本連載の第122回では「会社のブランドから個人のブランドへシフトしよう」と題し、これからの世界では個人のブランド力を向上することが必要とお伝えしました。今回は可視化の力を使って議論の停滞を打破するために押さえておくべきポイントについてお話します。

9月以降、全国の新型コロナウイルス感染者数の減少傾向が続いています。19都道府県に発出されていた緊急事態宣言は解除され、経済活動は正常化に向けてゆっくりと戻りつつあります。その一方、東南アジア諸国での新型コロナの感染再拡大に伴うサプライチェーンへの影響や原油高と円安による物価上昇など、ビジネスを取り巻く環境は常に変化に晒されています。さらにはこうしたマクロの環境に加えて社内でも人手不足や業務のデジタル化、リモートワークの推進に伴うオフィスの縮小など色々な問題や取り組みも発生していることでしょう。

このような社内外の環境変化に常に晒されている以上、今の職場が今後も安泰と言い切れる人はどれだけいるでしょうか。多くの職場において、生き残るためには次々に発生する問題に手を打たなければなりません。そして、そのためには発生している問題の整理や原因の分析、打ち手の策定と実行、さらには評価と修正のプロセスを迅速に回すことが求められます。

ところが現実には、職場のリーダーが問題について話し合う場を設けても、一向に話がまとまらないという話をよく聞きます。それには部署の縄張り意識が邪魔をしていたり、最低限必要の情報が揃っていなかったりといった様々な要因が考えられます。その中でもよくあるのが、現状認識や問題分析の議論が複雑なために全体像を把握できなくなることです。全体像が分からないまま議論を続けても解決に至ることはありません。それは地図やコンパスを持たずに未開の地を旅するようなものです。

こうした手詰まり状態を打破するのに使えるのが、可視化です。現状、目指す姿、問題の構造、議論そのものなど、問題解決に必要な要素を可視化するのです。それによって参加者の間で議論の全体像についての共通認識が生まれ、議論を前に進めることができます。

なお、この可視化自体には様々な形式がありますが、その代表格はなんといっても言語です。口頭で議論されている内容を文章、或いは箇条書きなどで記述する方法です。「なんだそんなことか」、という人もいるかもしれませんが、議論の言語化といっても、ただ言葉を書けばよいというわけではありません。複雑な議論を複雑なまま文字に起こしただけでは、記録として残す意味はあっても議論を前に進めるという目的には不十分でしょう。その際に押さえておくべきポイントは要約、分類、階層、関連の4つです。

1. 枝葉末節をそぎ落としてスリム化する「要約」

口頭で話していると、テーマを設けていても本題から脱線したり、余分な情報が入ったりするものです。そして、それをそのまま文章にしてしまっては情報過多になり、議論の参加者全員が共通認識を持つことは難しくなってしまいます。

そのため、話の中で本質的に重要な部分のみを抜き出して記述する、いわゆる「要約」をすることが不可欠です。その際には1つの内容につき短文で表す場合と、キーワードだけを切り取って表す場合があります。シンプルなのは言うまでもなくキーワードで、議論の参加者の間で背景の理解を十分に共有できている場合には使えます。ですがその前提がない場合には、誤解を招かないように短文で記述するのをお勧めします。

2. 何についての話かを表す「分類」

要約によって不要な情報を減らせたとしても、キーワードや短文それ自体の数が多すぎて雑多に配置されたままでは有益な議論には至りません。そこで、キーワードや短文が何について話しているのか、どこの領域について話しているか、いつのことを話しているかなど、意味のあるまとまりごとに枠で囲んだり近づけたりすることで「分類」するのが欠かせません。例えば「賛成意見」「反対意見」、「本社」「支社」、「過去」「現在」「未来」、などのワードで分類するといったイメージです。

3. どのレベルの話かを表す「階層」

議論の内容を要約し、分類できたとしてもまだ何か違和感を覚える場合があります。その場合には記述した文章やキーワードのレベルが異なるかもしれないので確認し、もしズレている場合には揃えましょう。例えば、「日本では・・」「アメリカでは・・」という記述があって、他方では「ロンドンでは・・」「パリでは・・」などの記述があったとすると、国家レベルと都市レベルの話が入り乱れているので話にズレが生じやすくなります。ここまで露骨であれば誰でも気が付くでしょうが、話が込み入ってくるとレベルのズレに気が付かずに議論が噛み合わなくなることがあるので、敢えて意識して確認して揃えるようにしましょう。

4. 論理的な繋がりを表す「関連」

議論の内容を要約、分類、階層できたらあと一歩です。その書き出した短文やキーワードの関連性を明記しましょう。論理的な関連性には様々なパターンがあります。例えば手順などの順序(Aが終わったらBに取り掛かる)、ものごとの原因と結果を示す因果関係(AによってBが発生する)、対比(AよりBが大きい)などです。短文やキーワードの記述の間にある、こうした関連性を示すことでより精緻な議論ができるようになり、何が真に解くべき問題なのか、どこに注目すべきかといった本質的なことに目を向けやすくなります。

ここに挙げた4つのポイントは必ずしも全て精緻に行わなければならないということではありません。しかし、もし問題解決のための議論が噛み合わないとか、堂々巡りになるといったことがあれば、これらのポイントを意識しながら議論を可視化することで打破できるかもしれません。ぜひ職場で試してみてください。