本連載の第21回では「仕事仲間のモチベーションを気にかけていますか?」と題し、部下や新入社員など、職場の仲間のモチベーション管理のポイントをお伝えしました。本稿では、効率的に仕事を進める上でモチベーション管理と並んで欠かせない、スキル管理の要点をお話します。

個々のスキルが異なることを考慮しよう

部署やチーム全体の稼働状況に加えて、メンバーのモチベーションも考慮して仕事を振っているのに、どういうわけか想定より時間がかかってしまったり、中途半端なアウトプットが返ってきてしまったりすることはありませんか?

過去の実績を基に仕事の作業時間を正確に見積もって割り振っているのに、なぜ納期に間に合わせられないのか。実はさぼっているのではないかと疑ったり、適当にこなしたらいいやと手を抜いているのではないかなどと勘繰ったりしても、組織のコミュニケーションがギクシャクするだけで、残念ながら事態の好転は望めないでしょう。

決められた手順を一定のルールに従って行う定型的な業務であれば、マニュアルを使うことで、ある程度は業務の標準化を図ることができます。とはいえ詳細なマニュアルを導入しているような業務であっても、資質や経験の差が存在する以上、人によって作業スピードや品質に多少のバラツキが発生することは避けられません。

まして手順が定められておらず、判断の拠り所となるルールもないような非定型的な業務であれば、スキルの違いによる業務効率と品質の差が顕著に表れることは珍しくないでしょう。

しかし、そのことを考慮せずに部下やメンバーに仕事を振ってしまう人は、意外と多いように見受けられます。よくあるのは、「自分が若手だった頃は、これくらい軽々とできたから、あなたにもできるはず」とか、「同期の田中さんは1日でできたから、同じように1日でできるよね」というように、「自分や周囲の人間と同等のスキルを当然持っているだろう」という前提で仕事を割り振ってしまうことです。

ところがよく考えてみると、その人が自分または同期の田中さんと全く同じ資質と経験を有しているということは滅多にないでしょうし、故にスキルも全く同じであることは本来見込めないはずです。それなのに、自分や他の人を引き合いに出して「同じスキルを持っているだろう」と考えるのは、「日本人は英語が苦手だよね。あなたも日本人だから英語は苦手なんでしょう」と決めつけるのと同じくらい雑な論理と言わざるを得ません。そこで、まずは個々人のスキルの差を認め、各人には別々の得意分野と苦手分野があるということを意識しましょう。

「幅」「深さ」「成長スピード」の3軸で捉える

「スキルには個人差があるということを意識しよう」といっても、では具体的にはどうしたらよいのでしょうか? スキルについて考える際は、「個々人のスキル」と「部署/チーム全体としてのスキルの総和」の両方を考える必要がありますが、まずは前者に焦点を当てて考えてみましょう。

スキルについて考えるときは、何よりもまず「何のスキルを持っているのか」がわからないと話になりません。特に非定型的な仕事をする際には、何のスキルを持っているのか、その「幅」の広さが、まず問題になります。例えば営業であれば、顧客のニーズを聞き出すヒアリングスキル、ニーズに合ったソリューションを考えるスキル、それを文書にまとめる資料作成スキル、さらに顧客にわかりやすく伝えるプレゼンスキル、関係部署と調整する交渉スキルなど、数多くのスキルが求められます。そこで、まずは仕事を最初から最後までやり遂げるまでの間に、どのようなスキルが必要なのかを洗い出し、個々人が何のスキルを持っているかを調査・整理することからやってみるとよいでしょう。

スキルの「幅」を可視化できたら、次は「どれだけ高度なスキルを持っているのか」、いわばスキルの「深さ」を明らかにします。例えば、ある人が「英会話のスキルを持っています」といっても、それだけでその人に海外の大事なクライアントとの折衝を一任するのはあまりにリスキーですね。その人の「英会話のスキル」が日常会話レベルなのか、社内の各部署との調整ができるレベルなのか、取引先と重要な交渉ができるレベルなのか、といったスキルの「深さ」を考慮することで、初めて何の仕事を任せられるかを判断できるということです。

なお、スキルの「深さ」を評価する際には、上述したようなシチュエーション別のほかにも、会社によっては「Lv.1 全面的にサポートしてもらえばできる」「Lv.2部分的にサポートしてもらえばできる」「Lv.3 全て一人でできる」「Lv.4 人に教えることができる」「Lv.5 その分野で第一人者として認められている」というような汎用的な基準を設ける場合もありますので、ご参考まで。

ここまででスキルの「幅」と「深さ」を見てきましたが、忘れがちなのが最後の1つ、「成長スピード」です。人は経験を積むことで日々成長していくので、「これまでできなかったから」または「やったことがないから」といって、これから先もできないと決めつけてしまうのは時期尚早です。その人のこれまでの実績を元に割り出した「成長スピード」を踏まえ、たとえ全く新しい仕事でも、スキルの「幅」の拡幅と「深さ」の深化のスピードが十分に速ければ、任せることができるかもしれません。

スキルマップを活用しよう

個々人のスキルについて、ある程度、把握・整理できたら、今度は部署/チーム全体のスキルを棚卸ししましょう。個々人が協力し合うことが一切ない個人商店の集まりのような組織でなければ、組織全体として、どのようなスキルを保有しているのかを把握し、それに稼働率やモチベーションも加味して仕事を割り振ることは、生産性を向上するために欠かすことはできません。

そこでお勧めなのが「スキルマップ」を作成・運用することです。スキルマップとは、組織全体で何のスキルをどの深さで持っているかを平面上に可視化したものです。作成方法はいたってシンプルで、まず縦軸にスキル、横軸に人の名前を入れたマトリクス(表)を作成します。そしてスキルと名前が交差したマスに、その人が持っている該当スキルの深さを記入します。その際、スキルの深さを表すのに色を使うと一瞥して直感的に把握できるのでお勧めです。

なお、色を用いる場合に何も考えずに適当にやってしまうと、かえってわかりにくくなってしまうので気をつけましょう。色相(「赤」「青」のような色の違い)を1つに絞り、彩度(色の鮮やかさ)か明度(色の明るさ)のいずれかのみを調整し、スキルの深さの基準ごとにあてがってグラデーションで表現すると一気に見やすくなります。

スキルマップができたら、それを見ながら仕事を割り振っていくと、組織全体として各人の得意なスキルを最大限に活かしてパフォーマンスを発揮させることができるようになります。また、稼働率に余裕があるときは、個々人、ひいては組織全体のスキルを上げるために、スキルマップ上で手薄になっているスキルが必要な仕事を敢えて割り振ることで経験を積ませ、スキルの底上げを図ったり、偏ったバランスを正したりすることに挑戦してもよいでしょう。

本稿では仕事を遂行する上でスキルを考慮することの重要性と、スキルの評価軸、そしてスキルマップで組織全体のスキルを可視化する方法についてお伝えしました。ご自身の組織でもスキルを考慮した仕事配分によって生産性の向上に役立てていただければ本望です。

筆者プロフィール: 相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。