本連載の第165回では「部下が受け身でいる3つの原因とは」という話をお伝えしました。今回は前回のテーマを引き継ぎ、部下の主体性をさらに引き出すための方法についてお話します。

「言われたことしかやらない受け身の姿勢の部下をどうやって変えるか」

このテーマはいつの時代でも多くの職場で議論されてきたのではないでしょうか。そして今なお、悩んでいる上司は後を絶ちません。

部下の主体性を引き出すにはどうしたらよいのでしょうか。全く主体性がなく自分から動かない部下の場合、最初から高いレベルの主体性を持ってもらおうとするのには無理があります。下手をすると部下は反発して一層、受け身の姿勢に固執してしまいかねません。そこで、最初は小さなところから徐々にステップアップしていく段階的な対応の仕方が適切と考えます。ここでは、そのためのステップ1から3までの段階を説明します。

ステップ1. 公の場で自分の意見を発表させる

主体性が全くない部下に対して、いきなり責任の大きな取り組みを任せるといったことをするのは無謀です。もちろん、部下の中にはそれをきっかけとして一気に成長する人もいるかもしれませんが、失敗した場合のダメージが大きすぎます。

そこで、小さな目標から達成していくアプローチをお勧めします。まずは5人までくらいの少人数での会議で「あなたはどう思いますか?」などと部下に振って意見を出させたり、プレゼンをしたりする経験を積ませるのがよいでしょう。

それが慣れてきたら、意見を促したりプレゼンしたりする場を徐々に大人数での会議や部署横断の会議、または社外との会議などの規模や難易度の高い会議にシフトしていきます。そうすることで徐々に場慣れしていくのとともに、自分から積極的に意見を言ったりプレゼンしたりするために必要な自信を身に着けることが期待できます。そして自信を持つことができれば、部下が失敗を恐れずに自分から動くための基礎ができます。

ステップ2. 意思決定に関与させる

公の場で意見を出したりプレゼンしたりするのに慣れてきたら、今度はチーム或いは部署レベルの意思決定に関与させるとよいでしょう。誰か他の人が決めたことに従うだけでは主体性はなかなか育ちません。「自分が決めたこと」や、そこまでいかなくとも「自分が決定に関与したこと」であれば、その決めたことに対してオーナーシップを持つことができます。

そこで、最初はインパクトが大きくない案件についての意思決定の場に部下を参加させて、意思決定の当事者の一人にさせるという経験を積ませるとよいでしょう。そこから徐々に大きい案件に移っていくことで、「自分の意見が組織の行動に影響を与えることができる」という自己効力感を育ててましょう。

「自分が組織の意思決定に関与できている」という感覚を持つことができれば、ただこなしていただけの仕事が「やらされ仕事」ではなくなり、その意義を考慮して主体的に動けるようになることが期待できます。

但し、これは意思決定の場に参加させるだけではなく、周囲の人たちが実際に部下の意見にも耳を傾けて、取り入れるべきものは意思決定に反映させ、そうでないものは反映させない理由をしっかり伝えるという丁寧な対応が前提となるのでご留意ください。

ステップ3. プロジェクトを任せる

最初のステップで公の場で意見を出させたりプレゼンさせたりして、2番目のステップで意思決定にも関与させることで、それなりに部下の主体性が育ってきたら、次のステップでは部下にプロジェクトを任せるとよいでしょう。

プロジェクトといっても、最初から予算規模の大きいものを任せるのは難しいと思うので、最初は1~3人ほどでの小粒な規模のものを任せるのがよいでしょう。そして、そのプロジェクトの責任者として会議などの公の場で任命し、定期的に進捗報告させます。

オーナーシップを持ってプロジェクトを進めるという経験は、それがたとえ失敗に終わったとしても部下の財産になります。また、「自分が主体的に動かないと確実に失敗する」という状況を経験することで、当該プロジェクトの終了後も同じスタンスで仕事に臨むための土台が固まります。

この経験を活かすためにも、上司は過度に口を挟まないことが重要です。部下が不慣れなうちは色々言いたくなる気持ちは分かりますが、それではこれまでと何も変わりません。「このままでは失敗するかもしれない」と思ったとしても、部下が自分で気が付くまで極力、我慢しましょう。

もちろん取返しのつかない事態だけは回避しなければなりませんが、どうしてもというときには最低限の介入に留めるようにしましょう。

本稿では部下の主体性を引き出すための3つのステップをお伝えしました。今の部下のレベルに応じてステップを使い分けると、より効果が期待できます。