本連載の第152回では「手間暇かけた丁寧な仕事、見直してみませんか」と題し、とにかく手間をかけて丁寧な仕事をしようとすることが却って効率の低下を招いてしまう、ということをお伝えしました。今回はミスが発生する度にチェック体制を拡充することの問題点についてお話します。

「メールの送信先を誤った」
「紙の帳票を基にシステムへデータ入力していたが転記ミスが起きた」

自分自身や職場の同僚による、こうしたミスは珍しいことではないでしょう。人間は誰しもミスをするものなので、どれだけ気を付けていても100%ミスをなくすことは困難です。特に多くのデータや書類、メール、電話などを扱う人にとっては常にミスと隣り合わせなのではないでしょうか。

それもそのはず、仮にミスの発生確率が約0.1%(1,000回に1回)だった場合、その作業を10回しか行わないものであれば、そうそうミスが発生することはありませんが、10,000回行えばその内、10回程度はミスが発生することになります。

10,000回というと途方もない数のように感じるかもしれません。しかし帳票などの資料を見ながら1件ずつデータを打ち込む仕事であれば1日に100件程度入力するということは珍しくありません。その場合、100日で10,000件になるので営業日ベースで考えると5カ月で10件ほどの入力ミスが発生する計算になります。

また、1日にメールを平均20件送るという人であれば、50日で1,000通のメールを送ることになるので、ミスの発生確率が0.1%であれば2~3か月に1通は何らかのミスがあってもおかしくはありません。こうしたことを踏まえて、「人が行う以上、ミスは必ず発生する」「人が行う作業の量や頻度が多くなればなるほど、ミスは増える」という2点を押さえることが重要です。

それでは次に「どのようにミスをなくすのか」について考えてみましょう。よく見かけるのが「チェックを増やす」ということです。

  • チェックの例1. データ入力後、画面を印刷して1件1件、入力元の資料と入力したデータを目視で突合して合っているかをチェックする。

  • チェックの例2. 資料作成後、第三者に送って誤りがないかをチェックしてもらう。

1つ目の例ではそもそも印刷する手間がかかってしまうのと、データ量に比例して手間が増えてしまうので効率が極端に落ちてしまいます。続く2つ目の例では第三者の時間を奪ってしまう上に資料のやり取りの手間も余分に発生してしまいます。

また、ミス発生予防のためにこのようなチェックのプロセスを追加したにも関わらずミスが再発した場合に「同じチェック内容をさらに強化する」という対策を講じることがあります。しかし、これはさらに悪手です。というのも単に確認の手間が増えるだけで、あまり効果が見込めないからです。

たとえばミスが発生した作業について、ミスの発生予防のために作業者自身がチェックしたものを別の人がチェックし、さらにまた別の人がチェックするという三重のチェック体制を敷いたとします。一見、完璧なミス発生予防体制に思えるかもしれませんが、実際はそうなりません。

仮にご自身が第二、第三のチェック担当者だったとすると本当に毎回、作業の隅々まで細かくチェックするでしょうか。「他の人もチェックしているから自分ひとりが少しくらいチェックを省いても問題ないだろう」という意識になるのも無理はないでしょう。

本来は、このようにチェック体制を強化するのではなくミスの発生原因を追究して、根本的にミスが発生し得ないように工夫することが必要なはずです。そうすればわざわざチェック体制を敷いたり、ましてやそれを強化したりして手間を増やす必要はなくなります。

ではどうすればミスの発生自体を抑制することができるのでしょうか。これは当然、その作業やミスの内容にも寄りますが、原則は以下の3つに集約できると考えられます。

ミス削減の原則1. 作業そのものを減らす/なくす

ミスの発生件数や発生頻度をなくすには、そもそも作業自体の量や頻度を減らすのが最も手っ取り早い方法です。

たとえば、あるシステムのデータを紙に印刷して、その紙を見ながら別のシステムに入力するといった作業があったとします。この場合には、そもそもシステム間をデータ連携できるようにするとか、あるシステムからデータをCSVにエクスポートして、それを別のシステムにインポートするといった工夫を凝らすことで、手入力そのものを排除してしまうことでミスを大幅に減らすことができるでしょう。

また、作成した資料を関連部署にメールで送信する作業であれば、資料を共有データベースに格納して、関連部署の人がそこにアクセスできるようにすることでメール送信という作業をなくし、ミスも減らせることができます。

まずは「どうしたらその作業を減らせるか、なくせるか」と考えてみましょう。

ミス削減の原則2. 作業を単純化する

人間の認知能力には限界があるので、多くのことに注意を払わなければならない作業においてミスが発生するのは自然なことです。あまりに煩雑な作業や複雑な判断を伴うようなことを行えば、作業ミスや判断ミスの発生確率が上がることは容易に想像がつきます。

このような場合においては作業や判断の内容を見直して過剰なパターンを減らしたり、作業プロセスを短縮化したり、判断ロジックを簡素化するといった対応が効果的です。また、システムやエクセルなどのアプリケーションを使う作業であれば、入力プロセスやフォーマット、或いは関数などの機能を活用して、人が行う作業を補完することで作業そのものを簡素化することも効果的です。

過度に複雑な作業や判断がないかを精査し、簡素化できないかを検討してみましょう。

ミス削減の原則3. 自動化する

作業を減らし、単純化した上で、まだミスが発生するような作業については自動化できないか考えてみましょう。特に手順が定型的で明確に定められており、何度も繰り返すような作業においては自動化が絶大な効果を発揮します。

データの入力や集計、分析などはもとより、資料の作成や移動、PDF化など、パソコン上で行う作業の多くは定型的なものであれば、その多くにおいて自動化ができます。自動化の手段としてはエクセルの関数やピボットテーブル、マクロといったお馴染みのものから、Windowsのコマンドプロンプトやバッチファイル、タスクスケジューラ-といったもの、そしてRPA(Robotic Process Automation)というツールもあります。

紙面の都合上、ここでは個々の説明は割愛しますが作業を自動化する手段は既にご自身のパソコンの中にあったり、色々なベンダーのアプリケーションなどで提供されていたりするので、気になったものがあれば調べてみることをお勧めします。

いずれにせよ、一つ言えることは「人の作業にはミスはつきもの」ということです。その作業を自動化してその仕組み自体に問題がないことがしっかり検証できたら、人が行うより遥かにミスの発生を抑えることができます。ぜひ自動化できる余地がないか調べてみましょう。

最後になりますが、「ミスが発生したらチェックを増やす」というのは対症療法に過ぎず、際限なく手間を増やすことになりかねません。そうではなくミスの発生原因を追究して、そもそもミスが発生しにくい仕組みに変えることが必要なのではないでしょうか。