本連載の第20回では「部下やメンバーの稼働状況は把握できていますか?」と題し、効果的なリソース管理の方法についてお伝えしました。本稿ではチームの生産性に大きな影響を及ぼす、職場の部下や新入社員のモチベーション管理を取り上げます。

  • モチベーションを上げる接し方とは?

    モチベーションを上げる接し方とは?

以前は意欲的に自分から仕事を取りに来て、期待以上の成果を上げ続けていた部下が、最近はめっきりやる気を失ってしまった。こちらから働きかけないと仕事が遅々として進まないし、それをどうにかしようという気概も見せてくれない。一体どうしたものか、と上司として部下の扱いに悩んでいる方はいるのではないでしょうか?

または、先輩社員として新入社員の教育を任されてはいるものの、新入社員に研修への参加を呼び掛けても応じず、業務の理解を深めるために先輩社員に質問したり、本やインターネットで調べたりする素振りも全くなく、やる気を引き出すためにどう接すれば良いのかとお困りの方も少なくないのではないでしょうか?

なぜモチベーションが下がってしまうのか?

このように部下や新入社員のパフォーマンスが上がらない要因の1つに、本人のモチベーション低下が考えられます。人間、誰しもその日の出来事や気候、人間関係や体調などにより、モチベーションの高さにある程度の変動が生じるのは避けられませんが、業務の遂行や本人の成長に支障をきたすほどの深刻なモチベーション低下が長期間続くような事態を、上司または先輩社員として見過ごすわけにはいかないでしょう。

とはいえ、モチベーションを上げるために自分が取った行動が逆効果を生むリスクを考えると、迂闊な対応も取れないということで身動きが取れない、という場合もあるでしょう。

そこで、そもそもモチベーションが低下しているときに本人の心がどのような状態になっているのかを「孤独感」「劣等感」「無力感」「不公平感」の4つをキーワードに考えてみましょう。

1つ目は本人のモチベーション低下の原因が「孤独感」にある場合です。これは上司や先輩など、自分を取り囲む人たちから全く相手にされていない、まるで透明人間のように自分の存在を認識すらされていないのではないかという疑念に苛まれており、孤独感に起因するマイナス思考がモチベーションの向上を妨げているような状態です。

2つ目は「劣等感」です。新入社員であれば同期入社組の同僚が入社早々、活躍して社内で早くも認められているのに引き換え、自分はミスを連発して先輩や周囲の足を引っ張ってばかりでどうしようもない、これは自分の能力が劣っているからだと思い込み、落ち込んでしまうような状態です。

3つ目は、どうせ何をやっても変わらないから、やるだけムダだと考えてしまう「無力感」です。部下の立場で言えば、上司からの指示で資料を何度作り直して提出しても突き返されるばかりで、努力してもどうせ報われないと、ふてくされているような状態です。

そして4つ目は「不公平感」です。「自分は同僚より努力して結果も出しているのに、なぜ先輩は同僚の方を高く評価するのか、えこひいきではないか」と苛立ちを感じていたり、「上司はいつも面倒な仕事を自分に押し付けているだけなのに、経営陣からは上司だけが表彰されて納得がいかない」とやるせない気持ちを抱いていたりするような状態です。

事態を悪化させる「まずい対応」とは?

部下や新入社員がこれら4つのいずれかの状態にあった場合、各々良かれと思って取る行動がさらにモチベーションの低下を招く恐れがあります。

早く成長して自立してもらいたいという思いで、入社からまだ日が浅い新入社員に、売上のノルマだけ与えて外回りの営業に一人で送り込み、終日誰もケアしないで、結果だけ後で報告させるというようなやり方を続けてしまっては、「孤独感」を感じている社員にとっては辞めたくなるほどモチベーションが下がることは、想像に難くないでしょう。

また、非常に有能な部下が能力を発揮して、次々と輝かしい結果を残している一方で、やる気があるのに空回りしてなかなか結果に結びつかずに落ち込み、明らかに「劣等感」を感じている部下に対して、「同じ同期入社組なのに、どうしてあなたも同じように結果を出せないのか。努力が足りてないんじゃないか。もっと頑張りなさい」などと言って、有能な部下と比べて焚きつけようとするのも悪手でしかありません。相手の劣等感をさらに強めて、やる気も損なってしまうでしょう。

