワークの一種で、問題解決や意思決定のプロセスを構造的に整理し、可視化するためのツールです。特定の問題や目標をより小さな要素や細かい問題に分解し、それらがどのように連携して全体に影響を与えるかを明確にするのに役立ちます。」

しかしロジックツリーで問題の真因を特定する際には、単に要因をツリー上に配置すればよいというわけではありません。たとえば営業利益減少の要因として次の4つの意見が挙がったとします。

  • (1)営業担当による値引き
  • (2)原材料費と物流費の向上による製造原価上昇
  • (3)関東支社のエリアでのシェア低下による販売数量減少
  • (4)インターネット広告の大規模な展開による販促費の上昇

この4つの意見そのまま「営業利益減少」の要因として横並びに記述してしまうとどうなるでしょうか。きっと、「他にも考えられる要因として重要なものがあるのではないか」という疑問が投げかけられることが予想されます。なぜなら、「営業利益減少」の直接的な要因を網羅的に洗い出せていないからです。そのようなことを防ぐため、ロジックツリーを作成する際に守るべき原則があります。それが "MECE"(ミーシー) です。

MECEとは "Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive" の頭文字を取ったもので、日本語では「相互に排他的かつ総合的に包括的」と訳せます。もっと簡単に言うと「漏れなくダブりなく」という意味で、物事や情報の論理的な構造を考える際に留意すべきものです。以下では「相互に排他的/ダブりなく」と「総合的に包括的/漏れなく」を1つずつ見ていきましょう。

●Mutually Exclusive(相互に排他的/ダブりなく)

これは情報や要素が互いに重複しないことを意味します。すなわち、ある物事や情報を構成する要素は互いに排他的であり、他の要素と重複する部分がないことが求められます。たとえば、市場を年齢層で分類する際、「20歳以下」「21歳から30歳」「31歳から40歳」というように、各カテゴリが重複しないように設定します。

●Collectively Exhaustive(総合的に包括的/漏れなく)

これは分析対象の全体が完全にカバーされていることを意味します。要素の集合が対象全ての物事や可能性を包含し、何も見落とされていない状態を指します。同じ市場分類の例で言えば、全ての年齢層がカバーされている必要があります。

MECEの原則を用いることで、複雑な問題や大量のデータを明確に整理し、効果的な分析や意思決定を行うことができます。この原則は戦略立案、プロジェクト管理、プロセス改善など様々な場面で有用です。重要なのは情報を網羅的に整理する一方で、重複や矛盾を避けることにより、分析の精度と効率を高めることです。

そしてロジックツリーを作成する際には、同じ階層の要素間がMECEになっているかどうかを確認しながら行うことによって、少なくとも論理的な破綻を回避できる確率を上げられます。

なお、MECEの概念自体は難解なものではありませんし、簡単にできそうな気がするかもしれませんが、MECEを意識しながら自分でロジックツリーを作ろうとすると、思いのほかうまくいかないことがあります。まさに「言うは易く行うは難し」です。

そこで使えるのが世の中に出回っているビジネスフレームワークです。PEST分析やSWOT分析、3C、4Pなどの有名なフレームワークは当然、MECEになっています。良かれと思ってフレームワークに勝手に要素を加えてしまうとダブりが発生してしまい、逆に要素を引いてしまえば重要な要素が漏れてしまいます。そのため、問題の性質に応じて適切なフレームワークを選択し、基本的には手を加えずにそのまま使用することをお勧めします。

なお、ロジックツリーにフレームワークを使用する際には2階層目か3階層目などの上位階層に用いるのが一般的です。というのも、上位階層がMECEにできていなければ、そこから先の階層のロジックがいくら完璧であってもムダになってしまうからです。

では、ロジックツリーを作成する際に適切なフレームワークが見つからなかった場合にはどうすればよいのでしょうか。その際に使える考え方が「四則演算」です。これは、上位階層の要素が下位階層の四則演算の結果で表せられることを意識してロジックツリーを作成していくということです。

たとえば、先ほどの「営業利益減少」という問題を深掘りする際には「営業利益 = 売上高 - 売上原価 - 販管費」で表せるので、この式の右側の項目を第二階層に持ってくるわけです。このように四則演算で表すことができれば、MECEになっていると主張できます。

なお一点、留意が必要なのは「四則演算で表せる」=「唯一絶対の分解の仕方である」とは限らない点です。たとえば、売上高は先ほどの例では「売上高 = 平均販売単価 × 販売数量」という式を念頭にロジックツリーを組み立てましたが、別の捉え方をすると「売上高 = 市場規模(金額ベース) × 自社の市場占有率」という式をもとに要素分解することも可能です。そして、どのような分解の仕方が正しいのかは解きたい問題や自社の置かれている状況などによって異なるので、一度作成したロジックツリーの構造がしっくりこない場合には分解の仕方を見直してみることをお勧めします。

議論が空転していると感じた場合には、ロジックツリーの形で議論を可視化しましょう。それによって、参加者間で共通認識を醸成しながら議論を整理して、着実に会議の成果を上げられるはずです。