本連載の第206回では「基本に立ち返ってロジカルシンキングを身につけよう」という話をお伝えしました。今回は、働きやすい環境を作る上で重要な心理的安全性についてお話します。

私たちを取り巻くビジネスの世界は日々激しく変化しています。テクノロジーの進歩、環境変化、そして競争の激化に対応するためには、組織としての能力を最大限に引き出す必要があります。そのためにはスキルや才能だけでは不十分で、その基盤となる働きやすい環境が欠かせません。その中心にあるのが「心理的安全性」であり、この要素がビジネスで成果を上げるのに直接的な影響を及ぼすのを理解することが重要です。

そもそも、心理的安全性とは何でしょうか。心理的安全性とは間違いを恐れず、意見や疑問を自由に表現できる環境を指します。心理学者のエイミー・エドモンドソンが提唱したこの概念は、個々の意見やアイディアが尊重され、その結果として全体のチームパフォーマンスが高まることを示しています。

具体例としては、Googleの「アリストテレスプロジェクト」があります。Googleは、優れたチームにどのような特徴があるのかを理解するために数百のチームを調査した結果、心理的安全性が最も重要な要素であることを発見しました。心理的安全性が高いチームでは、メンバーは自由に意見を表現し、リスクを取ることが可能でした。その結果、これらのチームは創造的なアイディアを生み出し、困難な課題に対処する能力が高まりました。

心理的安全性が高い環境で働くことのメリットを詳しく見てみましょう。第一に、創造性とイノベーションが促進されます。メンバーが自由に意見を述べ、新しいアイディアを提案できる環境では、従来の枠を超えた新しい解決策が生まれやすくなります。新製品開発のプロジェクトチームでは、心理的安全性が高いとメンバーが独自のアイディアを提案しやすく、それが新しい製品やサービスの開発に直接寄与します。

第二に、コミュニケーションと協力が促進されます。自分の考えや感情を安全に表現できると、他のメンバーとの理解や連携が深まります。問題が発生した時、心理的安全性が高いチームでは、メンバーはその問題を積極的に共有し、それに対する解決策を迅速に見つけ出すことができます。それによって問題解決の速度が上がるだけでなく、全体的なチームワークと生産性が向上します。

第三に、心理的安全性が高まると、組織全体のメンタルヘルスにも良い影響があります。人々が安心して働ける環境では、働く人の仕事へのエンゲージメントが高まり、結果として離職率が低下します。また、従業員の満足度やモチベーションも向上します。

では、どのようにして心理的安全性を高めることができるでしょうか。そのための方法を以下で説明します。

1. リスクをとることの価値を強調する

チームを構成するメンバーに、新しいアイディアを提案することや問題を提起することの価値を理解してもらうことが重要です。例えば、失敗から学ぶ文化を作ることにより、失敗を過度に避けようとするのではなく、リスクをとって挑戦することが重要であると伝えることができます。

2. 開放的なコミュニケーションを促進する

メンバーが自分の考えを自由に表現できるようにするために、定期的なチームミーティングやフィードバックセッションを設けることが効果的です。また、リーダー自身が自分の考えや感情を率直に共有することで、他のメンバーもそれに続くことができます。

3. 公正な処置と透明性の確保

公正で透明な意思決定は、心理的安全性の強化に不可欠です。リーダーとしては、メンバーへのフィードバックを公正に与え、評価基準を明確にすることが求められます。これにより、メンバーは自分がどのように評価されるかを理解し、公正に扱われていると感じることができます。

以上のような手段を講じて心理的安全性を確立することで、人々が働きやすい環境を作り出すことができます。このような環境は、ビジネスの成功と持続的な成長に寄与します。我々全員が、自分自身と他の人々に対して安全で開放的な環境を作り出すことを目指し、これからの働き方を改善するべきです。それがビジネスパーソンとしての成長、そして組織全体の成功への道となるでしょう。