それから、以前はやる気に満ち溢れていて仕事をバリバリこなし、新しい取り組みのアイディアを出してくれていた部下が、なかなかアイディアの採用に至らずに「無力感」を感じている場合、「アイディアが採用されないのは努力が足りないからだ。もっと頑張れ」と鼓舞するのは、逆効果になりかねません。なぜなら本人は「どれだけ努力しても報われなかった」という認識を持っているので、「もっと頑張ったところで結果は変わらない」と思い込んでいるからです。

そして、「自分の方が努力して成果も上げているのに、同僚の方が高く評価されるのは納得がいかない」と「不公平感」を抱いている部下に対して、「同僚と比べて自分の評価が低いと思っているのは、自分自身を過大評価しているからではないか。もっと謙虚になって日々精進しなさい」と諫めたところで、本人の考えを真っ向から否定して、こちらの意見を伝えようとしているだけで、相手にとっては素直に受け入れ難いでしょう。

モチベーションを上げる接し方

それでは、明らかにモチベーションが下がっている部下や新入社員のやる気を取り戻させるために、どのように接するべきなのでしょうか? 前述したとおり、モチベーションが低下している状態には色々な要因と状況があり、それぞれに適した対応方法があると考えられますが、ここではいずれの状況においても効果的な接し方をご紹介します。それは、大まかに分けて3つのステップで構成されます。

最初のステップは「観察」と「承認」ですが、これらについて説明する前に、あなたに質問です。

モチベーションが下がっている部下または新入社員は、今朝どのような服装で出社していましたか? 顔色と表情はいかがでしたか? 口調は? それらはここ1カ月間で何か変化がありましたか? これらの問いかけに何も答えられなかったとすると、相手のことを見ていたようで、本当のところはその存在をしっかりと認識してあげられていなかったかもしれません。

まずは自分から、関心を持って相手のことを「観察」しましょう。そして1日に1回、何か気づいたことを相手に伝え、その存在を「承認」してあげてください。

例えば、相手が普段より少し早く出社したなら「今日は出社、いつもより早いんだね」と声をかけてあげると、相手は「この人はいつも自分のことを気にかけてくれているんだな」と感じ、それが信頼感を醸成するきっかけになるでしょう。なお、「観察」を怠って「承認」だけやろうとすると、取ってつけたような声かけになってしまい、かえって逆効果になることも考えられるので、気を付けましょう。

次は相手の話の?「傾聴」と「共感」です。相手のモチベーション低下の要因が「孤独感」「劣等感」「無力感」「不公平感」のいずれなのか、またはその他にあるのか、本当のところは本人から話を聞き出さないとわかりません。そのため、まずは相手の話を遮らずに徹底的に「傾聴」しましょう。そして相手が最後まで話し終わるまでは、決して話の腰を折ったり否定したりせず、代わりに「共感」を示しましょう。そうすることで、相手に「この人には何を話しても安心だ」と思わせることが大事です。

ここで共感を示さずに、「あなたの考えは根本的に間違っている」とか「そんな甘いことを言っているから、いつまで経っても成長しないんだ」などと相手を否定するような言葉をぶつけては、相手が殻に閉じこもってしまうだけなので、もし言いたくなっても、ぐっと堪えてください。

共感を示してあげたら、次は「問いかけ」です。「共感」をすることで心に寄り添い、安心感を与えることはできますが、それだけではまだ本人が感じる問題は解消されません。そこで今度は「今の状況が、どのようになると良いと思いますか?」と聞いてみましょう。そして、何らかの回答があったら、次に「では、その状況を実現するために自分にできることは何ですか?」と質問するのです。「共感」を示すステップまででしっかり相手の心を掴むことができていれば、ここで相手に適切な「問いかけ」を行うことで、自分自身に答えを出させ、ひいてはモチベーションを上げ、前向きな行動に移させることができるでしょう。

本稿では、部下や新入社員のモチベーション低下という問題に適切に向き合い、前を向かせるための接し方についてお話しました。言うまでもなく、人と人のコミュニケーションには無数のパターンが存在し、唯一絶対の解があるわけではありません。しかしながら、常日頃から相手のことをよく観察し、存在を承認し、話に耳を傾け、共感を示し、問いかけをするというステップは汎用性が高い対処方法です。ここでは部下や新入社員の例を使ってお伝えしましたが、そこに限らず仕事仲間のモチベーション低下で生産性が落ちているなと感じた場合は、ぜひ試してみてください。

筆者プロフィール: 相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。