本連載の第205回では「ビジネスパーソンが知っておくべき認知バイアスのビジネスへの影響」という話をお伝えしました。今回は、若手ビジネスパーソンが身につけるべきロジカルシンキングについてお話します。

Chat GPTなどの生成系AIの進歩と社会への浸透が進んでいます。それに伴い、私たちビジネスパーソンの仕事もどんどんAIに任せるような動きが活発化しており、自分の仕事がAIに奪われてしまうのではないかと戦々恐々としている方もいるでしょう。

最近ではノーコードと言って、ロジカルシンキングが最も求められるプログラミングのスキルを持っていない人でもAIを使ってアプリケーションを作成できたりするため、ロジカルシンキングではAIに勝てないから身につける価値がなくなってきているのでは、という話を聴くことがあります。

しかし本当にそうでしょうか。確かにプログラムは厳密なロジックで組み立てられており、ひょっとすると人がコーディングするよりAIに任せた方が良い場合もあるかもしれません。しかし、そもそもデータ化されていない情報を分析したり、そこから何かの意思決定をしようとする場合においては、AIが役に立つケースはまだ少ないのではないでしょうか。そして、そのような仕事をする上ではやはりロジカルシンキングのスキルは欠かせないでしょう。

それでは、以下ではイスラエル・アメリカの心理学者、行動経済学者のダニエル・カーネマン氏の名著、"Thinking, Fast and Slow"の内容を基に、思考におけるロジカルシンキングの位置づけと特徴をお話します。

1. 思考は高速と低速

カーネマン氏は思考を「システム1」と「システム2」の2つのシステムに分けます。システム1は「速い」思考、すなわち、直感的で無意識的な思考を指します。例えば、大勢の人々が即座に行動を起こさなければならない瞬発的な判断を求められる状況、交渉やプレゼンテーションなどで、システム1が活動します。

一方のシステム2は「遅い」思考、つまり、論理的で意識的な思考を指します。これは、新しいプロジェクトの提案や複雑な問題の解決など、より深い思考と複雑な計算が必要な場面で使用されます。これらの思考システムがどのように連携し、どのように衝突するかを理解することは、我々が日々のビジネスにおいて意思決定をする上で非常に重要です。

なお、意思決定の際にはクリティカルシンキングの活用が効果的です。クリティカルシンキングは、情報を客観的に分析し、課題を解決するための合理的な選択肢を形成するプロセスであり、これは実質的にシステム2の活動です。システム2によって情報を正確に解釈し、複雑な問題を解析し、信頼性のある結論を導き出す能力が、効果的な意思決定に欠かせません。

2. 直感に頼るリスク

直感的な思考(システム1)は、瞬時の判断を可能にします。しかし、それは常に信頼できるわけではありません。ビジネスの世界は複雑であり、我々の直感は時として誤った方向へと導くことがあります。たとえば、あるプロジェクトが成功するという初期の予測が、事実に基づかない自信によるものであった場合、それは重大な損失につながる可能性があります。カーネマン氏によると、私たちは過度に自信を持つ傾向があり、また、利用可能な情報を誤解することがあると警告しています。

3. ロジカルシンキングの練習

では、システム1のロジカルシンキングを身につけるにはどうしたらよいでしょうか。そのためには自分自身の思考過程を注意深く観察し、直感的な判断と論理的な分析の間のバランスを適切に保つことが必要です。それには、次のような手法が有効です。

自分の直感に疑問を持つ。 自分の最初の反応をそのままに受け入れてしまうのではなく、それを疑い、評価します。たとえば、会社で部下や同僚が出した提案が即座に「良い」または「悪い」と感じるかもしれませんが、それを受け入れる前に、その提案の様々な側面を深く理解する時間を取ることが重要です。

また、データに基づいて判断するのも重要です。 感情や直感に依存する代わりに、可能な限り客観的なデータに基づいて決定を下すようにします。たとえば、新しい製品の販売予測を行う場合、過去のデータと市場分析を基にした数値に基づく予測が必要です。

敢えて反証を探すのも良いでしょう。 自分の考えや仮説が間違っている証拠を探すことで、自分の見解をより厳密にします。自分が出す提案は必ず成功すると信じているかもしれませんが、それが残念ながら失敗する可能性があるのではないかと疑って、その証拠を探すことは、最終体により良い判断を下すことに繋がります。

これらの点を踏まえて実践で活かすことで、より効果的なロジカルシンキングや意思決定を行うことができるようになるでしょう。いつでも基本に立ち返り、ロジカルシンキングを活用することが、複雑なビジネス環境での成功への鍵です。